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面倒な知らせ

 誰もが忘れているであろうサンビタリアの下着姿で謝罪訪問は、中止になった。いや。正確には必要無くなったと言うべきか。サンビタリアは聖女の代弁者であるアネモネと一緒にプラーテの命を救ってくれた英雄として、民から称賛されたのだ。プラーテの命を救おうと溶岩に跳びこんだ英雄に謝罪させるなど、そんな恩知らずな事が出来るわけがないと民から声が上がった。サンビタリアはサンビタリアでそれでは自分の気がすまないと言った結果説得されて、謝罪を受けようと思う者は王宮に来るようにと話がまとまり、結局誰も来なかった。


「こうなったらやっぱり私が直接会いに行くわ」

(まじめ過ぎるのじゃ……)


 と言うわけで、サンビタリアは数人の侍従と護衛騎士を連れて王宮を出て行った。それが昨日の話になる今日と言う日。王宮に残ったミアたちに少し面倒な知らせが届いた。


「来れない……のじゃ?」

「はい。天翼会から先程連絡が入って、ランタナ殿下とリベイア様が滞在していた村が、やまいの影響で丸ごと閉鎖される事態におちいったようです」


 ここは王宮内にあるミアが借りている部屋の中。朝目が冷めてルニィに身支度をしてもらっていると、ネモフィラの侍従ルティアがミアに報告に現れ話を聞いて今に至る。


「今は詳しい情報を確認する為に、陛下がアグレッティ殿下とネモフィラ殿下を連れて、レックス陛下に直接天翼会と会話が出来ないかと直談判しています」

「それでお主がワシに知らせてくれたのじゃな」

「はい。陛下からはミア様が希望すれば連れて来てほしいと頼まれたのですが、どうなさいますか?」


 面倒な知らせと言うのは、ランタナとリベイアが滞在していた村で発生したえき病の事。二人がプリュイやラーヴと一緒に訪れたのは、妖園霊国モノーケランドの領内にあるマイコメールと言う名の村だった。田畑に囲まれた長閑のどかで落ち着いている田舎村で、稲作が盛んである。ブレゴンラスドの領土から近い為に年中気温が高めな村だけど、炎米えんまいと言う暑さに強い特産品の米がある。

 マイコメールでは今、かなり厄介な疫病が流行病になってしまっていた。症状は、軽症で体の体温が奪われて手先や足先が凍傷を起こし、重傷になると細胞がじわじわと凍結して死に至る言うもの。今のところ対策方法が無く、魔法では病気を治す事が出来ないので、医者頼りになるのだが治療方法も原因も分からない。

 現在分かっているのは、死者が出る可能性がある病で、空気による感染の恐れもあると言う事。その為、完全に村が閉鎖された状況になり、ランタナとリベイアも村を出る事が許されなくなってしまったのだ。


(感染症で聞いた事もない症状じゃのう……。しかし、ワシが行けばどうにか出来るかもしれぬのじゃ)


 ミアがそう考えたのは、ミアの聖魔法が普通の魔法とは違うからだ。聖魔法は死者を蘇生する事が可能で、更には病を治す事も出来るのだ。なんとも万能な魔法で医者いらずな魔法だが、しかし、ここで問題がある。それは、実は死者蘇生は死亡から一時間以内の者だけど言うもの。それ以上時間が経っていると、手遅れとなる。尚、寿命で死んだ者も蘇生不可だが、今回にそれは関係無いだろう。


(でも、ワシが魔法で治したら、絶対に祭り上げられるのじゃ)


 はい。ごめんなさい。違いました。完全にミア自身の都合でした。このダメダメなアホ……じゃなくてミアは、目立ちたくないだけでした。将来のんびりとした引きこもり生活を送る為に。

 ここで村を丸ごと疫病から救ったとなれば、間違いなく“聖女”として生活する事になる。正直言って、何を今更。な話ではあるが、ミアはアホなので大マジである。しかし、そんな事を言ってる場合でもないのも事実。

 ミアは何か良い方法がないかと考えた。一番良いのは疫病の原因を突き止めて、それに効く薬を生み出す事。あくまでも人の力で解決するのであれば、それに越した事はないし、何よりも予防が出来るようになる。ミアの聖魔法の力を使わなくても治せるなら、万が一再び同じ疫病が発生しても対策が出来るのだから、断然その方が良いのだ。だから、ミアは今まで自分が読んだ事のある本の内容を思い出し、何かヒントは無いかと考えを巡らせた。すると、そんな時だ。

 部屋の扉がバーン! と、ノックも無しに豪快に開かれる。


「な、なんじゃ!?」

「ミア! 大変です! ジャスミン先生が来ました!」


 驚いて扉を豪快に開けた者に視線を向ければ、我を忘れると王女としての振る舞いが無くなるネモフィラの姿が。背後には護衛のメイクーの姿もあり、少し気まずそうな顔である。


「天翼会のジャスミン先生が、ランタナお兄様とリベイアと一緒にいたプリュイ先生とラーヴ先生を助ける為に助っ人に参られたのです!」

「なんじゃとお!?」


 ネモフィラが告げた言葉は、とんでもない小さき大物の助っ人来訪の知らせだった。

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