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龍神国の決闘(1)

 ミアとラティノが向かい合い、太鼓が鳴って開戦する。

 ミアの腕には、一つの腕輪に二つの魔石が装飾品としてカモフラージュされてはめ込まれている。一つは赤色の魔石で、これは天翼学園の学生寮で起こったルッキリューナ戦の時にも使用した魔石と同じものだ。と言っても、より小さなサイズになっている。しかし、効果は同じで、五回まで火の魔法が使える特注品だ。もう一つは緑色の魔石で、風の魔法が五回まで使える特注品。ミアが風の属性を持っているといつわる為に用意した物で、いざという時に使えないと困るので、なるべく使わない方向で肌身離さず持っている。だから、この戦いで使っていいのは火の魔法を五回だけ。風の魔法は極力使用をけ、温存すると言う作戦だ。だが、相手が相手だけに少し面倒であり厄介かもしれない。

 ラティノはまだ十三歳という年齢なのにも関わらず、ゴーラが自分よりも強いと認める程に強く、現在学年最強の少女だ。ブレゴンラスドで彼女に敵う者は一握りしかいない。一対一の個人戦であれば、右に出る者なしと言っても過言では無い程の実力者である。


(あれは絶対に当たったら死ぬやつなのじゃ)


 ラティノが大剣をまるで小枝でも振り回すかのように、軽やかに肩に乗せて構え、ミアに向かって駆けだした。でも、ミアは冷や汗を流しながらも冷静だ。速さだけで言えば、ミアには光速さえ目で追える動体視力があり、速さから繰り出される重い一撃も持っている。と言っても、その速さは使えない。大勢が見ている前で聖魔法は使いたくないのだから。しかし、そうなると大幅な戦力ダウンになるのは確かで、正直困ってしまう。


(さて、どうしたものかのう)


 そんな事を考えている間にも距離は縮まる。ラティノが様子見でもしているのか、真っ直ぐに大剣を横に振るって攻撃する。それは確かに重く鋭い斬撃ではあるが、それだけでは学年最強になれるとは思えない。まずは小手調べと言ったところだろう。しかし、それはそう単純なものではなかった。ミアは当然のように軽々と避けようとしたが、その時、この大剣……魔装ウェポンの力の片鱗へんりんが牙をむいたのだ。


「――っなんじゃ!?」

「あたいの斬撃は回避不能だぜ!」


 回避不能の斬撃。それはその言葉通りのものだった。ミアは軽々と避けようとしたわけだけど、正確にはラティノが大剣を振るった時には既に避けていた。つまり、その時既に斬撃の軌道きどうの外にいたのだ。しかし、ここで問題が起こってしまった。

 振るわれた時には軌道外にいたミアは、その次の瞬間に、大剣に引き寄せられたのだ。それはまるで磁石を砂の中に入れた時に、砂鉄を引き寄せてくっつけるように。これこそがラティノの魔装ウェポン業食の魔剣(サクションプリンセス)】の力である。だけど、心配はいらない。

 ミアは驚きはしたものの、ラティノの魔装ウェポンの効果はミミミの髪留めモードで知っていた。驚いたのは予想より吸引効果が強かったからで、既に対策は考えている。


「ワタワタなのじゃ!」


 ポフンッとモッフモフなワタが出現し、斬撃すら包み込む。ミアはワタワタのおかげで斬られずに済み、そのままフワッフワに包まれてそれを掴み、そのまま後ろへと下がって距離をとる。


「嘘だろ? あたいの斬撃が全く効かないなんて……」

「ワタワタはワシ専用の特注品なのじゃ。そんなものでは斬れはせぬのじゃ」

「そんなものでは斬れないだって……? へえ。言ってくれるじゃない。そんな風に馬鹿にされたのは初めてだよ」

「それは悪かったのう。しかし、今ので分かった筈じゃ。ワシにはそれは効かぬ。大人しく降参してはくれぬか?」

「降参? あたいもなめられたもんだね。まさかこんなちびっ子にそこまで言われるなんてな。大人気なくも、段々と腹が立ってきたよ」

「ぬぬう……」

(挑発のつもりでは無かったのじゃが、やっぱり今の五歳児の見た目では説得力が欠けるのじゃ)


 観客たちの目が気になって、本来の力を出せないミアとしては、戦わずに済むならその方が良い。なんなら自分が降参して戦いを終わらせたいくらいだけど、負けたらこの国が大変な事になってしまう。戦いたくなくても、絶対に負けられないのだ。

 ミアは困り顔になり、それでもどう戦うかと悩んだ。すると、ミアにとって、それ等がどうでもよくなる程の事態がやってきてしまう。


「ミア。忠告してやるよ。あたいはまだ本気をだしちゃいない。だけど、それはやめだ。なめられっぱなしじゃあしゃくだからな。だから、あんたも隠してる魔装ウェポンを使いな。それでフェアな戦いが出来る」

「――っ!? そ、そそそそ、そんなものは隠してないのじゃ!」

「隠しても無駄だよ。あたいは革命軍の隊長だからね。十強からの報告を受けてるんだ。どうしてかは知らないけど、あんたが魔装ウェポンを持ってるって事は既に知ってんだよ」

「…………」

(ワシのアホオオオオ! なんで何度も何度も人前で使ってしまったのじゃああ!)


 ミアがアホなのは今更だし、ようやくそこに気がついたのか。という感じだが、ちゃんと気がつけた事は褒めてあげよう。とは言え、もう隠しきれない状況。

 ラティノの言葉を聞いた観客たちは騒めき、ルーサも丁寧に「ミア! お前の鉄砲の力を見せてやれ!」と大声で言っている。革命軍の副隊長の癖にミアを応援していて、更にネタばらしをしている所を見ると、味方なのか敵なのかも分からない。とにかく、最早このまま白を切っても意味ない状況なのは間違いが無く、ミアは大量に汗を流した。

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