黄金の町ゴールドベストの冒険(4)
「本っ当に申し訳ございませんでしたあ!」
「さっきも言ったであろう? 気にしていないから良いのじゃ」
黄金ラーメンを皆で食べて店を出た後の事。ずっと謝り続けるクリマーテに、ミアが冷や汗を流しながら微笑する。そんな二人を見て、ネモフィラとメイクーも苦笑していた。わけなのだけど、この場にはマジックジュエリーの王子トパーズと王女ルビーの姿もまだあった。
「ミアお嬢様ぁ……」
クリマーテが泣きそうな顔をすると、ミアが近づいて背中をさする。パッと見ると年が逆にしか見えないその様子に、ルビーは楽しそうに笑みを浮かべた。
「貴女達って面白いのね。見ていて飽きないわ。ねえ。この後に時間があるなら一緒に観光でもしない?」
「おお。いいのう。クリマさんが他に行きたい所が無ければ良いのじゃ」
「あら? そこは王女のネモフィラではないの?」
「いえ。わたくしはお願いしてついて来たのです。だから、クリマーテであってます」
ネモフィラがニコニコと答えると、ルビーは驚いた後にクスクスと笑みを浮かべた。
「ふふふ。やっぱり面白いわ。従者の希望を優先して行き先を決めるなんて。私の国でも流石にそこまでの事はしないわ」
「ああ。チェラズスフロウレスは上下関係には厳しい国だと思っていたけど、そう言うわけでも無いのだな」
興味深そうにトパーズが告げたが、それはネモフィラが首を横に振って否定する。
「いえ。ミアが特別なだけなのですよ」
「特別……?」
「ふぃ、フィーラ。それは――」
「だって、ミアは誰にでも隔てなく平等に、そして対等に話すのです。だから、ミアは特別なのです」
「ふふ。そう。なら、ミアが他と違うのね」
(なんじゃ。そう言う意味なのじゃ。ワシはてっきり聖女だと言われると思ったのじゃ)
ミアの心配は特に必要も無く、ネモフィラは口を滑らせたわけでも咄嗟に取り繕うでもなく素直な気持ちを言っただけ。その言葉には嘘が無く、表情もとても可愛らしい心からの笑顔なので、ルビーもトパーズも裏があるなどと思わずにそのままを受け止めた。
「では、出発なのじゃ」
クリマーテから一緒に観光の許可を得て、ミアたちは六人での観光を開始した。全てが金で出来た町での観光は、とても楽しいものだった。目が疲れる程に物理的に輝く街並み。黄金の水が流れる噴水に、黄金の毛皮を持つ動物たちとのふれあい広場。黄金街では綺麗な宝石が並べられ、クリマーテが目を輝かせて楽しんだ。そうして回って陽が沈みかけた頃に最後に行きついたのは、町を見渡せる展望台。そこで、夕陽の沈む町の風景を見ながら、ミアたちは楽しそうに話していた。
「今日は本当に楽しかったわ。貴女達にこの町で会えて良かった」
「はい。わたくしも楽しかったです。ルビー様とトパーズ様はこの後は国に帰られるのですか?」
「どうだろうね。僕としてはさっさと帰りたいんだけど、残念な事にルビーのお目付役なんだ。ルビーが帰ると言わないと帰れない」
「あら。兄さんは王太子なんだから、私の事は気にせず帰ればいいのに」
「そう言うわけにもいかないだろ」
「お主、王太子なのじゃ!?」
今更なカミングアウトにミアが驚いて声を上げたが、ネモフィラとメイクーとクリマーテは当然のように知っている。だから、逆にミアが驚いた事に驚いた。そんなチェラズスフロウレス一行にマジックジュエリーの二人が笑みを零す。
「ふふふ。本当に面白いのね」
「ハハハ。すまない。言って無かったか。僕は王太子なんだよ」
「む。まさか、それで親が結婚しろと煩いのじゃ?」
「正解。本当に困っててね。婚約を維持してくれているタリアには頭が上がらないよ」
「なるほどのう。納得なのじゃ」
(王太子になるのも大変だなのじゃなあ)
そんな事を思いながら、ミアはぼんやりと夕陽を眺めた。
◇◇◇
陽が沈み、ルビーとトパーズと別れて冒険者ギルドに戻ると、クリマーテと一緒にルニィに「帰りが遅すぎる」と、めちゃんこ怒られる。
因みにネモフィラも王妃に怒られた。王妃の怒った顔はとっても怖い顔で、こっそりと抜け出した代償は大きかったです。と、ネモフィラは思ったのだった。




