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到着。湯けむりの町スモークドロップ

 黄金の町ゴールドベストで侍従たちが集めた情報によると、革命軍は温泉街の近くにはおらず、安全だという結果になる。安全ならとミアたちは予定通りに温泉街へと再び出発し、アクシデントが起こる事も無く、本当に何の問題も無く温泉街のある町へと辿り着いた。


「長旅お疲れ様。湯けむりの町スモークドロップへようこそ」


 町に到着すると、ゴーラがミアや王族たちを改めて出迎える。隣には笑顔のプラーテが万歳をして「いらっしゃいませえ!」と大きな声を上げた。

 さて、そんなわけで意外とあっさり訪れたここ湯けむりの町スモークドロップは、その殆どが温泉旅館が並ぶ温泉街で出来た町である。ここに住む住民は殆どが温泉旅館での住み込みで、別で家を持つ世帯がほぼいない。何故なら、ブレゴンラスドが一夫多妻が可能であり、それを利用して大家族で経営しているからだ。単純に住み込みで働く者も少なくはないが、大きな旅館は全てが家族経営だった。

 そんな温泉旅館が並ぶ街並みだが、そこは活気で満ち溢れている。旅館だけでなく、食べ歩きが出来る屋台に、休憩が出来る無料の足湯温泉。龍神国だけあって野生のドラゴンも空を飛び、もしくは歩いてすれ違う。だけど、決して恐れる事は無い。とても人懐っこく、殆どが中型犬か小型犬程度の大きさ。むしろ、可愛いと言われて観光客からは評判が良く、餌をあげないで下さいと書かれた紙が貼りだされている区域がある程である。街道沿いには大きな川が流れていて、その川は天然の温泉で出来ている。もちろんその川に入るのは自由だが、驚くほどに温度が高くて、野生のドラゴン以外で好き好んで入る者は殆どいない。少し道を外れれば物静かな場所に出て、穏やかで緩やかな時間が流れる裏道。裏道には表の通りと違った良さがあり、日本の和を思わせる落ち着いた雰囲気を楽しめる店が並んでいるが、これは隣国の妖人の国の影響だ。ここスモークドロップは馬車で一日程度の場所に妖人の国との国境があり、本当に近い場所にある。だから、妖人の国の文化の影響を受けて、この町では色濃くそれが出ているわけだ。


「早速みんなで温泉に入るのじゃ!」

「ミアお嬢様。落ち着いて下さい。まずは旅館でお部屋を借りてからです」

「ぬぬう」


 ルニィに止められて、しょんぼりと顔を曇らせるミア。しかし、止められても仕方が無い。ミアたちが馬車を降りた場所は今日泊まる予定の旅館の目の前で、出入口まで十メートルも無い距離である。どう考えても、先に受付を済ませて荷物を置いてから行動した方が良い。侍従たちに任せればと思うかもしれないが、これには理由がある。と言っても、そんな大した理由ではない。


「ワシは着替えんでもこのままで良いのじゃ」

「申し訳ございませんが、それは聞き入れられません」


 そう言うわけで、理由は着替えが必要だからと言うもの。ミアだけでなく王族たちもそれは同じで、温泉街を歩き回る為に身軽に動ける衣装に着替える必要がある。馬車の中では座ったまま動かないので、ミアはドレスを着ていた。だから、仕方が無いと言えば仕方が無い事だった。


「うふふ。ミアはよっぽど温泉に早く入りたいのですね」

「ミアはそんなに温泉が好きだったの?」

「フィーラもランタナも一度入れば温泉の良さが分かるのじゃ。っと、こんな所で話しておる場合では無いのじゃ。さっさと着替えてみんなで温泉に入るのじゃ! フィーラも急ぐのじゃ!」


 ミアがネモフィラの手を握って走り出す。突然ミアに手を握られたネモフィラは、その不意打ちで顔を真っ赤にさせて、必死にミアについて行く。そんな二人の背中を見送って、ランタナはリベイアに視線を移して手を差し出す。


「私たちも行こうか」

「はい。ランタナ様」


 リベイアは返事をすると差し出された手に自分の手をそっと乗せ、二人で優雅に旅館の中へと入っていった。そして、ミントがランタナとリベイアの姿に興奮しながら、プラーテに腕を引っ張られてミアとネモフィラの後を追いかけて行く。

 なんともまあ賑やかな団体さんのご到着は、当然のように注目を集めたわけだが、その中に二つ不穏な視線も混じっていた。


「見つけた。王太子ゴーラと能天気な姫プラーテだ」

「兄者。今直ぐ仕掛けるのかい?」

「いいや。まだだ。焦るなよブラザー。俺達はあくまでも捜索が仕事だ」

「そんな。じれったいよ兄者。あんな田舎の国の連中なんて俺だけでも皆殺しに出来るのに」

「焦るなよと言ったばかりだぜブラザー。注意すべきはゴーラだ。あの野郎は俺達がいない時代とは言え、学年主席で卒業した男だ。他のゴミとは違う」

「分かったよ兄者。でも、殺せると思ったら殺しちゃっても良いんだよね?」

「もちろんさ。革命軍で【十強】と呼ばれる最強幹部として恐れられる俺達ヴェロキラ兄弟の恐ろしさを、田舎の国の連中と王太子様に見せてやろうじゃねえか」

「流石兄者」


 鋭い眼光がギラリと光り、二つの影が民衆に混じって消えていく。

 ミアたちを狙うは【十強】と呼ばれる革命軍の幹部の二人。彼等は天翼学園卒業生にして、優秀な成績を収めて卒業した強力な魔装ウェポンを所持している実力者だ。何事も無く終わるかに見えたこの旅は、波乱の渦を少しずつ大きなものへとふくらませていく。命を懸けた“ふんどし”の有無を巡る戦いが、今、始まろうとしている。だけど、温泉が楽しみで仕方が無いミアは、まだその事に気が付いていなかった。

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