睡眠は大事
ルーサとケーラの激しい戦いが始まると、ミアは逃げた。まさかの逃亡に思うかもしれないが、そもそもミアは戦闘狂でも無いし、引きこもり思考なので面倒臭い事には関わりたくないのだ。逃げるのはミアの性格を考えれば至極当然の事。
逃げた先で人気の無い岩場を見つけると、そこに身を潜める。途中でミントが目を覚ましたので、一先ずは安心となった。
「ふう。ここまで来れば大丈夫なのじゃ」
「逃げてしまって良かったのでしょうか……?」
「わ、私は少しホッと……しました」
「うむうむ。ミントの言う通りなのじゃ。わざわざ危険な場所に居続ける必要も無いのじゃ」
「そうなのですけど……」
(ミアの活躍をもっと見たかったです)
意外と気持ちに余裕のあるネモフィラ。中々に逞しいが、そんなネモフィラを心配する声が。
「ネモフィラ様! お怪我はございませんか!?」
「あ。メイクー。はい。ミアのおかげでわたくしは大丈夫です。わたくしよりもミントの方が心配です」
「わ、私も大丈夫……です」
「おでこにたんこぶが出来とるのじゃ」
「は、はい……。ぅぅ……」
まだ通信用の魔道具が繋がっていた為に、一連のドタバタを見たメイクーが動揺しまくっていた。だけど、被害はミントの可愛いおでこにたんこぶが出来ただけ。たんこぶを触って少し涙目のミントを見て、ネモフィラは苦笑交じりの笑顔をメイクーに向ける。それから二人で現在位置など情報を話し合った。
メイクーと合流する事になり、更にはメイクーの近くにクリマーテがいる事も分かった。と言っても、今はこの場にはいないようで、二人は待ち合わせ場所を決めて周囲に誰かいないか確認している所だったようだ。
「今直ぐクリマーテと行きます! 待っていて下さい! 待っていて下さいね!」
大事な事なので二回言ってメイクーが通信を切り、ネモフィラとミントが苦笑する。その様子を少し離れた場所から眺めながら、ミアは大きくあくびした。
(今何時かのう? ちょっと眠いのじゃ)
眠気眼をこすって、もう一度大きなあくびをする。久しぶりに動き回って、しかもそれが体が動かない程にだから、ミアはオネムの時間になってしまっていた。と言っても、夕ご飯を食べてから暫らく経っていて、夜空の星が綺麗に輝く時間だ。眠くなるのは当然で、時間は二十一時を過ぎている。
中身が前世八十まで生きたお爺ちゃんのミアと言えど、体は五歳児。良い子は寝る時間。しかし、色々あって未だ興奮が冷めないネモフィラとミントは眠気が全く無いようで、まだまだ元気である。ミアが二人に見せた戦いの事で盛り上がっていて、眠気とはかけ離れた状態だった。
(メイクーとクリマさんが来たら、少しだけ仮眠……いやいや駄目なのじゃ。まだ眠るわけにはいかぬ。皆の無事を確認するまでは寝たら駄目なのじゃ)
今はのんびりと寝ている時ではない。と、ミアは自分に言い聞かせて背伸びする。でも、体は正直で己の意思とは関係無いもの。ミアがどれだけ眠っちゃ駄目だと思っていても、睡眠を求めて力が抜ける。うとうと眼でフラフラ体を揺らして、ネモフィラとミントを見つめ乍ら目を閉じた。
◇◇◇
「――っ。寝てしまったのじゃ」
目が覚めて飛び起きると、見知らぬ天井や壁に囲まれた狭い部屋。ミアは周囲を見回して状況を確認する。
「フィーラとミント……あ。クリマさんなのじゃ」
川の字になって眠っていたようで、隣には幸せそうに眠るネモフィラとおでこがまだちょっと赤いミント。少し離れた椅子の上ではクリマーテが眠っている。窓から外を見るに、朝陽が昇る頃のようだ。思いの外長く眠ってしまっていたようで、おかげで体力も回復して、お目々もパッチリとして爽やか。完全回復したミアは、若い体は回復が早いなどと思いながら、静かに部屋を出た。
部屋を出ると、扉の横にメイクーが立っていたようで、ミアの元気な姿を見て笑顔になる。
「ミア様。目を覚まされたのですね。随分お疲れだったと伺いました。お元気になられたようで良かったです」
「うむ。おはようなのじゃ。心配をかけたようじゃのう。メイクーはずっと見張りをしてくれておったのじゃ? ありがとうなのじゃ」
「いえ。礼を言われるほどの事では……。それよりも早速ですが、状況を説明したいと存じます」
メイクーはそう告げると、とても真剣な面持ちで何が起きたのか説明を始めた。




