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温泉で自我を保つ方法

 ミアが着替えた水着は、可愛らしい白地のビキニの水着。五歳児にしてはビキニと言うやや大胆な水着姿だが、布面積が少ない方がミア的には落ち着くらしく、侍従たちの心配をよそにミアが選んだもの。ただ、侍従たちがせめてこれだけでもと短めのパレオを腰から巻かせていて、温泉に入るには邪魔に見えなくもない。

 ネモフィラが水着に着替え終わると、早速一緒に温泉に入る。と思いきや、まずは体を洗う為に洗い場へとやって来た。だけど、背中を流し合うと言うわけではなく、体を洗うのはお世話をする侍従の役目。ミアは侍従たちに体を洗われながら、こんな場所でもこうなってしまうのかと肩を落とす。

 体を洗い終える頃、サンビタリアとミントと言う珍しい組み合わせがてやって来た。


「ネモフィラとミアはここにいたのね。ミントを連れて来て上げたわよ」

「そう言えばおらんかったのう。何処に行っておったのじゃ?」

「プラーテ様に捕まって……いました……」

「な、なんじゃ? 随分と暗いのじゃ」


 ミントの顔は何故か曇っていて、顔も少しうつむいている。


「それは……」

「この子、ミントはさっきまでプラーテに付きあわされて、そこ等中を走り回ってたのよ」

「それはご苦労じゃったなあ。プラーテは元気だから大変だったじゃろう?」

「はい……。一生分……走りました…………」


 少し大袈裟にミントは言うけど、ミアはそうは思わなかった。何故なら、ここの混浴温泉の浴場の広さは想像以上に広いからだ。浴場は様々な各エリアに別れていて、温泉を冷ませた水風呂コーナーやサウナにシャワー室。その他にも色々と備わっていた。それこそ飽きない程に豊富な数で、その分だけ広いのだ。だから、ミントはプラーテに振り回されて、色んな場所に行ったのである。

 ネモフィラがそれを察して、だけど、少し楽しそうに笑みを零す。


「ふふふ。大変だったのですね」

「は……っい!?」


 頷こうとして直後に驚くミント。それは何故か? その答えはネモフィラの姿にあった。

 ネモフィラは薄いピンク色をしたワンピースタイプの水着を着ていたのだけど、問題はそこではなく顔。と言うか、目の部分。ネモフィラは目隠しをしていたのだ。ただ、これは決してそう言うプレイではなく、下着に見えなくもないミアの水着姿を見ない為の処置である。そう言うプレイとはどう言うプレイなのかは想像にお任せするが、何はともあれ水着姿で目隠しをしている少女の図は、とても穏やかではなかった。


「ミント? どうしたのですか?」


 お前がどうしたって感じだけど、そんな事をミントが言えるわけもないし、何より驚きすぎて思考が停止してしまっている。


「ミント……?」

「フィーラが目隠ししておるから驚いたのじゃ」

「っあ。ごめんなさい。これは自我を保つ為に必要な事なのです」

「自我……っ!」


 その時、ミントは直感する。


(そうだ。きっとネモフィラ様はミア様の水着姿を悲しくて見ていられないんだ。だって、ミア様は“王子さま”なのに正体を隠す為に女の子の水着を着てるから)


 その直感違います。とは言え、それを訂正出来る者はいない。

 ミントは勝手に納得して成る程と頷いた。因みにネモフィラの言う自我とは、ミアの水着姿を見て失神しない為の事を言っている。正直かなり危ないが、侍女や護衛のメイクーが側にいるので、安全ではないけど安心は出来る状態。


「それはそうとサンビタリア殿下も水着に着替えたのじゃな」

「当然よ」


 と言いながら、少し疲れた様子のサンビタリア。やはり先程あった全裸で公衆の前に立つと言う経験は、流石に精神的に苦痛が激しかったようだ。


「こんな所で立ち話もなんじゃし、そろそろ温泉に入るのじゃ」

「そうですね……あ。そうでした。ミア。お願いがあるのですけど……」

「む? なんじゃ?」

「お兄様とリベイアの様子を見に行きませんか? もちろん大人数では気付かれてしまうので、護衛のメイクー以外の侍従は連れて行かずにになってしまいますけど」

「ふむ。ワシは構わぬのじゃ」


 ミアが答えると、ネモフィラは目を輝かせる。と言っても、目を隠しているので見えはしないが。


「では、ミントも一緒に行きませんか?」

「わ、私は遠慮……します」


 ミントは遠慮とは言ったが、ネモフィラとミアを二人きりにさせたいと思ったからだ。だから、ランタナとリベイアの事を思ってでは無い。でも、ミアはそうとは捉えず、微笑んで「ミントはええ子なのじゃ」と呟いた。ただ、二人きりも何もメイクーも一緒に行くのだから、ミントの遠慮はほぼ意味なかったのは言うまでもない。

 ミアとネモフィラとメイクーの三人が移動を始めると、その後ろ姿を見(なが)ら、サンビタリアは呟く。


「あの子……目隠しした状態でどうやって覗き見なんてするのかしら?」

「流石に外すと……思います…………」

「それもそうね。ふふ。あっ。せっかくだから、背中を流してあげるわ」

「……え? えええええええええ!? お、おおおおお、おお、恐れ……っ多いです!」

「いいのよ。あなたのお家、メグナット家に貿易のお仕事を任せているでしょう? あの事件以来、本当に大変な事になってるわ。幾つもの契約が切られてしまったと報告も受けたし、少しでもお詫びがしたいのよ。こんな事でって、思うかもしれないけれどね」

「サンビタリア様……。そ、そんな事ありま……せん! サンビタリア様はご立派な方……です! み、ミア様が言って……ました! サンビタリア様……は、いつも平気な顔して……るけど、無理をして一生懸命に罰を……受けてる……って!」

「ふふ。ありがとう、ミント。でも、そう。ミアがそんな事を……。やっぱり、ミアは私の事にいつも気付いてくれてるのね」


 サンビタリアが嬉しそうに柔らかな微笑みを見せ、ミントもつられて笑顔になる。そうして珍しい組み合わせの二人は少し距離が縮まって、お互いで背中を流し合った。

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