第三王女の秘密魔道具
町の外郭周辺まで辿り着くと、そこには避難して逃げ延びた人々で溢れかえっていた。しかし、その顔はどれも焦燥が現れていて、誰もが疲弊していた。そしてその向こう側、町には炎が燃え広がり、まだ消える様子が全く無い。ここからでは町の中の様子が分からないし、今のミアでは魔法が使えても体力がもたずに中に入るのは危険。流石にミアも炎の中を飛び込もうなどと思えなかった。
「困ったのう」
「はい。これから先、わたくし達はどうすれば良いのでしょう?」
「ミア様の侍従の方達と……合流は出来ないの……ですか?」
「ワシを追って南側の工場に向かったのであろう? ここからだと真逆じゃし、ちと難しいのじゃ」
「わたくしは転移の魔道具で移動させられたので分からなかったのですけど、ここは北側なのですか?」
「うむ。だから、町の中を歩けぬ以上、町をぐるっと回らんといかんのじゃ」
「そうなのですね……あっ。ミアの魔法でわたくしを見つけてくださった時に、他に誰か見つからなかったのですか?」
ミアの魔法サーチライトは白金の光を周囲に放ち、その光に触れたものの居場所を見つけ出す効果を持つ。その為ミアの体力とは関係なく、使うのは魔力なので今でも使えるのだが、アホなミアはともかくネモフィラやミントはまだ幼いのでそこまでの考えには至っていない。きっとルニィたち大人がいれば提案してくれただろうけど、ここにいないので仕方が無い。
そんな中、ネモフィラはふと思ったのだ。今使えばいいと言う発想ではなく、自分を捜し出す時に町の外まで光を伸ばしたのであれば、その時一緒に他の者も見つかっている筈だと。だけど、今回ばかりはそうはいかなかった。
「すまぬのじゃ。あの時は頭に血が上っておって、フィーラ以外を度外視して検索してしまったのじゃ」
「わたくし以外をドガイシ……ですか?」
「うむ。フィーラを助けだそうとする事に頭がいっぱいで、他の者の居場所は分からなかったのじゃ」
自分を助ける為に頭がいっぱい。そのせいで他の者の事が分からなかった。そんなミアの言葉に、ネモフィラは嬉しくなって満面の笑みを見せる。それだけ自分がミアにとって大切な人だと思われてると実感して、こんな時だと言うのに幸せで心が満たされていった。そしてそんなネモフィラを見て、ミントも嬉しそうに笑みを浮かべた。
「な、なんで二人とも笑顔なのじゃ……?」
「うふふ。なんでもないです」
「はい。なんでもない……です」
「ぬぬう」
(まさかワシのマヌケっぷりに笑いが止まらぬとか、そう言うアレなのじゃ!? い、いや。落ち着くんじゃワシ。二人はそんな意地悪では無いのじゃ……。ぬおおおおお! しかし、それなら何故笑われたのじゃあ!)
この聖女、本当に変なところで鈍感である。本当に前世で八十まで生きたのか疑問な程に。
「……あの、わたくしには一つだけメイクーと連絡を取り合う手段があります」
ここまで来たは良いものの、何も出来なくてどうしようかと困っていると、ネモフィラが恐る恐る声を上げた。ミアとミントが驚いて視線を向けると、ネモフィラは言い辛そうに言葉を続ける。
「内緒にしていなければならない事で、ジェンティーレ先生に秘密と言われていたのです」
「ジェティじゃと? どう言う事なのじゃ?」
友人である天翼会のジェンティーレの名前が出るものだから、ミアは首を傾げてミントを見る。だけど、ミントだって分からないので、首を横に振ってネモフィラに注目するだけ。
ミアがネモフィラに視線を戻すと、ネモフィラは意を決したような表情を見せて、着物の袖に手を突っ込む。すると、袖に隠れて見えていなかったけど腕輪をはめていたようで、それを外して二人に見せた。
「なんじゃこれ?」
「持ち運び可能なミア派専用通信魔道具です」
「ミア派……?」
「ぐぬぬう。ジェティの奴め。そんなものを作っておったのか」
「ネモフィラ様、ミア派とはどんなものなの……ですか?」
「メイクーが立ち上げたミアの派閥です。今はミアの正体を知る者しかいませんけど、ゆくゆくは世界中に派閥を広げる予定です」
「そんなんしなくていいのじゃ」
「そ、そそそ、そんなものがあったのです……ね!? 私も入りたい……です!」
「なんでじゃ!?」
「わあ! 本当ですか!? 歓迎します!」
(ぬおおおおお! 欲しくもない派閥が地味に拡大と進化をしていっておるのじゃあああ! おのれジェティめ! 覚えておれよ!)
ネモフィラとミントが盛り上がり、ミアが顔をゲッソリさせる。“引きこもり計画”がまた一つ遠ざかった瞬間をミアは垣間見てしまった。
ネモフィラは腕輪に魔力を流し込み、その直後に腕輪が変形して置き鏡のような形へと姿を変えた。それはまさにミア派が顔を映し出して話し合っていた時に使っていた物で、ジェンティーレがミア派に提供した魔道具だ。
「メイクーに呼びかけてみます」




