龍神国に聖女が舞い降りた日(3)
ミアとゴーラが火山の中に入った直後。二人は背後をこっそりついて来ているプラーテに気がついて、どうしようかと話し合い乍ら慎重に進んでいた。
「やはりついて来るなと言うのが得策か……」
「ここは誰もが恐れて入って来ぬ場所なのじゃろう? ならば、王宮に戻った方が危険なのではないか?」
「しかし、このまま連れて行っても危険だろう」
「ぬぬう。何か良い方法はないのじゃろうか?」
「洞窟内で撒ければ、それで良いのだが……」
「ぬう? そんな事をしたら迷子にならぬか? 危ないのじゃ」
「それは……」
ゴーラが何か言い辛そうに視線を逸らし、ミアは訝しむ。これは何かあると考えて、じーっと可愛らしいジト目を向ければ、ゴーラは何とも言えない気まずさを感じて観念した。
「母上がここにプラーテをよく連れて来ていたから心配いらないんだ。プラーテにとって、この洞窟は庭みたいなものなんだよ。だから、迷う心配など一切ない」
「なんじゃと!? ここには処刑場があるのじゃろう? 何故こんな場所に連れてくるのじゃ?」
まさかすぎる回答にミアが驚くのも無理は無い話だ。しかし、ゴーラの口からは更に酷い答えが返ってくる。
「母上はあの性格故……処刑場を悪を滅ぼす神聖な場と捉えている。生贄は罪人ではないのにだ。そして、その神聖な場をプラーテに馴染ませる為に、何度も来て慣れさせているんだよ」
「なんともまあ……。とにかく、そう言う事であれば迷子になる心配はいらないのじゃ」
「そう言う事だ。しかし、どうやって撒くか……。出来れば撒いた後は、万が一にもプラーテが処刑場に辿り着く前に、母上とのけりを付けたい所だが」
ゴーラが困ったものだと考えを巡らせていると、少しだけ大きめな空洞に出た。そこには広めに溶岩が広がっていて、二人は溶岩に触れないように気を付けて通ろうとした。が、途中でミアが立ち止まる。
「いい事を思いついたのじゃ」
「いい事……?」
ゴーラも立ち止まって尋ねると、ミアがドヤ顔をゴーラに向ける。
「溶岩の中を通って処刑場に行くのじゃ」
「……は? 溶岩の中……?」
「うむ。処刑は溶岩に身投げさせる事なのじゃろう? ならば、この溶岩の中を進めば処刑場に辿り着けるはずなのじゃ」
曇りなき眼のミア。その瞳はマジの大マジで本気の本気に溶岩の中を通ろうとしている目。何を馬鹿な事をとゴーラは困惑し、動揺を隠せない。とは言え、実は龍人であれば肉体を強くし極めれば溶岩の中に入れるようになる。龍人とはそう言う種族だった。しかし、それは極めればの話。少なくとも今のブレゴンラスドで溶岩に入って無事な者は限られていて、天翼会にいる龍人の先生くらいなもの。ゴーラは優秀な成績を修めて卒業したが、その域には達していない。ましてや、ヒューマンであるミアが溶岩の中を通れるなんてあり得ない。しかし、ミアはドヤ顔を崩さない。
「魔法で溶岩を通さぬ丸い結界をワシを中心に張るのじゃ。お主はワシから離れぬようにして、二人で溶岩の中をまるで空を飛ぶように進めば良いのじゃ」
「な、なるほど……? しかし、私は翼を出せるが君は人、ヒューマンだろう? 翼なんて無いじゃないか」
「ふっふっふっ。実は龍人たちのその翼の出し入れを見て、ワシは学んだのじゃ」
「はあ……?」
「まあまあ見ておれ。ワシのオリジナル魔法の第一号を見せるのじゃ」
ミアは得意気な顔で話すと、胸の前で拳を作って握り、少し俯きがちになって目を閉じた。まるで何かに祈るようなポーズになったミアは、白金の光を全身から放つ。すると、ミアの背中が輝きを増し、白金に輝く光の翼が現れた。それはまるで天使の羽のように神々しさを持ち、ゴーラは天使が目の前に現れたかのような錯覚を覚える。
「では、参るのじゃ!」
目を開けてゴーラに視線を向け、そう言ったミアの顔はまぎれもない天使の笑顔。しかし、その行動は悪魔の如く容赦がない。ミアは有無を言わさぬ勢いで自分を中心にまん丸な結界を張ると、ゴーラの手を掴んで引っ張って羽ばたいた。
「まだ心の準備――がああああああ!」
身体強化をしたミアの力は強く、ゴーラは抵抗が出来ずに引っ張られるまま溶岩にダイブ。ゴーラは心の準備をしないままいきなり引っ張られたものだから、結界から足の先がはみ出て溶岩で靴の先っぽが溶けてしまい、顔面蒼白で慌てて翼を背中から出した。
(私は生きてこの溶岩の中から脱出が出来るのだろうか……?)
生きた心地がしないまま、ゴーラは必死にミアの後を飛翔した。
一方その頃、ミアとゴーラが溶岩に入っていく姿を見たプラーテは、目をパチクリとさせて溶岩に近づいた。
「わあ! 溶岩の中に入っちゃった! ミアちゃん凄ーい! でも、プラーテは入れないし~。うーん。どうしようかなあ? あ! ママの所に行くんだった。ママはどこかなあ?」
プラーテは独り言ちすると、てててと走り出した。




