龍神国の裏で動くもの
龍神国ブレゴンラスドと妖園霊国モノーケノランドの国境沿いの一部地域には、誰も寄りつかない断崖絶壁の崖があり、そこには革命軍のアジトの一つがある。崖のど真ん中にある為に向かうには危険な場所。だけど、景色が良くて眺めは素晴らしい。そんな危険な場所に作られたアジトだが、隣国からの“ふんどし”の輸入を防ぐ為には重要なポイントの一つでもあり、革命軍の者たちの出入は激しかった。そしてこの日、まだ陽が昇って間もない頃に、ケラリトことケーラがサウルことルーサを縄で縛って連れて来た。
「くっそ! いい加減に離しやがれ! 裏切り行為だぞ!」
「煩いわねえ。何が裏切りよ。勝手な行動ばかりして。貴女だって見たでしょ? アタシ達革命軍に変装した騎士たちの姿。このままだと騙された同志が奴等にやられて、何人も犠牲にする事になるわ。今は一旦引いて身を潜めるべきよ」
「知るか! 雑魚が死のうが関係ねえんだよ!」
「まあ。なんて事を言うの。アタシ達は仲間なのよ。ほら。ラティノも何か言ってあげてよ」
「あたいに振られてもなあ。だいたいサウルの独断は問題だけど、それについて行った連中だってあたいの命令を無視してるんだ。そんなのどう考えたって自己責任だろ。命令無視する連中なんて一々気にしてられないって」
「何言ってるの。貴女は隊長でしょ。それに元々この子は貴女を真似して男の子みたいになって乱暴になったのよ。せめてこの子の責任くらいは持ちなさい」
「ちょっと待て。サウルは家の事情で男として育てられたからで、アタイは関係無いだろ。そもそも龍人の女は殆どがこう言う喋り方だ。“ふんどし”のせいでな」
「やあねえ。何でもかんでもふんどしのせいはよくないわよ」
「ふんどしの呪いのせいで、女の体ではなく男の体で生まれてしまった。とか言ってる誰かさんには言われたくないね」
「あら? 誰の事かしら?」
ケーラがとぼけてみせて、ラティノがため息を吐き出した。と言うわけで、この場には革命軍隊長であるラティノもいる。ラティノはフカフカのソファで座っていて、頬杖をついてケーラにジト目を向けた。わけだが、その隣には魔宝帝国マジックジュエリーのルビーとトパーズの姿も。二人は黙って話を聞いていて、とくに口出ししようとは考えていなかった。
「それで? サウル。あんたは自分が何をしたか理解してるんだよな?」
「副隊長としてチェラズスフロウレスの第三王女をぶっ殺そうとしただけだ。このオカマに邪魔されたけどな」
「んまあ。オカマだなんて失礼ね」
「真実を言ったまでだろうが」
「アタシは乙女よ!」
「オカマの間違いだろ!」
「はいはい。二人とも落ち着きな。オカマとオナベで似たような仲なんだし」
「「全然違う!」わよ!」
「ほら。息もぴったりだ」
ケーラとルーサがラティノを睨んだ後に睨み合い、お互い同時にそっぽを向く。ラティノは苦笑し、その様子を見てルビーが微笑み、トパーズは冷や汗を流した。
「うふふ。いつ見ても貴女達の漫才は面白いわね」
「それは良かった。それよりもルビー。ありがとう。君のおかげでスパイが誰だか分かった」
「ふふ。いいのよ」
「あら? スパイが誰だか分かったの?」
「ああ。ルビーのお手柄さ」
ラティノがルビーに微笑み、そして、ケーラとルーサに告げる。
「ヴェロキラ兄弟。あの二人を……いいや。ヴェロを見つけ次第拘束、もしくは殺せ。先に忠告しておくけど、今まで見せていた実力に騙されるなよ。奴は王妃スピノお抱えの専属の諜報員兼暗殺者だ」
◇◇◇
所変わってブレゴンラスドの王宮。謁見の間にて、チェラズスフロウレスの国王ウルイと王妃アグレッティとサンビタリア王女が口と体を縄で縛られた状態で跪かされていた。
三人の目の前にいるのは王妃スピノ。豪華なドレスに身を包み、手に持つのは派手やかな扇。扇で口元を隠し乍ら、鋭い目つきでサンビタリアを睨みつけた。
「この女が私のプラーテに恥をかかせた忌々しいゴミ女。ヴェロ。よくやったわね」
「勿体無きお言葉に感謝いたします」
革命軍の十強……ではなく、スピノの専属としてこの場にいるヴェロ。彼は十強にいた時のような姿ではなく、ブレゴンラスドの正式な装束に身を包み、全身から漂う雰囲気も別もの。本当に同一人物なのかと疑問に思う程に、その姿はまるで別人だった。
「ところで、私の可愛い天使は今何処にいるのかしら?」
「プラーテ姫はアネモネ王女と共にご自分の部屋にいらっしゃいます」
「そう。ならば今直ぐその女を連れて来て、この愚か者どもと同じようになさい。独居房で反省させているゴーラには、犯罪者よりも相応しい女性を選ぶようにと伝えればいいわ」
「承知しました」
ヴェロは答えると、直ぐにこの場から立ち去る。ウルイとアグレッティは驚いて目を見開き、立ち上がろうとするも、それは騎士たちに取り押さえられて床に顔を押さえ付けられた。サンビタリアは驚きはしたものの、冷静な表情でスピノを見た。
「醜い連中だこと。でも、貴女のその目は気にいらないわね。サンビタリア」
スピノがサンビタリアに近づき、靴のヒールの部分で顔を踏んで地面に叩きつける。サンビタリアの頭からは血が流れ、ウルイがスピノを睨みつけた。が、スピノはそれを見て嘲笑うだけ。
「貴方達チェラズスフロウレスの王族には死刑を与えるわ。でも、安心しなさい。貴方達を捕まえる為に協力をしたアンスリウム殿下の功績を称えて、チェラズスフロウレスとの関係は今後も友好的にしてあげる」
アンスリウムが協力した。耳を疑うその言葉に、ウルイとアグレッティが驚愕し、そんな二人にスピノは愉快気に笑みを見せた。
「貴方達は売られたのよ。実の子、アンスリウム殿下にね。うふふふふ。ああ、可笑しい。なんて惨めなのでしょうねえ。チェラズスフロウレス王。うふふふ」




