乙女現る
「聖女が現世に誕生した……? ゴーラ様、その話は何処で……」
「今は何処に行ってもその話で持ち切りだよ。なあ? プラーテ」
「うん! 聖女様の白金の光を見た人がいるって、みーんな言ってるよ」
「そ、そう……」
「何を驚いておるアネモネ殿下。そのみんなは根も葉もない噂に踊らされておるだけじゃろ」
(ど、どえらい事になっておるのじゃあああ!)
ゴーラとプラーテの案内を受ける事になったミアたちは、休憩にと入ったお店で聖女の噂があると聞いて驚いていた。話によると、聖女を直接見たかどうかは不明だが、聖女しか使えない聖魔法の白金の光を見た人がいると噂になっているようだ。そして、それはこの国では無い何処か別の国で起こった事だと言うのだから、ほぼ間違いなく原因はリベイアを助けに行った時のミアだった。
「ええ。ミアの言う通りよ。ゴーラ様。本当に聖女様がいたら、今頃噂ではなく大騒ぎになっていますよ」
「ははは。違いない。確かに君の言う通りだね。アネモネ」
(随分前の事に油断しておったのじゃ。ぐぬぬう。このままだと不味いのじゃ。こうなれば、何が何でも魔法使用禁止なのじゃ)
「ミア……大丈夫ですか?」
「う、うむ。魔法を使わなければなんとかなる筈なのじゃ」
こそこそと小声でネモフィラに心配されたので、強がってはみたものの、正直ミアは超絶弱気になっていた。そんな弱気なミアの気持ちはともかくとして、話し合いの結果、今日はこのまま観光タイムになる。せっかくブレゴンラスドに来たのだから、色々見て回りたいとランタナが言ったからだ。つまり、ランタナの狙いはリベイアとのデート。それは応援しなければとミアやネモフィラも同意して、観光する事になったわけだ。
ミアとネモフィラとミントの幼稚舎組の三人は、同じく幼稚舎に通っていたプラーテの案内で港町を回る事になった。だけど、四人の背後にミアとネモフィラの侍従たちはいたが、プラーテの護衛の姿が一人もいない。いや。正確には最初からいなかったと言った方が正しいか。
「今更なのですけど、プラーテの護衛が一人もいませんね。何処かに隠れているのですか?」
「む。そう言えばそうじゃな。全然気がつかなかったのじゃ」
「んーとねえ。ゴーラお兄ちゃんが騎士の皆を連れてると、すっごく目立つから、それだと革命軍に狙われちゃうって言ってたよ」
「なるほどのう。護衛を連れて歩くのがかえって危険と言うわけなのじゃな」
「でも、一人くらいはいても良いと思うのですけど……」
「プラーテのパパも同じ事を言ったけど、ゴーラお兄ちゃんが少ない人数で行動なら、誰も連れて行かない方が動きやすいからって言ってたよ。あ。それより見てアレ! 焼貝の食べ放題だってー! 行こうよ!」
「おお。行きたいのじゃ」
「ふふふ。ミアは海鮮のお料理が好きですね。ミントも行きましょう」
「は、はい。お供しま……す」
プラーテが駆け出して、ミアとネモフィラとミントが追いかける。そんな元気な少女たちの後ろ姿に癒されて、侍従たちも笑顔で歩いて行く。しかし、そんな時だった。
「あら? 元気な子がいると思ったら、プラーテじゃない」
「あ! ケーラお兄ちゃんだあ!」
「もう。嫌だわ。プラーテ。アタシの事はお姉ちゃんと呼んでって言ってるでしょう?」
「はあい!」
「む? 誰じゃ?」
ケーラと言う名の人物がプラーテに話しかけ、プラーテがニコニコ笑顔で近づいて行き、ミアもそれに続いた。しかし、ネモフィラとミントは近づかない。理由は、知らない人物に不用意に近づかないようにしている為……と言うわけでは無い。そのケーラなる人物の見た目が、二人にとってビックリする見た目だからだ。
「あ、あの方……は、お姉さん……? なのでしょうか……? 私には……男の人に……しか……見えません」
「は、はい。わたくしもです……」
二人が驚いた顔で話すが無理もない。
髪の毛は角刈りで勇ましく、龍人特有の角はご立派な長さと太さ。髪と瞳の色は黒ずんだ黄土色で、絵に描いた様なごん太眉毛に、青髭二重顎の濃ゆい顔。身長は二メートル越えの巨漢な体で、服を着ていても分かる圧倒的な筋肉量。その筋肉はボディービルダーを彷彿とさせる芸術的な美しさを見せ、全身から溢れ出るのは女性らしい曲線美とは真逆の漢気が溢れる筋肉美。羽と尻尾は消していて見えないが、見えていれば逞しい事は間違いない。しかし、口調としぐさが完全に“乙女”のそれ。
そう。ケーラは生物学的には男と認定されていて、その見た目は、ごつい系のオカ……失礼。オネエさんだったのだ。
「あら? お友達もご一緒なのね。うふふ。アタシはケラリト=B=ティガイドンよ。可愛らしくケーラって呼んでね。よ ろ し く」




