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何事も話し合いが一番です

 龍神によって“聖女の代弁者”にされてしまったアネモネだが、その姿は代弁者として相応しいものだった。誰もがそれを疑わず、誰もが聞き逃さぬよう静聴せいちょうする。静まりかえった王都の民たちを見て、アネモネは微笑み、ゆっくりと話し始めた。


「今、この国では、とても悲しい争いが起きています。国が定めた法を変えようと、話し合いではなく力を行使する方々がいるからです。それが正しいのか間違っているのかは私には分かりません。ですが、関係のない人々を巻き込み、悲しみを生んでしまっているのは分かります」


 アネモネは災害が起きる前まで戦っていたであろう騎士や革命軍、それから、巻き込まれただろう民を見て悲しみの目を向ける。


「どうかこれ以上の争いはやめて下さい。戦いに勝って何かを得たとしても、きっと同時に何かを失います。そして、それは必ず大切なものでしょう。そうならない為にもお互いに手を取り合い、平和的な解決をする為に話し合いをしましょう。まだそれが可能であると、聖女様は信じています。歩み寄る勇気がないのであれば、私が――」

「よそ者は黙ってな!」


 アネモネの言葉をさえぎって声が聞こえた。その声に驚いて視線を向ければ、革命軍の隊長ラティノがアネモネを睨んでいた。


「貴女は……ラティノ王女…………」

「もう王女じゃないよ。あたいは親とのえんを切ったんだからな」

「……ラティノ。争いをやめて下さい。聖女様もそれを望んでいます」

「聖女様がそれを望んでいる? 笑えない冗談だ。その白金に輝く光をどうやって手に入れたか知らないけど、その聖女様本人がいない以上は信用できる話じゃないね。もし本当に聖女様の言葉だってなら、今直ぐここに連れて来てくれよ。だったらあたいも言う事を聞いて争いなんてやめてやるさ」

「それは……」


 実際は直ぐそこにいるのだけど、それは本人が望まないのでいるとは言えない。龍神の上では全員が様々な思いを抱いてミアに注目しているが、ミアは指で耳に耳栓して「何も聞こえないのじゃあ」と呟いている。本当にこの聖女はダメダメである。まあ、ここで出て行けば確実に聖女として今後の人生を歩む事になるので、絶対に出て行くわけにはいかないのだろうが。

 そんなチキンハートなミアのせいで、ラティノが「ほらな」と呆れた。


「アネモネだったか? 後ろにいるのは龍神だろ? どうせあのババアが龍神を復活させて、正義は自分達にあると主張しようと利用しただけだ。だけどよ。あたいはそんなの認めねえ。とっくの昔にこの国の腐った法をぶっ壊すって決めてるのさ!」


 ラティノが声高く宣言し、革命軍の隊員たちがラティノの側に集まってくる。その誰もが闘志を目に宿し、再び戦いを始めようと魔装ウェポンを取り出した。


「やめ……いいえ。分かりました。ならば私が貴女の相手をします! 革命軍隊長ラティノ=B=ティガイドン! これより貴女に決闘を申し込みます! 私が勝ったなら革命軍を解隊し、その罪を償いなさい!」

「へえ。いいねえ。面白そうだ。乗ったぜ! その勝負! 但し、死んでも恨みっこなしだ」

「……いいでしょう。勝負を言いだしたのは私です。お互いが納得する方法をとるべきです」

「待て! そんな事は絶対に許されない!」

「ゴーラ様……っ」


 ゴーラが慌てた様子で近づいて来たのでアネモネが驚き、地上から様子を見ていた人々から騒めきの声が聞こえ出す。ラティノも「ほらな」と自分の考えが正しかったと嘲笑あざわらい、隊員たちもアネモネが聖女ではなくスピノの差し金だったのだと目を鋭く変えた。


「アネモネ、君だって学園に通っていたのだから分かるだろう? ラティノは強い! 悔しいが私よりもだ! 君の力では敵う相手ではないのだぞ!」

「落ち着いて下さい。これしか彼女を説得する方法が無いのです」

「これが落ち着いていられるか! ラティノは君を本気で殺すつもりで戦う! 私は――」

「邪魔するぜ。てめえ等まとめて落ち着けってな」

「「――っ!」」


 アネモネとゴーラの間にルーサが入って制止させる。そしてその腕には……と言うか、ミアがお米さま抱っこされている。


「のう? ワシは何でこんな所に連れ出されたのじゃ?」

「あ゛? 決まってんだろ」

「のじゃ?」


 アネモネとゴーラは動揺と困惑で言葉を忘れ、地上から見ていた民も突然の革命軍副隊長の登場に騒めく。何も知らない者からしてみれば、王族側の者と革命軍側の者が仲良く現れているのだから、動揺や困惑をしても当然だ。そしてそれはラティノも同じ。

 あの分かりやすく裏表のない猪突猛進なルーサが王族側とつるんでいた裏切り者だったなんて考えられない。では何故? と、困惑を隠せなかった。そんなラティノにルーサが高らかに宣言する。


「隊長! あんたの相手はこのガキ、ミアだ!」

「なんじゃと!?」

「なんだって……?」


 ミアとラティノが同時に驚き、ルーサがニヤリと笑みを浮かべる。


「ミアは今のチェラズスフロウレス最強の騎士だ。てめえも分かってんだろ? こいつが学年で成績上位だったルッキリューナ相手にしでかした快挙。こいつは本物だ」

「え? あ奴ってそんな立場だったのじゃ……? って、そんな事はこの際どうでもいいのじゃ! 何を言いだしとるんじゃお主は!」

「へえ。そう言う事か。いいよ。その本物ってやつを、あたいが見定めてやるよ」

「交渉成立だな」

「なんでじゃあああああああ!?」


 そう叫んだミアは、やっぱり暴力で解決は良くないと、手の平返して改めて思うのだった。

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