龍神国に聖女が舞い降りた日(1)
「なんだかえらい事になっておるのう。王宮の上空では竜騎兵と革命軍が戦っておるし、ワシだけ先に降りて正解だったのじゃ」
只今単独行動中のミアは、王宮の門の前でこそこそ隠れている。隠れているのはブレゴンラスドの騎士に見つからない為……と言うわけではなく、実は理由なんてものが無い。敢えて言うなら雰囲気で、引きこもり体質で目立ちたくない精神が働いて体が勝手に動いたと言う感じだ。
門番たちは革命軍の先遣隊と戦っていて、隙を見つければいつでも侵入可能。だけど、光速で移動出来るミアにとっては、そんな隙すら必要無いわけだが。
「ぬぬ?」
ミアが様子を窺い乍ら戦いを見ていると、門番の向こう側の王宮の中から騒々しい何かが近づいて来た。それは叫び声や何かを破壊する音を撒き散らしながら、遂には門をぶち破って姿を現す。
「ゴーラ様! これは完全なる我が国への反逆になりますぞ!」
「かまうものか! なりふりなど構っていられない! 処刑は明日だと言っていたのは嘘だったのだ! 私はアネモネを助け出すまで止まるつもりはない!」
(ゴーラ殿下なのじゃ!?)
現れたのはアネモネの婚約者ゴーラ。彼は騎士たちの制止を振り切って現れて、門の前で戦う二つの戦力を無視して、何処かへと向かって駆けだそうとした。だけど、駆け出す事は出来ない。好機と判断して、ミアがゴーラの目の前に飛び出したからだ。
「何処へ行くつもりなのじゃ?」
「ミア!? な、何故君がここに……? い、いや。今はそんな事はどうでもいい。アネモネ達が処刑されてしまいそうなんだ。私はそれを止める為に急がなければならない」
「なんじゃと!? 処刑とはどう言う事じゃ!?」
「説明している暇はない。ここは危険だ。君は何処かに隠れていてくれ。アネモネ達は必ず私が助け出して見せる」
「ワシもそこへ連れて行ってくれぬか?」
「何を馬鹿な事を。危険な場所に幼い君を――っ危ない!」
ミアに接近する革命軍の男。十強までとはいかないが、それでも門番を苦戦させる先遣隊の一人。そんな男が王族であるゴーラと仲良く話しているミアを人質にとろうと襲いかかった。が、相手が悪すぎる。
ミアは振り向きもしないでミミミピストルの銃口を向けて撃ち、額に一撃を食らわせてノックダウン。まるで何も無かったかのようにミアはゴーラから視線を全く外さないが、ゴーラは驚きのあまりに息を呑み込んだ。
「ミア……君は…………っ」
「頼むのじゃ。ワシも連れてってほしいのじゃ」
「……わ、分かった。共に行こう」
「おお! ありがとうなのじゃ!」
満面の笑みを見せるミアはとても年相応で可愛らしい。だけど、この時ゴーラはミアに並々ならぬものを感じて、一緒に微笑む事が出来なかった。しかし、今は気にしている暇はない。ゴーラはミアを連れて走りながら状況を説明する。それでミアが分かったのは、処刑が今日行われると言う事。そして、処刑場が王都フレイムバッグが築かれたこの火山の中だと言う事。
「ふむ。処刑場は王族専用の入口と民用の入口があって、王族専用の入口は国王と王妃が許可した者しか入れぬ封印が施されておるのか」
「ああ。だから、私は民用の入口から向かう必要がある」
「それでその入口は王都から一キロ離れた場所にあるのじゃ?」
「元々火山内に入る為の入口がそこにあって、それを今もそのまま使っているんだ。困った事にな」
「ここから王都を出るまでおよそ四キロだか五キロで、出てから一キロ……ぬぬう。しんどいのじゃ。王宮の中にあると言う入口から行くのじゃ」
王都のあるこの火山の標高は五キロあり、現在位置を考えると、ミアが言った通りの距離をほぼ走る事になる。下り坂とは言え、そんな長い距離を走るのは正直厳しい。だから、ミアは立ち止まって回れ右するものだから、ゴーラは直ぐにミアの前に出た。
「今言ったばかりだろう? 入口の封印は父や母しか解除出来ないんだ」
「じゃが、その封印を作ったのは昔おった聖女なのじゃろう?」
「あ、ああ。聖女様が龍神様を静める為だからな」
その昔、龍神と恐れられた龍が人の前に姿を見せていた頃の事だ。聖女と龍神の激しい戦いがあり、聖女が龍神をこの火山に封印した。処刑場も元々は龍神への生贄を捧げる為の祭壇があった場所で、今ではそれを否定的に捉えて処刑場と言っているだけ。
つまりブレゴンラスドの処刑とは、龍神へ生贄を捧げる事なのだ。そしてその処刑方法は、龍神が眠る溶岩の中に生贄を落とす事を意味する。
国王と王妃しか出入が出来ない入口があるのは、何かあった時に直ぐに対応する為で、民用の入口と言うのは昔の名残。昔はそこに都があり、そこから出入をしていたと言うだけの事。例え革命軍のような反国精神の者たちであっても、龍神の怒りを買わないように決して自分から入ろうとは思わない場所。ブレゴンラスドの民であれば誰でも知っている常識だった。
「だけど、それが何だと言うのだ。それは今は関係無いこ……と……?」
この時、ゴーラはある結論に辿り着く。アネモネから聞いているのは、ミアが特別な子で、公爵の爵位を持つ五歳の幼い少女だと言う事。聖女の噂が流れ出したのと、アネモネがミアの事を話し出した時期が同じ頃だと言う事。そして自分が自国でミアと出会ってから度々起こる白金の光。そう。ゴーラとて、ミアが散々使いまくったそれを見ているのだ。それは目の前で行われた事ではない。だけど、あまりにも偶然にしては出来過ぎている。
決め手は先程のミミミピストルだ。あれはどう見ても魔装。ミアは何も考えずに迎撃してしまったが、本来は魔装を持たない筈の五歳児がそれを持っていると言う異常事態。ゴーラは目を見張り、目の前に立つ少女ミアを見てごくりと息を呑み込んだ。
「まさか……君は…………」
「何をぐずぐずしておる。さっさと行くのじゃ!」
動揺しているゴーラにミアが笑顔で尻を叩く。ゴーラはそれでハッとなり頷いて、二人は王宮に向かって走りだした。




