龍神国に聖女が舞い降りた日(2)
王宮へと再び向かうミアは、ゴーラから革命軍がこの王都に攻めてきた理由を聞いて驚いた。しかし、それもその筈だ。ゴーラはアネモネとサンビタリアの通信用魔道具を使い、革命軍と連絡を取り合ったから。革命軍に協力を求めて警備の穴を教えた。だからこそ革命軍はこれだけの成果を得ている。今まで革命軍にこれ程の痛手を負わされる事が無かった騎士団は、本気で苦戦を強いられているのだ。
「しかし、アネモネ殿下を助ける為とは言え、よく自分の国を売るような真似が出来たのう。恐ろしい男なのじゃ」
「アネモネを救う為なら、私は他の全てを敵に回しても構わないと思っている」
「その考え方は嫌いでは無いのじゃ。でも、やり方が良く無いのじゃ」
ミアはそう言い乍らミミミピストルの銃口を後方四十度に向け、発砲。白金の弾丸が真っ直ぐと飛び、逃げ遅れた女の子に襲いかかっていた革命軍を一撃で失神させた。ゴーラはそれを冷や汗を流して見つめたが、今は足を止めている場合では無い。一先ず気にするなと自分に言い聞かせて走るのみだ。
「やり方が良く無い……か。父や母……家族を裏切る事になるからか?」
「違うのじゃ」
「違う? では何故……? ミアは何を良くないと思ったんだ?」
「関係無い人を巻き込んでいるからなのじゃ」
「…………」
ミアはいつになく真剣に答え、ゴーラに視線を向けた。
「周りを見てみよ。お主にも分かるじゃろう? 関係のない者たちが襲われて、家を焼かれておる。温泉街も同じじゃ。何を考えてかは知らぬが、関係ない人を巻き込んだのじゃ。だから、ワシはこのやり方は好かぬのじゃ」
「それは……いや。言う通りだな」
「まったく。やる事が同じとは困った親子なのじゃ。気になっておったのじゃが、革命軍の事といい、龍人はどうも思考が乱暴な方向にいきがちなのじゃ。血がそうさせておるのかもしれぬが、ちいとばかし抑えてほしいものじゃ。暴力で解決ばかりでは、いつか身を滅ぼすのじゃ」
「……返す言葉もないな」
ゴーラは深く反省した。だが、正直言ってミアの言葉は特大のブーメランだ。今も尚ミミミピストルで革命軍を撃ちまくって一撃で仕留めているミアは、どっからどう見ても暴力で解決している。出来ればゴーラに「お前が言うな」とツッコミを入れてほしいものだが、ゴーラは真面目で反省中なので分かってない。言葉と行動が真逆のミアよりよっぽど平和的なゴーラだった。
「王宮も既に戦場になっておるのう」
「……ああ。それよりもこっちだ」
「うむ」
王宮に辿り着くと、そこは酷いありさまだった。しかし、この場に精鋭騎士の姿は無く、だからこそここまで攻め込まれて惨状を生み出したとも言える。普通の騎士では抑えきれない程に、革命軍の先遣隊の実力が高かったのだ。だけど、今はそれに構っている余裕なんてない。ミアはゴーラの案内で処刑場の入口へと向かうだけだ。
王宮の中は何もかもが広かった。横幅だけで十メートル近くもある広い通路は高い天井で、高さも十メートルを軽く超える。部屋を覗けば更に広く大きな空間が広がっていて、何もかもが大きかった。それ故なのか構造は単純で、ほぼ直進のみ。しかし、ここが火山の上に建てられた王宮と言うだけあって、階段がやたらと多かった。
王宮内を少し走って進めば、あっという間に処刑場へと続く入口までやって来た。入口は火山内へと続く洞窟で扉は無く、薄っすらと白い透明な光が壁のように張られていて、それが話しに聞いていた封印で間違いない。
「ふむふむ。封印と言うよりは結界の類じゃのう。これならミミミの補助は必要無さそうなのじゃ」
「みみみ……?」
入口に張られたものは結界に近いもので、これ自体に封印の効果はない。ミアはそれを直ぐに見抜いて、少し安心した表情を見せた。と言うのも、封印を解いて龍神を復活させてしまわないかと内心では心配していたからだ。だけど、封印ではなく結界なのでその心配も必要無い。心置きなく解けると言うもの。
ミアは結界に触れて目を閉じる。触れた手に魔力を集中して、白金に輝く魔法陣が浮かび上がった。すると、光の壁も白金の輝きを放ち、光の粒子となって消えていく。
ゴーラは驚きの表情でそれを見つめ、ミアが聖女だと言う確信を得た。だけど、だからと言って騒ぐなんて事はしない。チェラズスフロウレスが……アネモネがこの事を自分にも話さないと言う事は、きっと何か深い事情がある筈だとゴーラは考えたからだ。だから、この事は自分の心の内に秘め、今は前に進むだけ。
「先を急ごう。ミア」
「うむ。絶対に処刑なぞさせぬのじゃ」
二人が火山の中に入って行き、そして、その背後で二人から隠れて見ている小さな影が。
「わあ。ミアちゃん凄ーい」
誰にも聞こえないように小さな声で独り言ちして、目を輝かす女の子。
「プラーテもしゅっぱーつ。ママに悪い事したらダメって教えてあげなきゃ」
女の子の名前はプラーテ。スピノがチェラズスフロウレスのみんなに酷い事するから、絶賛激おこ中で部屋に閉じこもっていた筈のお姫様。
プラーテは静かな声でそう言うと、てててと走ってミアたちの後をついて行った。




