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第二王子の奮闘記(2)

「あっちに泣いてる子がいるんだぞ」

「がお」


「がおー。悪者いたー」

「わあ! 殺しちゃダメなんだぞ!」


「焼きりんご出来た」

「美味しそうなんだぞ~」


「可愛らしいですね。ランタナ様」

「ああ。そうだね」


 天翼会のマスコットとも呼べる手の平サイズの二頭身、水の精霊プリュイと火の精霊ラーヴと再会したランタナとリベイアは、直ぐに国王たちの許に戻ったりはしなかった。……いや。正確には戻る事が出来なかったと言うべきか。

 プリュイとラーヴはそこ等中の炎を消しながら進んで、その都度逃げ遅れた人がいないか確認していたので、かなりのスローペースだったのだ。ランタナとリベイアも気持ちに余裕が出来たのもあって二人の人助けを手伝い、火の手が上がっている方へと進むものだから、どんどんと旅館から離れていく。途中で革命軍に偽装したブレゴンラスドの精鋭騎士や本物の革命軍に襲われたりもしたけど、プリュイとラーヴに敵う者は一人もおらず、まさに一騎当千。脅威など微塵も感じる事無く人助けをして進んでいた。おかげでランタナが強い魔法を使うコツを教わる余裕さえあり、その間におやつまで美味しく召し上がる。

 夜通し進んで気が付けば、いつの間にか町の東側の外まで来てしまっていた。


「ランタナ様。見て下さい。朝陽ですよ」

「本当だ。綺麗だね……って、しまった! もう朝だなんて!」

「っあ。どうしましょう。戻るつもりが朝になってしまいましたね」


 リベイアがうつむき、ランタナが頬にそっと触れる。その手のぬくもりを頬に感じて、リベイアが顔を上げると、ランタナは優しく微笑んだ。


「きっと他の皆も無事だよ。だから、そんな悲しい顔をしないでおくれ」

「ランタナ様……。はい。そうですよね」


 リベイアが微笑み、二人は見つめ合う。と、二人の顔の目の前にラーヴが「がお」と現れた。


「ドラが国まで送ってくれるって言ってる」

「ドラ……? ああ。ドラゴンの事――っかあああ!?」

「きゃあああああ!」


 突然謎の衝撃でランタナとリベイアの体が宙を舞い、上空高くでドラゴンが二人を背中に乗せる。いつの間にかプリュイとラーヴも二人のドラゴンの背中に乗っていて、ニコニコと笑顔を向けていた。


「ま、待ってくれないか! 私たちは今ここから国に帰るわけにはいかないんだ!」

「ん~? 風の音で聞こえないんだぞ?」

「ミア様やネモフィラ様たちを助けないといけません!」

「がお? 聞こえない。早く帰りたい?」


 残念ながら会話が成り立たない。何故ならここはドラゴンの背中の上で、もの凄い速度で飛ぶものだから、風の音で大声を上げても聞こえないのだ。因みに振り落とされないようにしがみつくのも大変で、ランタナとリベイアの余裕もどんどんと無くなっていく。そして、そんな二人の必死に気が付くのが精霊たちには出来ず、町が見えなくなって暫らく経つ頃に事件が起きる。


「――っきゃあああああああ!」

「リベイア!」


 リベイアが耐えられずに手を離してしまい、真っ逆さまに落ちてしまった。ランタナは躊躇ためらう事なく直ぐにドラゴンから手を離し、飛び降りてリベイアの後を追う。それを見て、精霊たちは顔を真っ青にして慌てて飛び降りた。


「今度こそ! 今度こそ君を!」


 ランタナが手を伸ばしリベイアを捕まえて、絶対に離さないと抱き寄せる。


「ごめんなさい。私のせいで……っ」

「泣かないで。リベイア。君のせいなんかじゃないさ。それよりも、私にしっかりと捕まっていてくれるかい?」

「絶対に離しません!」

「ありがとう。私も絶対に君を護ってみせるよ」

「ランタナ様……」


 精霊二人に魔法のコツを教わって、ここまでの短い時間でどれだけ成長できたかなんて分からない。だけど、そんな事は関係無い。愛する人を護る為に、ランタナは七歳と言うその幼い体に宿る魔力を全力で解き放つ。


「グラビティコントロール!」


 ランタナが魔法を唱えると、二人の体はその場に浮いて動きを止める。この土壇場でランタナが放ったのは重力の魔法。天翼会の土の精霊ラテールが使っていたものと同じ属性の魔法で、非常に使用困難な上位魔法だ。幼いランタナが使う事が出来る筈もないもので、これは奇跡と呼ぶに相応しい出来事だった。


「凄い! 凄いです! ランタナ様!」

「……本当に、本当に私がこれを…………」


 リベイアが嬉しそうに喜び、ランタナを抱きしめる腕に力を込める。ランタナはまさか本当に使えるとは思わず、自分自身が一番驚いていた。


「わあ! 凄いんだぞ! ランタナさんが重力の魔法を使えたんだぞ!」

「がお。ランタナえらい」

「ありがとうございます。プリュイ先生、ラーヴ先生。二人のおか――っ! 先生!?」


 プリュイとラーヴがランタナの成長に喜んでくれているが、二人は未だに落下中。ランタナとリベイアを通り過ぎて、ニッコニコの笑顔で地面に向かってひも無しバンジージャンプの真っ最中だ。


「きゃあああああ! ランタナ様! お二人が!」

「分かってる!」


 リベイアの笑顔は真っ青な顔に変わり、ランタナも焦って精霊二人に魔法をかける。そうして何とか地面に落ちる前に精霊二人を助けたランタナは、ゆっくりと地面に降りた。だけど、上位の魔法を使えたからと言って、喜んでばかりもいられない。


「魔法が使えたのは素直に嬉しいけど、これからどうしたものか」

「はい。どうしましょう……」

「がお? どうしたの?」

「ドラゴンさんがアタシ達に気付かずに行っちゃったんだぞ」


 降り立ったのは見渡す限り同じ景色な荒野のど真ん中。落下していたのもあって、どの方角から来てどの方角に向かっていたのかも分からない。つまり、ランタナたちは迷子になってしまったわけだ。

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