意外なお出迎え
「お待ちしていました。ようこそ龍神国ブレゴンラスドへ」
「ゴーラ様!? 迎えに来てくれていたのですか?」
ブレゴンラスドの港町に到着すると、そこではアネモネの婚約者のゴーラが待っていた。迎えに来ると聞いていなかったアネモネが驚いてゴーラに近寄ると、ゴーラは笑みを見せて頷く。
「ああ。君からの手紙を見て、せっかくだから案内をと思ってね」
「嬉しいです」
アネモネが嬉しそうに笑顔を見せ、ゴーラも自然と笑みを零す。道案内役をしてくれる事になったゴーラだが、ミアとしっかり会うのは初めての事になり、ミアはアネモネの婚約者のゴーラがどんな人物なのかと興味津々に見つめた。
(ほうほう。やはり龍人と言うだけあって、かなりたくましい体つきをしておるのじゃ)
龍神国ブレゴンラスドの第七王子ゴーラ=B=ティガイドン。強靭な肉体を持つ龍族で、肌の露出が少ない王子服を着ているのに、鍛え抜かれた筋肉を持つ体だと一目で分かるたくましさ。ツーブロックの髪と瞳の色は黄土色をしていて、男らしくも整った顔立ち。左の耳にだけピアスが幾つか付けられていて、そのどれもが魔石で出来ている。頭の両サイドからは立派な龍の角が生えていているが、龍の翼と尻尾は無かった。だけど、その理由はミアにも分かる。
龍人と言う種族は鍛錬して熟練した者であれば、獣人等と違って羽や尾を自在に消す事が出来るのである。だから、本来ある翼や尻尾を邪魔にならないようにと消しているわけだ。そんなゴーラの右肩の上には手の平サイズの小さな子竜が一匹。
その子竜があまりにも可愛いくて、ミアとネモフィラとリベイアとミントは目をキラキラと輝かせた。
「ゴーラ様。紹介しますね」
アネモネはそう言うと、ミアや同行したリベイアやミントを紹介していく。紹介が終わると、ゴーラも「実は」と紹介したい人物がいる事を告げた。
「ここにはいないみたいですけど……」
「今ブレゴンラスドでは王族が革命軍に狙われている。だから、子供の竜に変化してもらってるんだ」
「子供の竜……っ。もしかして」
「ああ。君の思った通りだよ。アネモネ。さあ、姿を見せてあげてくれ。プラーテ」
(むむ。プラーテじゃと)
名前を聞いてミアが少し驚いたけど、それも当然。プラーテは天翼学園試用入園中に起きた強制脱衣事件で、幼稚舎で唯一の犠牲者の少女なのだ。そんな少女がゴーラと一緒に来ているなんて想像もつかなかった。そして、それはミアだけでなく、その事を知る者の全員が驚いた。ミアたちが驚く中、ゴーラの肩に乗っていた子竜が空を舞って地面に降りて、その姿を変えていく。その姿は、見紛うことなきあの時の被害者の女の子。
少しくせっ毛のあるオレンジの髪に、申し訳程度に頭の両サイドから姿を覗かせる小さな角。大きな目には宝石のような綺麗なイエローの瞳。フリフリのたくさんついたドレスで身を包み、ゴーラと同じく翼や尻尾は生えていない。だけど、これの理由はゴーラとは違う。翼や尻尾が無いのは隠しているからではなく、それは少女が龍族の国王と人族である王妃との間で生まれたハーフだから。少女は母親の血をより濃く受け継ぎ、龍族の血を持っていても人と殆ど変わらない見た目なのだ。
プラーテは姿を現すと、ドレスのスカートを掴んで少し上に上げてお辞儀する。
「ブレゴンラスドの第五王女プラーテ=B=ティガイドンだよ。です。今日は来てくれてありがとう。あ。ございます」
お辞儀するまでは良かったが、その後の挨拶でボロが出る。何だかそれはミアが王族に対して使う敬語のようで、しかし、ミアとは違って可愛らしい。そんなプラーテの様子に、驚いていた者たちは自然と笑みを浮かべた。そして、プラーテはとても純粋でいい子なのだろう。あんなに酷い目に合わされたのに、ミア達に向けたのは満面の笑顔で、とても可愛らしいものだった。




