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真面目な侍従たち

「それでは……いきます!」


 ヒルグラッセが気合を入れて、目の前にたたずむ鉄の塊を一刀両断。斬られた鉄の塊がズンと大きく低い音を上げて地面に落ちると、ヒルグラッセは大きく息を吐き出して口角を上げた。


「ミア様。どうでしょうか?」

「見事なものじゃ。斬られておる所も綺麗じゃし、これなら上出来なのじゃ」

「ありがとうございます」


 ここは騎士達の訓練施設。ヒルグラッセがジェンティーレから譲り受けた魔装ウェポンを扱う練習をしていて、ミアはそのアドバイスをしていた。


「それにしても、魔装ウェポンって不思議だよねえ。個々人でその姿や性能が変わるなんて」


 見物をしていたクリマーテがヒルグラッセにタオルとドリンクを渡しながら話すと、ヒルグラッセがそれを受け取って苦笑する。


「そうね。ミア様みたいに動物の形をした魔装ウェポンになったら、どうしようかと思っていたけど、そうならなくて良かった」

「なんでじゃ!? ミミミはかわええのじゃ!」

「はい。もちろんそれは分かっています。ですが、私の趣味ではないので」

「ぬぬう。まあ、でも心配せずとも大丈夫なのじゃ。魔装ウェポンは一種の分身みたいなものじゃからなあ。使用する者の精神で形が殆ど決まるのじゃ。だから、お主のように殆どの者が武器の形をした魔装ウェポンを生み出すのじゃ」


 ミアの言う通りで、実は魔装ウェポンは剣や槍や弓など武器の形をしているものがほとんどだった。だから、ヒルグラッセのように剣の形の魔装ウェポンは珍しいものではない。ミアのように羽の耳を持つうさぎだったり、サンビタリアのような浮かぶ三つの三角錐さんかくすいだったりするタイプは珍しいのだ。

 今までミアが出会った魔装ウェポンの殆どは武器の形をしていなかったが、それは実はまれだった。奇跡的とも言える。もちろん盾などの防具の形のものもあるにはあるが、魔装ウェポンと言うのが使用者の精神……つまりは考え方で決まるので、やはり魔装ウェポンと言う名前のイメージから武器の形になる事が多かった。と言っても、魔装ウェポンは使用者の魔法の属性などの他にも影響するものがあり、剣だけをとっても色々な性能や形になるわけだ。


「ヒルグラッセの魔装ウェポンは見た目は普通の剣ですね」


 ルニィがヒルグラッセの魔装ウェポンを見ながら言った言葉は、実際にその通りだった。それこそ普段使っている剣と変わらない見た目で、何が違うのかさえ分からない程。しかし、見た目と違い、その性能は明らかに違っていた。


「ミミミ髪留めモードの解析じゃと、刀身が振動する事でなんでも斬れるようじゃな。グラッセさんが土の属性を持っておるから、クエイク系の魔法の影響じゃろうな」

「はい。頭の中で直接考えただけで停止させたり作動させたり出来るので、誤って斬ってはいけない物を斬る心配もないようですね」

「うむ。それに伸縮も自在に出来るのじゃ」

「伸縮ですか? 考えてもみませんでした。やってみます」


 ヒルグラッセは剣に思考を巡らせる。すると、刀身が短剣サイズや長剣サイズのものまで自由自在に伸縮する事に成功した。更には、試しにと刀身だけでなく剣そのもののサイズを変化させる事にも成功する。


「便利じゃなあ」

「はい。ミア様の魔装ウェポンと比べれば大した事はないですけど、とても気に入りました」


 ヒルグラッセの尻尾が喜びのフリフリダンスを披露ひろうしているので、それを見てミアが砕けたような笑みになる。


(うむうむ。グラッセさんの尻尾もブンブンと揺れて喜んでおるのじゃ)

「明日にはアネモネ様の結婚式に向かう為にブレゴンラスドに行かなければならないし、貴女の魔装ウェポンをこうして再確認出来てよかったわ」

「ミア様程ではないにしても、これでようやく私も魔装ウェポンを持つ相手と戦えるわ」

「ブレゴンラスドかあ。確かルッキリューナの魔装ウェポンを幼稚舎で受けてしまった子……王女様がいる国ですもんねえ」

「うむ。国王と第一夫人の間で生まれた娘のプラーテなのじゃ」


 あの日、幼稚舎で唯一の犠牲者になってしまった女の子がいた。その女の子こそが龍神国ブレゴンラスドの王女様で、名はプラーテ。アネモネの婚約者ゴーラの妹だった。

 実は、ミア達の知らぬ所でアネモネとゴーラの婚約の危機もあったりしたのだが、それはゴーラが抑えてくれていた。ミアの侍従長のルニィはこの事を四人の中で唯一知っていて、だからこそ、ヒルグラッセの魔装ウェポンを再確認しておきたかったのだ。

 ブレゴンラスドは革命軍が内戦を起こしている危険な国でもある。例え婚約の危機が抑えられていたとしても、同じ幼稚舎に通っていたミアに危険が及ぶ可能性が無いとは言い切れない。内戦を起こす民がいるのであれば、王女に恥をかかせた相手を許さないと思っている民だっていてもおかしくはないのだから。


「なんかすっごい恨まれてそうで怖いですよね」

「そうじゃなあ。アネモネ殿下が結婚出来るのは確かじゃし、国民の全員に恨まれておるとは思わぬが、良い印象を持っておらぬのは間違いないと思うのじゃ」

「ちょっと心配になってきました」

「クリマーテ、弱気になるのもそこまでにしなさい。アネモネ殿下の式も含めて、何事も起きないようにするのが我々の仕事よ。クリマーテとヒルグラッセは私と一緒にミアお嬢様を一番に考え行動する必要がある事を十分に理解して、油断をしないように気を引き締めて向かいましょう」


 ルニィの言葉に二人が頷いて、三人は気を引き締めて頷き合う。だけど、ミアは相変わらずの呑気のんきっぷり。心の中で、真面目じゃなあ。なんて呑気な事を考えながら三人を眺めただけだった。

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