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新たな問題

 ここはチェラズスフロウレス城玉座の間。アンスリウムはジャスミンとの通信を終えると玉座に座り、目の前にひざまずく家臣たちを見(なが)ら、横に立つ侍従長レドックに話しかける。


「モノーケランドのマイコメールと言えば、確か俺の傘下の一人がいたな」

「“凍将のスノードロップ”侯爵令嬢がおります」

「ああ。スノウか。氷属性の魔装ウェポンを使う俺の左腕の地位に置いてやってる女だったな」

「はい。ですから、万が一にも元国王ウルイがモノーケランドに逃げ込んだ際に、確実に始末するようにと重要な任務を与えていました」

「奴は特別優秀だ。実力だけで言えばお前よりも強いからな。疫病も奴が撒いたのだろう。そうとも知らずに村を閉鎖とは、妖園霊国も無能の集まりか? しかし、そうだな……。寮長が動いているとなると、念の為に救援を向かわせた方がいいか」

「ランタナ殿下のでしょうか?」

「表沙汰はな。なにせ寮長の実力は未だに未知数だ。俺の予測だと、俺の実力とほぼ同じと考えた方が良い。万が一にもそんな相手を敵に回して、スノウ一人で勝てるわけがないからな」

「アンスリウム様の実力と同等? まったく貴方様と言う人は冗談がお好きだ。神に等しい魔装ウェポンを持つアンスリウム様と渡り合えるとしたら、今は亡き聖女くらいなものでしょう」

「ふ。例えそうであったとしても、慢心は良くないからな。どちらにせよ、寮長が厄介なガキだと言うのは変わりない。それなりに使える奴を向わせろよ」

「は。その様に」


 レドックがこの場を立ち去り、アンスリウムはまるで神にでもなったかのような笑みを浮かべる。神に等しいと言われ、当然と言わんばかりに気持ちを高揚させていた。この世に自分を止められる者はいないと慢心している。しかし、彼はまだ知らない。死んでいると思っている家族や聖女が生きていると言う事に。




◇◇◇




 所変わって妖園霊国モノーケランドのマイコメール村。ランタナとリベイア、そして水の精霊プリュイと火の精霊ラーヴは、病に倒れた人々を収容する為に設置された野営地で走り回っていた。


「ランタナ様! お湯を持って来ました!」

「ありがとう。今直ぐこの子に」

「はい!」


 リベイアがおけに入ったお湯を少年に差し出して、少年は手と足をお湯にけた。病の症状が出ると手と足の先から凍傷を起こすので、こうして温かいお湯に浸けている。でも、殆ど気休めで、これをしたからと言って治るわけでも良くなるわけでも無い。それでも何もしないよりはとやっているだけだった。


「リベイア。プリュイ先生とラーヴ先生は?」

「お二人は重い症状の出ている方が集められている場所に行っています」

「そうか。何か分かればいいのだけど……」

「はい……」


 頷くと、リベイアは自分の両手を口の前で広げて「ハア」と息を吹きかけた。

 そう。リベイアも病に侵されていたのだ。疫病が発生したのは、ランタナたちが村に来て直ぐの事だった。二人が無事である事を伝えてほしいとジャスミンに言う為に連絡を取り、チェラズスフロウレスではなくブレゴンラスドに連絡を入れてもらった。その後に疲労を回復する為に宿に泊まり、翌日に目を覚ますと、村の中で疫病騒ぎが起きていた。そして、危険な病気であれば病原体を外に持ち出してはいけないとなり、ランタナたちは出発を遅らせた。自分たちには関係ないと言って病原体を外に持ち出して、被害を拡大しない為に必要だと判断したから。

 村が閉鎖される程の事態になったのは、それから直ぐの事だった。村に残ったランタナとリベイアとプリュイとラーヴは、この事態に黙っていられず医者の手伝いする事にして、リベイアが感染してしまったのだ。それでも動ける内はと、リベイアは同じ症状の人たちが集められた野営地で頑張っていた。そこなら誰かに病気を移す心配も無いからと。自分も病人だと言うのに。

 ランタナはそんなリベイアの力になりたくて、感染者たちがいるここで手伝いをしていた。


「君達! 他国から来たって言ってたよな!? 悪いがこっちに来てくれ!」

「分かった! 今行く!」


 ここを任されている医者に呼ばれ、ランタナが返事をする。一国の王子に随分と気安い態度に思えるが、これはランタナたちが身分を隠して手伝っているからに他ならない。他所の国の王子が手伝うなんて言っても、きっと遠慮してしまって断られるかもしれないと思ったのだ。

 ランタナは手足をお湯を付けている少年に一言告げて、リベイアと一緒に医者の許に向かった。


「これは……」

「さっきまでこんな物は無かったですよね……?」


 医者に呼ばれてついて行くと、少し離れた場所に連れて行かれて、そこには直径百メートルはあろう氷の大樹が生えていた。しかし、それは今まで無かったもので、不気味にそびえ立っている。


「こいつが何なのか分からないが、非常に厄介なもんだってのは分かる。根元を見てみろ」

「根本……っ!?」

「地面が……少しずつ凍っていってる。ランタナ様。これは……っ」

「あ、ああ。本当に厄介だね。不味いよこれは。この速度なら一日そこ等じゃ無理だろうけど、村全体が凍ってしまう」


 ランタナとリベイアが見たのは、氷の大樹の根本から少しずつ地面が凍っていっている姿。それは本当に少しずつで、一分で十センチにも満たない程。だけど、着々と進んでいる。凍った地面に生えていた草木も同じように凍り、試しに小石を投げてみればそれも凍った。


「君達の国でもなんでもいい。こいつを見た事は無いか? 対処方法があれば教えてほしいんだ」

「いえ。私もこんな物を見るのは初めてです。ランタナ様はご存知ですか?」

「いいや。私も初めて見る」

「そうか。……しかし、いったい何なんだこいつは。動けない患者だっているってのに。どうすりゃいいんだ」

「諦める必要は無いよ。今この村には天翼会のプリュイ先生とラーヴ先生がいるんだ。何か知っているかもしれない。お二人の所に行こう。リベイアは少し休んでて。いいね?」

「……はい。分かりました」

「ああ。そうだな。君も症状が悪化したらいけない。私と彼で話をして来よう」

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