岩山村の出会い(2)
崖から落ちそうになった女性には龍の角が生えていて、豪華な貴族の衣装を身に纏っていた。大人の魅力が感じられ、この岩山の村に住んでいるとは思えない程の高貴な雰囲気を出している。だけど、そんな事は関係もないし、ミアにとってはどうでも良い事。ミアが身分の関係無い誰にでも見せる笑顔を向けると、女性はその顔をマジマジと見た。
「村の子では……ないわね。旅行?」
「うむ。そんなようなものじゃ」
実際はここに来た理由は旅行ではないのだが、別にわざわざ事情を説明して本当の事を言う必要も無い。だから、ミアは適当に話を合わせようと考えて頷いた。
「ところで何かあったのじゃ? 随分と暗い顔をしておったようじゃが」
「え? ああ……そうね。そう。そんな顔をしていたのね。それで心配で来てくれたの?」
「今にも身投げをしそうな顔だったから、無視するのも気が引けたのじゃ」
「優しい子ね。私にも貴女と同じくらいの年の娘がいるの。貴女のような子がお友達になってくれたら良かったのだけど……。上手くいかないわね」
「ふむ? 何かあったのじゃ?」
尋ねると、女性はため息を一つ吐き出して苦笑して、景色を眺め乍ら話し始める。
「身分に合わない子をお友達にしてしまったのよ。だから、もうそんな子達と関わっては駄目だと教えたのだけど、怒って部屋に閉じこもってしまったわ」
「なるほどのう」
女性の言葉や雰囲気を考えるに、恐らくこの女性は貴族の中でも上の方。だから、子供に厳しいのかもしれない。と、ミアは考えた。でも、子供からすれば身分なんて関係のないもの。だから、一先ずそれは置いておいて、ニッコリと笑顔を向けて人差し指を立てる。
「では、お主に一つアドバイスなのじゃ。ワシ等子供は一方的に駄目だと否定されるのが嫌いなのじゃ。悲しくなるのじゃ。だから、否定はしないでほしいのじゃ」
「……それなら、どうすれば分かってもらえるの?」
「ぬぬう。そこは難しい所なのじゃ」
ミアが腕を組んで唸ると女性は目を大きくして驚き、そして、クスクスと笑みを浮かべた。
「そこは悩むのね」
「仕方が無かろう。子と言えど千差万別。一人一人の考え方は異なるものなのじゃ。ワシは丁寧に説明してくれれば納得もすると思うのじゃが、お主の子が同じとは限らぬのじゃ」
「ふふふ。そうね。その通りだわ」
「おお。その調子なのじゃ。今ワシは肯定されて嬉しかったのじゃ」
「っ。……ふふふ。私も今お嬢ちゃんに褒められて嬉しかったわ。あ。そうだわ。助けてもらったお礼に何かしなくてはね。何か望み……ほしいものはある?」
「気にせんでええのじゃ」
「気にするわよ。何でも言って」
「ぬう……。なら、もし今度会う事があって覚えておったらでええかのう? 今はちと諸事情で物を貰っても持ち歩けぬのじゃ」
「それなら仕方が無いわね。分かったわ」
ミアと見知らぬ女性は笑い合い そして、女性から娘の自慢話や苦労話をたくさん聞いた。ミアはそれを嫌がらずに楽しそうに話を聞いて、陽が沈みかけた頃に二人は笑顔のまま別れた。
「そう言えば、名を聞いておらんかったのう。まあ良いのじゃ」
◇◇◇
「やはりここでしたか」
ミアと別れた見知らぬ女性の目の前に、ブレゴンラスドの精鋭騎士が現れ話しかける。その姿を見て、女性は小さくため息を吐き出した。
「思っていたより早いわね」
「いつもお悩みになると生まれ故郷であるこの村に来ますからね。……何かございましたか?」
「あら。どうして?」
「いえ。今朝見たお顔と比べて、随分スッキリと……晴れやかになっていましたので、少し気になったまでです」
「ふふふ。そう」
女性はミアの事を思いだして微笑む。その顔は優しさを見せていて、騎士は驚き目を疑い、しかし、直ぐに顔を引き締めた。
「帰りの竜を手配してあります。今直ぐ王宮へ戻りましょう。スピノ様」
スピノ。それは、ブレゴンラスドの王妃の名。女性は……スピノは笑みを浮かべて、怪しげな笑みをして頷いた。
「ええ。分かったわ。帰りましょうか。チェラズスフロウレスのゴミを掃除しに。うふふふふふ」




