表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/999

聖女の本気(1)

「っ遅かったのじゃ……」


 旅館まで戻って来ると、そこは既に戦場になっていた。旅館だけでなく周囲の建物までもが既に原形をとどめておらず、所々に火の手が上がっている。せめてもの救いは死体が転がっていない事だが、目に見える範囲の事で実際にどうなっているかが分からない。避難した人々が身を震わせて燃える旅館の近くに集まっていた。

 ミアは直ぐにでも魔法でネモフィラたちの居場所を突き止めようとしたが、それは直ぐにやめた。何故なら、身を震わせていた集団の中に、顔をうつむかせて震えるミントの姿を見つけたからだ。


「ミント!」

「――っ」


 ミントが顔を上げて目がかち合う。直後に目から涙がポロポロと零れ落ち、ミアに向かって走り出した。


「ミア様。ミア様……っ」

「無事で良かったのじゃ。何があったか説明してほしいのじゃ」

「は……い…………っ」


 ミアはミントを抱きしめて、腕の中で泣くミントに申し訳ないと思いながらも質問した。ミントも辛い気持ちを涙で吐き出しながら、しっかりと伝えなければと頑張る。


「革命軍の……サウルと言う人が襲って……来ました」

「副隊長じゃな。この惨状はそのサウルと言う者の仕業なのじゃ?」

「違い……ます。その人……は、最初は旅館の中で暴れた……けど、直ぐに外で……って言いだしました」

「だから周囲も酷い状況になっておるのじゃな」


 ミアの言う通り、悲鳴は聞こえてこないものの、そこら中が火の海だ。離れた場所からは幾つか戦闘の音が聞こえてきている。今現在この場で戦いが起きていないだけで、既にここ等一帯は戦場と化していた。


「こんな風にした……のは、その人ではない……です。外に出ようとした時に……革命軍が……旅館の中に流れ込んで……来ました」

「革命軍なのじゃ?」

「はい……。その人達……は、何故か仲間のサウルって人まで襲い始めて……私達も襲われて……ネモフィラ様が捕まって……しまいました」

「なんじゃと!?」


 ミアはミントを抱きしめるのをやめて体を離し、真剣な瞳を向けた。


「場所は分かるか!? 教えてほしいのじゃ!」

「分かりま……せん……っ! ネモフィラ様は……私を王女だと勘違いした革命軍から……私を庇う為に自分から名乗り出て……。でも、私は……私のせいなのに……何も出来なくて…………」


 ミントはうずくまるように泣き崩れた。五歳の女の子なのだから何も出来なくて当然で、それは仕方がない事。そもそも狙いがネモフィラだったのだ。誰も責めないし、責任なんてあろう筈もない。だけど、ミントは自分のせいでネモフィラが連れ去られてしまったと涙を流した。

 ミアは沸々《ふつふつ》とした怒り覚えながら、蹲るミントに優しい声で「お主のせいではないのじゃ」と、背中を優しくさすってあげた。そして、ネモフィラが連れ去られたと言う事実が、少なからずも未だにミアの中にあった体裁を全て消し飛ばした。


「ミミミ、魔法補助モードなのじゃ」


 ミアの言葉にミントが顔を上げて、その姿に涙がピタリと止まる。翼の耳を持つうさぎと、聖なる白金はくきんの光を放つミア。神々しくも激しい白金の光にミアが包まれている。その姿があまりにも美しく眩しいので、直視できない程に。


「ミア……様? これは……この光は…………」

「見つけたのじゃ」

「え……?」


 次の瞬間、ミントはミアに掴まれて一瞬で風景が変わる。いや。正確には移動したと言うべきか。旅館の前で話をしていたミアとミントが今いる場所は、町の外。遠目には燃える町が小さく目に映り、およそ数キロ程度は離れた場所。ミントはミアの光速移動によって、一瞬で町の外までやって来たのだ。

 普通であればミントの肉体は光速についていけないが、ミアの魔法で護られていた為に何の問題も無く、おかげでミントは体の異常を感じる事も出来ずに本気で何が起きたのか分からない。そして、そんなミントにも直ぐに理解出来る事があった。


「――っ! ネモフィラ……様…………?」

「ミント……? ――っミア!」


 そう。ミアがミントを連れて来たここはネモフィラの目の前であり、ネモフィラを連れ去った革命軍たちの目の前だったのだ。

 革命軍は突然目の前に現れた二人の登場に驚愕きょうがくする。ネモフィラはミントの姿を見て動揺を見せたが、直ぐにその隣にいたミアの姿を見て花を咲かせるように笑顔になった。


「お主等。覚悟は出来ておるんじゃろうな?」


 ミアが初めて誰かを本気で睨みつけた瞬間だった。そして、そんなミアを見て、ネモフィラは恐怖に体を震わせる。


(ミアが……“王子さま”が、わたくしを助けに来てくださいました! キャーッ! まるで本の中の物語のようです!)


 ごめんなさい違いました。はい。恐怖じゃ無くて興奮で体震わせてるねこの子。キャーッじゃねえよ。ってな感じで、ミントの涙返せな反応を見せたネモフィラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ