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駄々をこねる聖女

「ミアちゃん。落ち込まないで」


 ミアがシュンと落ち込んでいると、プラーテが頭をいい子いい子とナデナデする。とっても微笑ましい光景だけど、今は微笑ましんでいる場合では無い。火山の噴火で既に戦いどころではなくなり、溶岩から逃げ延びようとしている者しか目に映らない状態なのだから。

 ミアがプラーテに励まされていると、ルニィが「ミアお嬢様」と真剣な面持ちで話しかける。 


「王都の何処かにネモフィラ殿下がいらっしゃるのですよね? 無事だといのですが……」

「うむぅ……。確かにのう。ミントとメイクーも一緒じゃが心配じゃのう。しかし、待ち合わせ場所を決めておらんし、この状況なのじゃ。今頃どうしておるのかサッパリ分からぬのじゃ」

「サーチライトで居場所を捜してみると言うのは?」

「う。……ワシはこれ以上目立ちたくないのじゃ」

「何を今更(おっしゃ)っているのですか。と申し上げたい所ですが、ミアお嬢様ご自身の負担になるのであれば仕方がありませんね」

「ぬぬう……」


 いつもであれば、ミアはそのまま使わずに済むと上機嫌になるだろう。しかし、状況が状況なのだ。事の発端が自分にあるとなれば、流石に罪悪感が湧いてくるというもの。ミアは眉尻を下げて、がっくりと項垂れる。


「……分かったのじゃ。使えばいいのじゃろう?」

「ミアお嬢様。本当に良いのですか?」

「フィーラやミント等が無事かどうか気になるしのう。仕方が無いのじゃ」

「ふふ。それでこそミアお嬢様です」

「褒めても何も出ないのじゃ」


 ルニィに上手い事乗せられた気分にもなるけど、それでもしっかりと魔法を発動する。実際に気になってはいたし、無事を確かめたかったからだ。

 ミアを中心に王都が白金はくきんの光に包まれて、そして、ミアは後悔した。後悔するとは何事だと思うかもしれないが、その答えは直ぐに出る。


「ミアー!」


 不意に聞こえたミアを呼ぶ声。振り向けば、そこにはレンタルドラゴンに乗ったネモフィラとミントとメイクーの姿が。つまりミアが後悔したのは、向こうからこっちに向かってやって来ていたからだった。


「うふふ。火山の中から大きな龍が現れたので、もしかしたらミアではないかと思って近づいて見たのですけど正解でした」

「もしワシでは無かったらどうするつもりだったのじゃ? 危ないのじゃ」

「もちろん逃げます」


 自信満々に答えるネモフィラに、ミアは目を丸くして驚き、直ぐに笑う。でも、ちょっと安心した。この調子なら、例え今直ぐに合流していなくても無事だったのだろうと思ったから。


「私は……最初は危ないから、やめた方が良いと言ったのです……けど……。向かっている途中で光が見えて、ミア様だと思い……安心しました」

「フィーラはミントの言う事を聞いた方がいいのじゃ。確信を持つまでは近づかぬ方がよいのじゃ」

「そんなあ……。わたくしは早くミアと会いたかったんです!」

「その気持ちは嬉しいのじゃ」


 ミアとネモフィラが微笑み合い、ミントとメイクーが尊いものを見る目で二人を見る。すると、そこでプラーテがミアに後ろから抱き付いた。


「ずるーい! プラーテも入れてー」

「ぬわあ。こら。よさぬか。いきなり跳びついたら危ないのじゃ」

「うふふ。プラーテも元気そうで安心しました。わたくしもミントも心配していたのですよ」

「そうなの? ありがとー!」

「まったく。仕方が……って、呑気にお話に花を咲かせておる場合では無いのじゃ!」

「あ。そうでした! 火山が突然噴火して大変なのです! それに黒いものが空を覆って、わたくし達はメイクーの魔法の炎でこれを浴びずにすんでいるのですけど……」


 言われてみると、今更だが確かに薄っすらとした炎の壁で火山灰を燃やして防いでいる。本当に薄い炎の壁なので目をらさないと見えないもので、王女の護衛だけあってメイクーは優秀なのだと改めてミアは思った。


「溶岩は別の方法で何とかするとして、メイクーさんのこの炎の壁で火山灰を全て消し去る事は出来ぬのじゃ?」

「お恥ずかしい事に私の魔力では今出している範囲が限界です」

「ぬぬう。そう上手くはいかぬものじゃのう……」


 メイクーの答えにミアが腕を組んで呟くと、ルニィがミアに向かって「無礼な発言である事をお許しください」と前置きを入れて話し始めた。


「ミアお嬢様の魔力量であれば、王都全土を簡単に覆う事が出来ます。ですので、今ミアお嬢様が使って下さっているこの結界で、王都を覆えば溶岩も火山灰も抑える事が出来るのでは無いでしょうか?」

「……それじゃあ!」


 何が無礼なのかと言えば、それは主であり聖女でもあるミアの力を使えと言った事。だけど、そんなものはミアからすれば無礼でも何でもない。ミアは満面の笑みをルニィに向けた。


「流石はルニィさんなのじゃ! って、それではワシがまた魔法を使う流れなのじゃあ!」

「この期に及んでまだそれを仰るのですか?」

「当たり前なのじゃ! ワシは目立ちたくないのじゃ!」


 嫌じゃ嫌じゃと駄々をこねる。本当にこの聖女、ダメダメである。そんなミアにルニィが頭を悩ませ額を押さえ、ネモフィラが楽しそうに笑みを浮かべた。

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