龍神国の決闘(2)
「無駄な口実や挑発はいらない! さあ、使え! あんたの力ってのをあたいに見せてみな!」
「ぐぬぬう……」
ブレゴンラスドの騎士専用の決闘場で観客が見守る中、ミアはピンチに陥った。大勢の前で魔装が使える事をばらされてしまい、もう隠し通せるような状況ではない。かと言って、ミミミピストルで戦えば、白金に輝く弾丸に気がついてしまう者も何人か現れてしまうかもしれない。絶体絶命の大ピンチだ。
(ま、不味い状況なのじゃ。このままでは聖魔法が使えるとバレてしまうのじゃ)
ミアは必死に考えた。このピンチをどう切り抜けるのかを。どうやってバラさずに戦いぬくかの方法を! おい。って感じだけど、ミアにとって勝敗なんて最早どうでも良いまである。
「あくまで使わずにって構えは変わらないのかい? なら、嫌でも使わせてやるよ!」
ラティノが大剣を構えて、跳躍。その直後に、ラティノの体がミアに引っ張られているかのように、もの凄い速度で飛翔した。これは、正確には魔装の吸引力を地面に向かって使っているからこそなせる業。常に少し手前の地面に力を使う事によって、吸引される側ではなく、した側が質量に負けて吸い寄せられるというもの。
実は、ラティノの魔装が身長より大きな大剣というのも、力を行使する対象を引っ張るだけの質量を得る為なのだ。この魔装は吸引力が主な力となるが、対象が自分より重ければ重い程に、逆に引っ張られるような結果を生む。ラティノはそれを利用する為に跳躍して宙に浮く事で、引き寄せる力で自らをまるで引き寄せられているかのように見せているのだ。
しかし、それがミアにヒントを与えてしまった。ラティノの魔装の使い方を見て、本来とは別の結果を生む力の使い方を学んだのだ。
(そうじゃ! こやつのように、魔装の力を別の形で利用すれば良いのじゃ!)
ラティノの飛翔速度は、車で言う所の時速百二十キロオーバー。とんでもない速さで接近してはいるが、光速で移動が可能なミアからすれば、子供のかけっこの方がマシに思える程に遅い。思い付きを実行するには、十分すぎる程の余裕があった。
「ミミミ、戦闘モードに移行じゃ」
「――っ!?」
ミミミを髪留めからピストルに変え、銃口を向けて引き金を引く。しかし、飛び出した弾丸は白金に輝くものではなく、炎の弾丸だった。
ミアがラティノを参考にして出した答えは、炎の魔石を使って炎の弾丸を作り出す事。これであれば、聖魔法を隠す事が出来て、更にはいつものように攻撃が出来る。もちろん弾の威力や速度が大幅に下がってしまうが、それでも十分な威力や速度がある。
ミアの動きは想像以上の速さで、ラティノはそのあまりにも速い動きに驚愕したが、それだけじゃない。本能で身の危険を感じ取り、振ろうとしていた剣の剣身を盾にするように構えた。すると次の瞬間には剣身にミアの放った炎の弾丸が直撃し、その攻撃の重さに受け止めたままの姿勢で吹っ飛び、膝をつく。
「まさか……これ程だなんて…………」
炎の弾丸を受けた部分に目を向ければ、剣身がそこを中心にひび割れている。
大剣に限らずの話にはなるが、本来であれば魔装で作られたものは簡単には壊れたりしない。剣や刀などであれば刃が欠けるなんて事は無いし、どんなに柔らかいワタのような物だとしても潰れてぺちゃんこになって元に戻らないなんて事も起きない。それだけ魔装は丈夫なのだ。
それでも壊れてしまう事があるとすれば、それは力の差ではなく、単純にそれをした者がとんでもない力を持つ者だから。そしてそれが出来る者は、魔装を管理している天翼会にも一握りだけだ。それを目の前の少女がやってのけた。
ラティノは天翼学園に通う学生だから、もちろん知っている。だからこそ、目の前の少女ミアが想像を絶する強者だと分かった。この勝負で死人が出るとすれば自分だと悟り、目の色を変える。相手が五歳の少女だからと言って、余裕を見せて手を抜いている場合では無いと。本気で殺す気で戦わなければ、殺されてしまうのだと。
「悪かったよ。色々あんたに言ったけど、あたいが馬鹿だった。もう無駄話は本当に無しだ」
(な、なんかめっちゃ怒ってるのじゃ? まさか、あの剣にヒビが入ったのがいけなかったのじゃ!?)
違います。ミアの思考はズレていた。




