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裏切り者

 ブレゴンラスドの王都フレイムバッグ。標高五キロもある高い火山のふもとから築かれた都で、頂上に王宮が建てられ王族たちが暮らしている。火山の中には龍の神が住んでいると言われていて、ここ何千年もの長い間は噴火も無いが、頂上の王宮からのぞける火口には溶岩が見えている。そんな環境のせいか、頂上の王宮に向かえば向かう程に涼しくなるどころか逆に暑くなり、気温が上昇していく不思議な場所。この都に住む種族は環境のせいもあり殆どが龍人たちで、他種族は住みたいと思えないもの。観光で来るには珍しさもあって丁度良いが、龍族以外が住むには不便しかない。

 そんなこの王都フレイムバッグでは今、チェラズスフロウレスの国王ウルイと王妃アグレッティと王女サンビタリアと王女アネモネの処刑の話題で溢れかえっていた。


「母上! 今直ぐアネモネ達の処刑をお考え直しして下さい!」

「ゴミを処刑する前に、反省をしているかとわざわざ様子を見に来てあげたというのに、お前はまだそんな事を言っているの? ゴーラ」


 ここは、王宮の独居房どっきょぼう。アネモネたちを庇っていたゴーラが入れられていて、目の前には王妃スピノが護衛を連れて立っていた。


「何度でも申し上げます! アネモネ達の処刑をお考え直しして下さい! プラーテだって悲しみます!」

「お前と違ってあの子は素直でいい子よ。今はねてしまって部屋に閉じこもってしまったけれど、きっと私こそが正しいと分かってくれるわ。あんな犯罪者どもは消した方がいいとね」

「そもそもその考えが間違っている! それにプラーテとサンビタリア義姉上は既に親しき仲なのです! それが何故わからないのですか!?」

「分かっていないのはお前の方よ。まったく。あのような犯罪者で野蛮な女を義姉などと。我が子ながらになげかわしい。それだけではないわ。お前を拘束する為に精鋭を何人も犠牲にされたわ。よりにもよって治療に長けた者ばかり狙って。あれでは当分使い物にならない。おかげで今残っているのは三人だけ。革命軍が王都を攻めて来たらどうしてくれるのかしら?」

「今はそんな話をしていません! アネモネ達を――」

「黙りなさい! お前のような子は子ではない! それ以上騒ぐのであれば、あのゴミ共と一緒に処刑する!」

「――っ!? 私を一緒に処刑だと……?」

「ええ。犯罪者に加担し、反省もせずに騒ぐような者は子ではないと言う事よ。今までは我が子可愛さに大目に見てあげていたけれど、それももう限界だわ」

「母上……貴女は…………」

「明日。あのゴミ共を処刑する前に、最後の機会を与えてあげるわ。それまでに自分が間違っていた事に気がついてくれるのを期待しているわね」

「…………」


 スピノはため息を吐き出して、ゴーラを一瞥いちべつしてからこの場を去った。この場には見張りの騎士しかいなくなり、ゴーラが騎士に視線を向けると、騎士は静かに頷いた。


「まさか、こんな形で使う事になるなんて思わなったな……」


 独り言ちしてゴーラは服のそでをまくる。ゴーラの腕には通信用魔道具マジックアイテムがはめられていて、それはミア派が使っていた特注品。


「しかし、黄金街でトパーズに会えたのは幸運だったな。おかげで彼の助けを求められる」


 ミアたちが黄金街でルビーやトパーズと出会い別れた後の事だ。ゴーラはあの町でアネモネと一緒にトパーズに会い、そして話をした。

 ゴーラとトパーズの二人は親友だった。トパーズはルビーの付き合いで革命軍の隊長ラティノに会いに来た事を話し、それなら念の為にとアネモネがトパーズに通信用魔道具マジックアイテムを渡していた。これは元々ブレゴンラスドの騎士と革命軍の戦闘に巻き込まれた時の保険。もし巻き込まれたら、トパーズに連絡して革命軍を引かせてもらって、その戦いから逃れる為のもの。どうせ自分はブレゴンラスドに嫁ぐのだから、次に会った時に返して貰えば良いとアネモネが渡したのだ。

 そして、革命軍に偽装したブレゴンラスドの精鋭騎士の襲撃が起きた。その時にアネモネがサンビタリアにトパーズとの事を知らせて、通信用魔道具マジックアイテムをゴーラが預かったのだ。当然の事だが、ゴーラとアネモネは直ぐに彼等がブレゴンラスドの精鋭だと気がついた。何故自分達を襲ったのかは分からないが、ただ事ではない状況なのは間違いがない。そしてそんな状況下で判断した。ゴーラであれば万が一にも捕まったとしても、パッと見が腕輪にしか見えないこれを取り上げられる可能性が限りなく低いと。


「これで私も裏切り者……国の反逆者か」


 ゴーラは呟き、起動する。そして、あらかじめ準備をしていたのだろう。半刻もしない内に、革命軍が全戦力を投下して、王都は戦火にに包まれた。




◇◇◇




「なんじゃなんじゃ!? 王都で戦争が起こっておるのじゃ!」


 燃える王都フレイムバッグの上空で、ドラゴンに乗ったミアが戦場と化した王都に驚き声を上げた。すると、それに賛同するように、ネモフィラが緊張した面持ちで頷いた。


「は、はい。熱気がここまで伝わってきて、なんだか怖いです」

「わわわわわ、わた、私……足が震えて……動けま……せん」

「安心して下さい。ミント様。ミント様はネモフィラ様と一緒に、必ず私がお護りします」

「うむ。これではしばらく降りられそうにないのう。仕方が無い。ワシはちょっくら飛び降りて殴り込みに行って暴れて来るのじゃ」


 ミアはニコッと可愛らしい笑みで物騒な事を言い、ミントとメイクーが冷や汗を流す。ネモフィラだけは心配そうに顔を曇らせて、ミアの手をギュッと掴んで握った。


「ミア……。お気をつけ下さいね」

「心配はいらぬのじゃ。フィーラこそ、メイクーの側を離れるでないぞ?」

「はい。いってらっしゃいませ」

「うむ。いってくるのじゃ」


 二人は微笑み合い、そして、ミアはドラゴンから飛び降りて戦火の中へと消えて行った。

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