第二王子の奮闘記(1)
「私に構わず逃げろ!」
「出来ません! ランタナ様も一緒に――っきゃあ!」
「リベイア!」
時は少し遡り、ミアが工場へと向かいいなくなり、ルーサの襲撃を受けた更に後の事。本物の革命軍の乱入により、革命軍に偽装したブレゴンラスドの精鋭騎士との戦闘も混乱が増し、ランタナはリベイアを連れて逃亡していた。今この場に護衛の騎士は一人もいない。しかし、それは護衛を連れずに逃げたからではない。
逃亡の理由は側近のボルクの提案で、最初は護衛騎士を連れての事。この場を逃げると誰にも告げずに逃亡する事で、少しでも敵に知らせないようにとひっそり逃げた。だが、考えが甘かった。旅館を出た後に直ぐ気がつかれて戦闘になってしまったのだ。しかも、相手はブレゴンラスドの精鋭部隊の騎士。平和な国で育ったチェラズスフロウレスの騎士と違い、ブレゴンラスドでは革命軍を始めとした脅威との戦闘経験が豊富。実力の差は歴然だった。ボルクや護衛の助けでランタナとリベイアだけはなんとかその場から逃げ出せたが、それでも直ぐに追いつかれてしまった。そして、ランタナはリベイアを逃がす為の時間を稼ごうとしたけど、あっさりとリベイアが捕まってしまったのだ。
精鋭騎士はリベイアの腕を掴み、持ち上げた。非力で武器も持たないリベイアには抵抗するだけの力も無く、恐怖に震えて怯えるだけ。ランタナは精鋭騎士を睨みつけて、焦りを感じながら剣を構えたが、敵の隙の無さとリベイアを捕らえられている事で一歩を踏み出す事すら出来ない。
「チェラズスフロウレスの第二王子ランタナだな。この娘の命が惜しいのであれば、我々に従え」
「…………」
「ランタナ様いけません! こんな人たちの言葉を――っんむ……っ」
「リベイア!」
精鋭騎士はリベイアの口を手で塞ぎ黙らせて、ランタナを鋭く睨んだ。
「どうする? 言う通りにするのであれば、この娘だけは逃がしてやってもいいが?」
「――っ。それは本当か?」
「ああ。本当だ。我々の狙いは王族のみ。こんな小娘にはなんの価値もない。お前を脅す人質意外にはな」
「……分かった。言う通りにする」
「賢明な判断だ。まだ幼いとは言え王の血筋と言う事か。まずは武器を捨てろ。それからゆっくりとこっちに来い」
ランタナは言われた通りに武器を捨て、ゆっくりと歩き出す。捕らわれているリベイアの瞳からはぽろぽろと涙が溢れだし、そうさせてしまった自分の無力さにランタナは落胆した。必ず護ってみせると決めて鍛錬を怠らずに必死に頑張ってきたのに、その結果がこれでは意味が無いと、自分自身に苛立ちを覚えた。しかし、その時だ。
燃え盛る業火の炎が精鋭騎士に降り注ぎ、それはリベイアを燃やさず精鋭騎士の全身のみを炎に包む。
「あああああああああっっ!」
「――っな、何が起きて……っ!?」
ランタナとリベイアは驚き、そして、全身を炎で包まれた精鋭騎士がリベイアを離して叫びながら倒れた。すると次の瞬間、まるで大きな滝のように、大量の水が精鋭騎士に降り注いで炎を消す。そして、何が起きたのか分からず驚くランタナとリベイアの目の前に、二人の精霊が舞い降りた。
「ラーヴ、ちょっとやり過ぎなんだぞ」
「がお? 悪い人は手加減しちゃダメって、リリが言ってたよ」
「リリさんの戦闘アドバイスは一番聞いたらいけないアドバイスなんだぞ」
「がお?」
二人の精霊。それは、天翼会の水の精霊プリュイと火の精霊ラーヴ。天翼会ではお馴染みの手の平サイズの二頭身。天翼会の制服に身を包み、プリュイは可愛らしいツインテールで、ラーヴは可愛らしい怪獣の着ぐるみパジャマを身につけている。見間違える筈のないそんな二人とのまさかの再会に、ランタナとリベイアの驚きは増していくばかりだ。
「ぷ、プリュイ先生にラーヴ先生……? あ。そう言えば、温泉街に行くと聞いていたっけ……」
「は、はい。まさかお二人に助けて頂けるなんて……」
ランタナとリベイアが驚きながらも精霊たちに近づくと、ランタナが怪我を負っている事に気がついて、プリュイがニコニコ笑顔でランタナに癒しの雨を浴びせて微笑む。
「ランタナさんとリベイアさんを見かけたから助けに来たんだぞ」
「がお。悪者やっつける」
なんとも頼もしく、可愛らしい助っ人が二人の前に現れた。




