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龍神国の不可解な行動

「更にややこしい事になっておるのう」


 部屋の扉の前で、メイクーから何があったのか話を聞いたミアは驚き耳を疑った。


「はい。申し上げた通り、国王陛下と王妃様とサンビタリア殿下のお三方は、ブレゴンラスドの騎士に保護されました。しかし、革命軍に偽装したブレゴンラスドの精鋭部隊に我々チェラズスフロウレスの騎士が無力化された後の事なので、何か裏がありそうです」

「うむ。ただ保護するだけであれば、偽装した精鋭部隊が国王等を襲う必要が無いし、そもそも偽装する意味が無いのじゃ。しかも自分達の国の町を襲わせておる。保護だけが目的であれば、ここまで大がかりな事をする必要も無い筈なのじゃ」

「はい。それに万が一にでもこの事がきっかけで国同士の戦争が起きてしまえば、天翼会が戦争を仕掛けた側の魔装ウェポンの機能を停止します。今回の件は誰が見てもブレゴンラスドに非があります。そんなリスクを背負ってまでする必要がある何かが、ブレゴンラスド側にあったのでしょう」


 天翼会が学園の卒業生に持たせたままにしている魔装ウェポンは、天翼会が機能を停止できるようになっている。これは天翼会に逆らう国がない理由の一つとして十分な程のもので、この世界で国同士の戦争が無く、平和が保たれている理由でもあった。それ程に魔装ウェポンと言う兵器は魅力的で、そして、政治をする上でも重要なのだ。


「ところで、グラッセさんとルニィさんが偽装した精鋭部隊に捕まったと言うのは本当なのじゃ?」

「クリマーテから聞いた話ですけど、ミア様の後を追って工場に向かっていた時に襲撃されたようです。その時、襲撃した者の一人が、アネモネ殿下の価値はこの程度か。所詮は国を出て行く王女だな。と漏らしていたそうです。その辺はクリマーテが目を覚ましてから確認した方が良いかもしれません。私は現場に立ち会ったわけではなく、一人で逃げていたクリマーテを助けて事情を聞いただけですから」

「それを聞くと、国王等を保護と言うのも胡散臭うさんくさいのう。やはり何か狙いがありそうなのじゃ」


 ブレゴンラスドの動きは不可解な事ばかり。どうにも分からない事ばかりで、ミアは腕を組んで考え、まとめる。


「メイクー。お主はクリマさんと一緒にフィーラとミントを連れて、今直ぐチェラズスフロウレスに戻ってこの事をアンスリウム殿下に伝えてくれぬか? それに、保護と言うのも怪しいのじゃ。最悪の場合は国王等を助ける為にアンスリウム殿下が戦争をしかけるかもしれぬ。だから、それを止める者が必要なのじゃ。ワシはこの国に残って最悪な状況を阻止して、国王等全員と一緒に国に帰るのじゃ」

「――っ。ま、待って下さい。ミア様を一人になんてさせられません!」

「しかしのう。ランタナ殿下とリベイアの行方だって分からぬのじゃぞ? アネモネ殿下はゴーラ殿下と一緒じゃから心配はいらぬと思うが、二人の事も無視出来ぬのじゃ。サーチライトで捜し出して、早く見つけ出して迎えに行く為にも、ワシ一人の方が動きやすいのじゃ」

「そ、それは……」

「私が一人で行きます」


 不意に聞こえたのはクリマーテの声。クリマーテが目を覚まして、扉を開いて目の前に現れたのだ。クリマーテはミアの顔を見るとホッとした表情を見せて、直ぐに真剣な面持ちになった。


「お元気になられたようで安心しました。お目覚めになられた時に眠ってしまっていて申し訳ございません。ミアお嬢様……。アンスリウム様へのご報告は私一人で行きます」

「一人でじゃと? 流石にそれは危険なのじゃ」

「分かってます。でも、こんな事になったのは、私が先に温泉街にと陛下に提案したのが原因なんです。だから、その責任を取らせて下さい」

「そう思うなら貴女はミア様と一緒にいるべきよ」

「メイクー。それは違うよ。昨日の晩にネモフィラ様から精鋭騎士の事を聞いた時に話したでしょう? 今この国を出ようとすれば、必ずブレゴンラスドの騎士に目を付けられる。だから、チェラズスフロウレスに帰るのも簡単じゃないかもしれないって。国に帰ってこの事を知らせる誰かが必要なら、それは私なのよ」

「それは……」

「ネモフィラ様とミント様はきっとミアお嬢様とご一緒の方が安全。何かが起きた時にミアお嬢様の負担を減らせるのは、悔しいけど私じゃない。メイクーなんだよ。私は身辺のお世話が出来るだけで、でも、それはミアお嬢様には必要が無いんだもの。だから、アンスリウム様に知らせる役目は私しかいないの」


 クリマーテの覚悟は決まっていた。ミアとクリマーテの目がかち合い、その真剣さをミアは受け止める事にした。


「確かにフィーラとミントの安全を考えれば、それが一番よいのかもしれぬ。分かったのじゃ。クリマさん。アンスリウム殿下にこの事を伝えてほしいのじゃ」

「必ずお伝えします。ミアお嬢様が皆を連れて帰るから心配いらないって」

「うむ。頼んだのじゃ」


 ミアとクリマーテは頷き合い、そして――


「ミア! 交換日記を旅館に置いて来てしまいました!」

「…………」


 ――どうにもしまらない。王女とは思えない程に扉を豪快に開けて現れたネモフィラの言葉。ミアとクリマーテ、そしてメイクーは驚いて、めちゃんこ焦りまくっているネモフィラを見て冷や汗を流す。


「大変です! 大事件です! 今直ぐ取りに行きましょう!」

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