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龍神国のお姫様からの手紙

 革命軍【十強】ヴェロキラ兄弟の襲撃は、大きな事件として騒ぎになっていた。湯けむりの町スモークドロップに駐在しているブレゴンラスドの騎士も集まって、ゴーラが対応に追われている。ミアたちも温泉どころでは無くなってしまい、今日は旅館で待機となった。


「またミアの活躍を見る事が出来ませんでした……」

「活躍したのはワシではなくメイクーなのじゃ」

「ミア様。何を仰いますか。そんな事はございません。私が至らないばかりに、プラーテ様を危険に晒してしまいました。ミア様がいらっしゃらなければ、きっと事態は深刻なものになっていた事でしょう」

「ぬう。それは言いすぎなのじゃ」


 冷や汗を流して否定するミアだが、メイクーは自分の意見を曲げるつもりが全く無い。そしてそれをネモフィラが目を輝かして聞いている。と言うわけで、旅館に戻って来たミアは、現在お茶を飲みながらお喋りを楽しんでいた。この場にはミアとネモフィラと二人の侍従がいて、ミントたちはおらず、各々で自由に休息を楽しんでいた。


「でも、革命軍がまさかブレゴンラスドの王族以外を狙うとは思いませんでしたね。ミアお嬢様が襲われたって最初に聞いた時は、温泉で暖まった体が一気に冷めちゃいましたよ」

「私もだ。ミア様の護衛でありながら、肝心な所でお側にいないなんて……。本来であればあってはならない事です」

「まあまあ。クリマさんもグラッセさんも、そう気を落とさんでも良いのじゃ」

「ミアの仰る通りです。元々はわたくしがランタナお兄様とリベイアの様子を見たいと言ったのが原因です。気にしないで下さい」

「ミアお嬢様、ネモフィラ様。ありがとう存じます」

「お気遣いに感謝します」


 クリマーテとヒルグラッセがミアとネモフィラに礼を言ったその直後。部屋の扉をトントンとノックする音と「ミントです」と声が聞こえてきた。

 ミアとネモフィラは一先ずこの話はここまでとして、ミントを部屋の中に入れる事にする。ミントは部屋に入って来ると、少し言い辛そうに眉尻を下げて話し始めた。


「あ、あの……プラーテ様がこれを渡してほしい……って仰られて……」

「手紙ですか?」


 恐る恐るといった感じでミントが手紙を差し出して、それをネモフィラの侍従ルティアが受け取る。そしてその内容を確認したうえでネモフィラに見せた。


「夕食の後に遊ぼうと書いてあります」

「別に遊ぶのは構わぬのじゃが、プラーテは革命軍に狙われておるのに大丈夫なのかのう?」

「はい。それに護衛の騎士がいるとは言え、手紙を渡す為にここまで来るなんて……。帰り道で襲われなければ良いのですけど」

「そうじゃなあ。そもそも手紙の受け渡しなぞ騎士に頼めば良いのじゃ」


 ミアとネモフィラがプラーテを心配していると、ミントが「実は……」と更に眉尻を下げて言葉を続ける。


「プラーテ様はお一人だったん……です」

「な、なんじゃと!?」

「それは本当ですか!?」

「は、はい……。ゴーラ様や……騎士の皆さんに内緒で……出てきたと言って……ました」

「大変です! ミア!」

「うむ! 直ぐに追うのじゃ! 何かあってからでは――」

「その必要は無いわよ」

「――っ! サンビタリア殿下……?」


 ミアが急いでプラーテの後を追おうとした時に声を上げたのはサンビタリア。いつの間にいたのか、扉を開けて立っていた。サンビタリアは慌てた様子のミアとネモフィラを見て苦笑すると、落ち着いた様子で部屋に入った。


「お姉様? それはどう言う意味ですか?」

「そのままの意味よ。プラーテが一人で旅館を出て行ったのを私とアネモネが見ていて、アネモネが駐屯地まで送るって護衛たちを連れて出て行ったのよ」

「なんじゃ。それなら安心なのじゃ」

「ええ。良かったですね」


 ミアとネモフィラが安堵あんどして、ミントの下がっていた眉尻もようやく元に戻る。そんな三人を見てサンビタリアは再び苦笑して、冗談めかして言葉を続ける。


「アネモネはゴーラ様に会いに行く口実が出来て喜んでいたわ」

「ふふ。では、プラーテに感謝ですね」

「あら? ブレゴンラスドの騎士達からすれば、とっても迷惑な話よ」


 ネモフィラとサンビタリアが笑い合い、その様子にミアとミントも笑みを零す。


「ところで、お姉様は何をしにいらしたのですか?」

「何しにって失礼ねえ。ミントが凄く動揺した様子で歩いてたって侍従から聞いて、もしかしてと思って来たのよ」

「そうだったのですね。ありがとう存じます」

「いいのよ。それより夕食はまだでしょう? お父様とお母様が先に済ませてほしいと言っていたから、私達で食べに行くわよ」

「分かりました。確か食事をする広間があるのですよね?」

「ええ。タタミ? とか言う妖人の国の文化を取り入れた敷物がある広間だそうよ」

「ほう。たたみとは、ちと楽しみになってきたのじゃ」

「ミアは知ってるのですか?」

「うむ。ワシが住んでい……みたいと思っておる住まいに必要なものなのじゃ」

「わあ。そうなのですね。わたくしも楽しみです」


 はい。この聖女、本当に気を抜くと直ぐ危うい事を言う。あと一歩間違えれば、間違いなく「住んでいた」と言葉を続けていた事だろう。しかし、なんとか今回も誤魔化せた。

 ミアは冷や汗を流しながら笑顔を見せ、そして、逃げるように「飯なのじゃ!」と叫びながら出て行った。そんなミアの後ろ姿を見(なが)ら、ネモフィラたちはよっぽどお腹が空いていたのだろうと勘違いして、それを可愛いと笑みを零した。

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