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龍神国の決闘(3)

 ミアの攻撃で剣身にヒビが入った直後にラティノが殺気を放ったからか、ミアが勘違いしてビビって涙目になる。だけど、ミアも知っている筈なのに忘れている事がある。それは、ヒビが入ろうが壊れようが、魔装ウェポンは何度でも直す事が出来るという事。ただ、天翼会でしか修理不可能で、鍛冶屋などでは直せない。ましてや戦闘中に自分で直すなんて出来る筈も無く、ラティノの戦力ダウンはいなめない。それでもラティノの心の底から湧き出る覚悟は本物だった。

 長期戦は不利と判断して、次の一撃に全てを懸けるべく己の魔力を全て魔装ウェポンに集中し、剣身の硬質と切れ味の増加をする。ラティノから放たれる殺気は凄まじく、それは観客たちにも届き、緊張の空気が流れた。すると、それを受け、戦いを見守っていたネモフィラが耐えれず声を上げる。


「ミアー! 負けないで下さーい!」

「フィーラ……」

(仕方が無いのう。フィーラの前でかっこ悪いところは見せられぬし、女は覚悟が大事なのじゃ)


 友の応援に応える為にと、ようやくミアが戦う覚悟を決める。今までは流されて断れずに嫌々だったミアの遅すぎる覚悟だったが、それでもラティノを焦らせるには十分なものだった。ミアの目の色が変わったのを見ると、ラティノはこれ以上の時間は相手に与えられないと直感で感じとり、魔装ウェポンを構えた。


「これで決める」


 ラティノが呟き、魔装ウェポンの力を発動させる。すると、まるで地面に引きずられるようにミアとラティノの二人が同時に引き寄せられて、それは音速にも近い速度となる。

 常人であれば間違いなく逃げる事も防ぐ事も出来ずに、ラティノの斬撃を浴びて敗北を味わうだろう。それこそ一瞬の出来事で、何故自分が斬られたのか、何も分からず敗北を味わう事になる。しかし、相手はミアだ。所詮は音速程度の速さ。音速の領域など、覚悟を決め、戦う姿勢を見せたミアからしてみれば鈍足どんそくでしかない。

 ミアはミミミピストルを構えて、剣身で防がれないように右足を狙って撃つ。何故右足を狙ったのかは、ラティノが剣身を体の左側に構える居合切りのような構えをしていたからで、右足であれば防ぎ辛いと思ったから。思っただけなのがミアらしい所ではあるが、ミアは武術の達人でも何でもないのでそんなものだろう。しかし、その思っただけが事件を生んだ。


「――っあ」


 不意にこぼれた声はミアの口から発せられたもの。では、何故「あ」なのかと言うと、それは思いもよらぬ事が起きたから。


「――っえ?」


 次に出たのは疑問形。これはラティノが発したもの。さて、何が起きたのか? それは、まさにミアクオリティ。

 ラティノはビキニアーマーを着ているわけだが、ここで一つ、問題がある。ビキニトップスは、まあ、問題無い。しかし、ビキニボトムス。これが問題なのだ。この国の者は“下着はふんどししか穿けない”のだから。


「きゃあああああああああああああああああ!!!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 では、正解です。この国ではふんどししか穿けないけど、ふんどしの上からビキニアーマーのボトムスを穿くには、はみ出してしまうなどあって無理がある。だから、ラティノはノーパンだった。そして、ミアの炎の弾丸でビキニボトムスの言うなれば紐の部分がお亡くなりになって地面に落ちました。それはもうアーマーの重りに任せてストーンと。ラティノの悲鳴の後に聞こえたのは観客……と言うよりは、下半身丸出しになったラティノに興奮した野郎どもの歓喜の声です。はい。こいつ等全員まとめて最低である。


「す、すまぬのじゃ……」


 と言うわけで、右足を狙ったミアの弾がそんないかがわしい結果を生んでしまったのだけど、これには一応理由がある。決してわざとではないのだ。そもそもとして、ラティノがミアの銃撃を一度受け、対策をしたのが原因でもあった。

 ラティノがおこなった対策とは、ただ真っ直ぐに引き寄せるのではなく、右に左にとジグザグ走行を加えるというもの。音速の領域だからこそ、それでも一瞬で接近出来る為の技だ。そしてそれはミアが構えて撃つ瞬間に行われてしまった。その結果、予想外の事だったので流石のミアでも手元が狂って誤射してしまい、ラティノのビキニアーマーのボトムスに直撃してしまったわけだ。

 音速に近い速度で接近していたミアとラティノはピタリと止まり、ラティノが涙目で下を隠してしゃがみこむ。あの勇ましく男勝りな雰囲気は何処に行ったのか。なんなら顔も真っ赤になっていて、小動物のようにプルプルと震えている。

 周囲の馬鹿な男どもの歓声が冷め止まぬまま、ルーサがミアとラティノの間に立った。


「こりゃもうラティノ隊長は戦闘の続行は不可能だな。よって、勝者はミアだ!」


 ルーサがミアの勝利を高らかに宣言し、観客席から歓声の嵐が舞い起こる。革命軍の隊員たちまで負けたのに歓喜で叫びまくっているし、決闘場は大歓声で溢れかえった。

 ただ、それは馬鹿な男と一部の女だけ。女の殆どと冷静な男は“アホくさ”とあきれていて、温度差が激しかった。応援したネモフィラも、この結果に呆れ――


「きゃああ! ミアああ! かっこいいですううう!」


 うん。喜んでますね。かっこいいかどうかは謎だけど、ブレゴンラスドの歴史に残る最大規模の内戦の幕が、大歓声と共に下りていった。


(勝ったのに罪悪感が凄くて喜べぬのじゃ)

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