岩山村の出会い(1)
革命軍に偽装したブレゴンラスドの精鋭の襲撃を受けてから数日が過ぎた頃。ミアはネモフィラとミントとメイクーとの四人で、岩山の上にある村へと訪れていた。尚、ミアがビビり散らかしていた為にクリマーテは連れ戻す事が出来なかったのだが、何故かレムナケーテ侯爵とも連絡が取れないでいた。だから、結局は結果的に連れ戻さなくて良かったと言う事になっている。さて、それはともかくとして、この岩山の村には野生のドラゴンがたくさんいる。しかも、比較的大きなサイズのドラゴンばかりで、ここに来たのもそのドラゴンが目的だった。
「わたくしはドラゴンに乗るのが初めてだからドキドキします」
「わ、私も……です」
ネモフィラとミントが楽しそうに会話して村を見て歩く。その少し後ろで歩き乍ら、ミアは岩山登りで出た額の汗を腕で拭った。
「ここからドラゴンに乗れば、王宮まで一時間もあれば着くと言うのは本当なのじゃ?」
「はい。ただ、ドラゴンを借りるのは結構お高いので、お金が底をつきてしまいます」
「いくらなのじゃ?」
「金貨五百枚くらいですね」
「…………」
(ぼ、ぼったくりすぎなのじゃ)
と言うわけで、これが目的。ミアたちはドラゴンを借りて、王宮までひとっ飛びする予定だ。
クリマーテが馬を借りたように、温泉街で馬車を借りて王宮に向かえばと思うかもしれないが、温泉街からは今現在移動手段が徒歩か馬しかない。ミアとネモフィラとミントは馬に一人で乗った経験が無いので、借りたところで乗馬は不可。町全体が襲われた事もあって馬車の数が少なく、唯一残っている馬車は救援活動や復旧作業に使われているので、それを借りるなんて流石に出来ない。そうなると徒歩で向かうしかなく、町から一番近い黄金街に行くくらいであれば、少し遠回りしてこの村でドラゴンを借りた方が結果的に早く王宮に到着する。急がば回れ。と言うことわざがあるように、ミアたちもそれを実行したわけだ。
「では、今日はこの村で休んで、明日の早朝に王宮に向かいましょう」
「今直ぐ借りないのじゃ?」
「はい。皆さん岩山を登るのに大変お疲れでしょうし、王宮では何があるか分かりません。少しでも万全の状態で挑むべきだと思います」
「確かにその通りかもしれぬのう。分かったのじゃ」
実際にメイクーの言う通り、ミアも岩山登りで疲れていた。それに、楽しそうに村の中を見ているネモフィラとミントも、結構汗だくで疲れが見えている。一度休んで万全な状態にするのは、今後の為にも必要な事だとミアは思った。と言っても、一番疲れているのはミアで、だからネモフィラとミントの後ろを歩いている。メイクーが隣を歩いて様子を見ないといけない程に。
「それにしても、本当にいっぱいおるのう」
そう言って視線を向けるのは、そこ等中にいるドラゴン。村人よりもドラゴンを見かける数が多い程で、本当にたくさんいる。そんなたくさんのドラゴンを見物し乍ら、今晩泊まる宿へと辿り着く。
受付で手続きを済ませると、ネモフィラとミントが疲れて寝てしまったので、メイクーに二人を任せてミアは村の散策を一人で開始した。村は岩山の上にあるだけあって何処に行っても景色が良く、風が涼しくて気持ちいい。野生のドラゴンも落ち着いていて、ミアは何度か子ドラゴンの頭を撫でたり戯れながら楽しんだ。そうして暫らく楽しんでいると、景色を一望できる崖沿いの広場に辿り着く。
ふと、崖沿いにある低めの柵の目の前で、憂いを帯びた目をして景色を眺める一人の女性の姿が目に入った。女性は今にも身投げでもしそうな勢いで、ミアはただならぬ気配を感じ、その女性に近づいて行く。するとその時だ。とても強い風が吹き、女性がフラッとよろめいて柵の向こう側へと落ちそうになり、ミアは慌てて女性を掴んで引っ張った。本来であればミアのような幼い子供の体では引っ張りきるなんて出来ないけど、魔法で身体能力を上げたのでなんとかなった。
「っぶなかったのじゃあ!」
まさかこんな非力そうな小さな少女に助けられるとは思わなかったのだろう。女性は肩で息をし乍ら胸を撫で下ろすと、ミアに視線を向けて驚いた顔を見せた。
「こ、子供……? あ。ごめんね。ありがとう。お嬢ちゃん」
「どういたしましてなのじゃ」




