黄金の町ゴールドベストの冒険(1)
港町での自由時間が終わると、馬車に乗って温泉街に……ではなく、少し遠回りをして黄金街に行く事になった。と言うのも、これには少々訳がある。
「父さん。革命軍を見たと言う情報を得ました」
全てはランタナのこの一言が理由だ。少し遠回りになるけど、安全の為にもここより温泉街に近い黄金街で情報収集をして、危険かどうかを確認しようとなったわけだ。“ふんどし”を巡っての戦いとは言え、実際に死者も出ているらしいので、理由がくだらないのに笑えない状況。本当に危険なのも間違いない。こう言っては何だが、ふんどしの為に巻き込まれて命を落とすのも馬鹿らしい。なるべく巻き込まれない為にと、目的地を一時的に変更したのだ。
そうして馬車に乗って一日が過ぎた昼過ぎに、ミアたちは黄金街にやって来た。
「す、凄いのう。本で読んだ通りの町なのじゃ」
「はい。わたくしも初めて来ましたけど、びっくりしました」
「わわわわわ。家も道も……ぜ、全部……き、金で出来て……ます」
黄金街改め黄金の町ゴールドベスト。家や道だけでなく、植物までもが金で出来た黄金の町。黄金街とはゴールドベストの区画の一つで、金や銀や宝石などが売買される商店街である。更には、この黄金街には金で出来た食材や生物も売られていて、国内だけでなく国外の貴族や富豪たちが買い物をしに足を運んでいる。そして、この町一番の名物は、決して金や銀や宝石などの財宝たちでは無い。
「ミア、見て下さい。本当にいました。町の守り神の黄金竜虫です。可愛いですよ」
「おお。アレが黄金竜虫なのじゃあ。てんとう虫みたいで確かに可愛い見た目なのじゃ」
「は、はい。か、可愛い……ですね」
てんとう虫のような見た目の黄金色の虫。それが、この黄金の町ゴールドベストの名物である黄金竜虫である。因みに、黄金竜虫はてんとう虫のような見た目に、竜の角と竜の尻尾が生えている。大きさは犬のチワワくらいの大きさがあり、虫と考えると結構な大きさ。虫が苦手な人なら顔面蒼白になりそうなものだが、ミアやネモフィラやミントは目を輝かせて「可愛い」と口々に言いだすくらいには、見る人が見るなら可愛い見た目である。
黄金竜虫は金色に輝く木の枝の上にいて、とくに動く様子もなくジッとしていた。
「黄金竜虫はいつもあーやってお昼寝してるんだよ。ふふふ。ラテールちゃんみたいでしょ」
「うふふ。本当ですね。ラテール先生みたいです」
「しかし、本当に動かんのう。他にもおらんのか? どうせなら動いておる黄金竜虫を見たいのじゃ」
「よーし! じゃあ、みんなで黄金竜虫を探そー!」
「こらこら。プラーテ。ここには遊びに来たんじゃないんだよ」
プラーテが元気いっぱいに手を上げて黄金竜虫の探索を提案するも、それは直ぐにゴーラに優しく腕を握られ止められてしまう。
「チェラズスフロウレス国王陛下。プラーテが申し訳ございません」
「よい。それに元気があるのは良い事だ。私の子等は皆落ち着いているから、新鮮味もあって見ていて楽しいくらいだ」
「ふふふ。そうですね。ミアが一人増えたようで楽しいですね」
「え? ワシってそう言うポジションなのじゃ?」
王妃の言葉にミアがショックを受けて青ざめる。ミアとしては前世で八十まで生きたお爺ちゃんなので、物静かで落ち着いた大人なイメージだと思い込んでいた。しかし、現実は厳しいもので、五歳児並の精神と言われたようなもの。と言っても、それもその筈だろう。
ミアは侍従たちの目を盗んでは城の中を探検して冒険するのだ。天翼学園に試用入園したりしていたので最近は無かったが、城内のあらゆるところで目撃情報は出ていた。そしてその情報は必ず保護者の国王の許に届くので、当然王妃も知っていた。王妃にとって、ミアは好奇心旺盛な年相応な可愛らしい聖女様だった。
「こちらへ」
侍従たちに情報を集めさせることになり、その間にミアたちはゴーラの案内で冒険者ギルドに向かい、待合室で休憩する事になった。冒険者ギルドとは、知る人ぞ知る冒険者たちが依頼を受ける場所で、出入は冒険者以外も自由に出来る場所。その中でも待合室は食事も出来る酒場のような場所になっていて、ここで飲み食いをする冒険者も多く、情報を集めるには持って来いの場所だ。
流石に国王を含めた王族が情報集めをする事は無いが、護衛が王族の近くで情報を集めるには丁度良く、ゴーラが勧めて実行する事にしたのだ。そうして始まった情報収集の最中だった。
「ちょっと散歩に行って来るのじゃ」
ミアはネモフィラに一言そう言うと、こそこそとこの場を脱出する準備を始めたので、ネモフィラが慌てて小声でミアに話しかける。
「ミア。今はここにいないと駄目ですよ」
「なあに、心配はいらんのじゃ。ワシはルニィたちの目を盗んで部屋を脱出する天才なのじゃ。この程度の包囲網はお茶の子さいさいなのじゃ」
「お、お茶のお子さんですか……? よく分かりませんけど、ミアがいなくなったら大騒ぎになってしまいます」
「大丈夫なのじゃ。今回はクリマさんも一緒なのじゃ」
何が大丈夫なのか分からないが、ミアの言葉にネモフィラが近くにいたクリマーテに視線を向けて目がかち合う。クリマーテはニッコリと微笑みを見せ、ネモフィラは冷や汗を流した。そして、ネモフィラは直ぐに真剣な面持ちになり、緊張した様子でミアに視線を戻した。
「それならわたくしも連れて行って下さい」




