聖女の魔法はチート級
駄々っ子聖女ミアの駄々こね作戦は長くは続かなかった。ミアには前世八十まで生きた記憶がある。だから、流石に駄々をこねている状況でもないと理解しているのだ。それに何より、この状況を生んだのは自分だ。火山噴火と言う災害を起こしておいて、それを無視するのは人として最低だ。しっかりと責任を取る必要がある。と、少なくともミアはそう感じたのだ。ただ、前世を含めていい年して何やってんだろう的な事を思わないあたり、やっぱりミアはミアである。
ミアは一通りの駄々こねを披露すると、ため息を一つ零して立ち上がった。
「ミミミ、魔法補助モードに移行じゃ」
ミミミが髪留めから姿を変え、耳が翼のうさぎになる。それを見てプラーテが「うさちゃんだ!」と目を輝かせ、ルーサも驚きミミミに注目した。
「ミア。良いのですか?」
「仕方があるまい。人の命がかかっておるのじゃ」
「うふふ。やっぱりミアは素敵ですね」
火山が噴火した原因を知らないネモフィラが嬉しそうに微笑むと、ミアは少し複雑な気持ちで視線を逸らした。と言っても、ただ視線を逸らしたわけではなく、その視線は真っ直ぐと前を向いていて、両手も真っ直ぐ前に出されていた。
(フィーラには後でちゃんと説明しておくとするかのう)
そんな事を考えながらも、しっかりと集中する。ミアの目の前に白金の輝きを放つ魔法陣が浮かび上がり、それを中心に白金の光を帯びた透明な壁……結界が生成されていく。が、その勢いはまさに光速。一瞬で周囲に結界を張り、まるで火山が止まったと錯覚を覚える程に溶岩を押さえつけ停止させ、火山灰が押し戻されていった。そして、ミアが行ったのはそれだけではない。更に魔力を両手に集中し、目を閉じる。直後に結界が火山に向かって収束していき、噴火がピタリと治まった。
その様子に全員が驚き、ネモフィラが何が起きたのか尋ねる。すると、ミアは目を開けて小さく息を吐きだし、額に薄っすらと浮かんでいた汗を腕で拭って微笑む。
「噴火の概念……根源と言った方が良いのかのう? どうせじゃから、ついでにそれをそのまま結界で包んで封印したのじゃ。封印を解かぬ限り、この火山は二度と噴火をしないのじゃ」
「「――――っ!?」」
驚くべき所業……いや。諸行と言うべきか? どちらにしても、ミアは自然の摂理をいとも簡単に“ついで”程度の感覚でねじ曲げてしまった。そんなものを見せられて驚愕しないわけがない。そしてそれは、黙って様子を見ていた龍神も同じだったのだろう。龍神は目の前にいるレンタルドラゴンに目配せし、地上へと降り立つと、先程まで流れていた筈の溶岩のあった道という道を見たり踏んだりして確かめた。
「ぬぬう? ドラゴンよ、急にどうしたのじゃ?」
あまりにも想像を絶する魔法に驚きが冷めない他の者と違い、使用者本人であるミアは呑気な顔で龍神から降りて尋ねた。すると、龍神はミアに敬意を振るい頭を下げた。
「幾千年前の聖女との戦いでは封印された事で叶わなかったが、我等一族は己より強い者に忠誠を誓う。しかし、我は汝の力を認めたくなかった。だが、今一度汝の力をこの目で拝見し、漸く目が覚めた。汝の力は見紛う事無き聖女の力だ。少女よ……いや、聖女よ。我は汝を聖女と認めよう。我の力を汝の力として――」
「ワシは聖女では無いのじゃ」
「……なに? い、いや。しかし、この力は――」
「くどい! ワシは聖女では無いのじゃ!」
「わ、分かった……」
龍神が冷や汗を流して頷くと、ミアが満足して「うむうむ」と頷く。そんな一人と一匹のやり取りに、驚いていた者たちが正気を取り戻す。そして、アネモネが龍神の上から顔を覗かせ、ミアを呼ぶ。
「ミア。もう一度龍神様に乗って。良い考えを思いついたの」
「あ。それならわたくしもそちらに行きます!」
「わ、私も……っ」
「もちろん私もお供します!」
ネモフィラたちが一緒にと要求し、龍神の背中にみんなが集まる。レンタルドラゴンは地上で留守番だ。再び空を舞うと、ミアがアネモネに良い考えとは何かを問う。すると、アネモネがまずは地上を見るようにと施したので、ミアだけでなく皆で地上を眺める。
そうして見つけたのは、溶岩から逃げ延びた人々が驚いた顔で出てくる姿。何が起きたのかと騒ぎが次第に広がっていき、何人かは龍神の存在に気がついて叫んでいる者もいる。
「ミアと他の皆も顔を引っ込めて、誰にも顔を見られないようにして」
「ど、どうするつもりなのじゃ?」
「私の魔装の力と、ミアの白金の光を使って、龍神様に聖女様の代弁をして頂きます」




