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聖女の謝罪作戦(2)

 サンビタリアが謝罪したいと告げて頭を下げると、パーティー会場のざわめきが大きくなる。周囲の動揺が更に高まったのは言うまでもなく当然で、ミアとサンビタリアの発言は空気を読まない場違いな行動だった。本当に反省しているのかと疑問を抱く者も当然現れる。

 この手段は流石に悪手だった。と、頭を下げたままでサンビタリアは感じていた。だけど、ミアは逆に好都合とでも言い出しそうな、聖女とは思えない悪い顔で下卑げびた笑みを浮かべる。


「なんじゃなんじゃ? 王女がここまで恥を晒しておるのに、誰一人として話を聞こうと思わぬのか? 器の小さい情けない連中ばかりじゃなあ。それともここにおる者は全員下着姿を他人に見られて興奮する変態ばかりなのじゃ? それなら仕方が無いのう。お主等変態からすれば、これはご褒美なのじゃ。反省しているように見えんでもおかしくないのじゃ」


 あおりよる。おい。こら。聖女、いい加減にしろよ。そもそもそう言う問題じゃないだろ。ってな感じではあったけど、相手が子供と言えどカチンと怒りを覚えて、この場にいる全員が一瞬だけ静かになった。そして、誰かが最初に声を上げる前にと、ミアがかさず下卑げびた笑みのまま近くにいた貴婦人に話しかける。


「ほれ。お主もここで脱いで裸を披露ひろうせい。こんな大勢の前であられもない姿までして反省を示した王女を見て、反省していないと思う程に大衆に裸を見られるのが好きなんじゃろ?」

「まあ! なんて失礼な子なの!? そんな事が出来るわけないでしょう! ふん! 私は貴女みたいなしつけのなっていない子供の相手をするほど暇ではないのよ! 謝罪を聞いてあげればいいのでしょう! 早くして頂戴!」

「分かれば良いのじゃ」


 少しばかり……いいや。かなり無理矢理な展開に見えるが、そんな中ミアが貴婦人をサンビタリアの前に誘導し、サンビタリアが動揺して困惑しながらも謝罪を始める。すると、一人が後ろに並び、また一人と並んでいく。気が付けば、謝罪をされる待ちの大行列が出来上がった。


(成功なのじゃ)


 ミアは心の中でほくそ笑み、最初に話しかけた貴婦人に視線を向ける。すると目がかち合い、貴婦人が苦笑して静かに会場を出て行った。


「ミア。あの……さっきの女性ってルニィですよね?」

「おお。フィーラ、よく分かったのう。その通りなのじゃ」


 ミアがネモフィラにイタズラが成功した子供のように楽しそうな笑顔を見せる。

 つまりこの茶番こそがミアの作戦だったわけだ。と言っても、サンビタリアには水着に着替える事しか言っておらず、サンビタリアが水着に着替えている間にルニィに作戦を伝えて実行した。だから、サンビタリアは失敗だと思ったり動揺したり困惑したりしていたわけだ。しかし、それも作戦の内。

 サンビタリアが演技では無い動揺と困惑を見せる事で、勘の鋭い者がいてもミアの独断と思わせる事が出来ていた。この茶番への嫌悪感をミアが全部回収したのだ。


「でも、お話ではお姉様が謝罪をしに行くと言うのが条件では無かったでしょうか?」

「フィーラも勘違いしておったのか」

「どう言う事ですか?」

「ワシは被害者と関係者全員と向き合って謝罪をせえと言うただけなのじゃ。それを勘違いして会いに行けと解釈しておるだけじゃ」

「言われてみればそうですね。会いに行かなきゃいけないって勘違いしてました」

「うむ。だから、ああやって面と会って向かい合い、しっかりと謝罪をしておるなら条件は満たされておるのじゃ」

「ふふふ。その通りです」


 ミアの言葉に納得して、ネモフィラも笑みをこぼす。が、この状況に納得できない者もいる。それはもちろんアンスリウムだ。ミアを睨み、歯を食いしばって握り拳を作っていた。

 アンスリウムはこのお帰りなさいパーティーで色々と根回しをしていた。サンビタリア派を抜けた貴族たちに挨拶して勧誘していたり、学園で活躍し名を上げている公爵の爵位を持つ少女ミアと婚約したと宣言し、注目を集めて強制的に婚約を決定させるつもりだった。

 現状では婚約は保留となっているが関係無い。既に他の派閥に忍ばせている自分の派閥の者に手を回し、婚約を保留では無く決定された事と周囲に思わせる準備が出来ていた。婚約者となるミア本人がいれば、無理矢理にでも頷かせる事でそれが可能だったのだ。

 だが、パーティーに何故か現れないミアが、何故かサンビタリアと一緒に下着(水着)姿で現れたせいで出来なくなった。

 今のミアは学園で活躍し名を上げている公爵の爵位を持つ少女と言うよりは、罪人と一緒に半裸で現れ周囲を敵に回すようなあおり発言をした無礼な子供ガキ。こんな子供と婚約したと発表でもしたら、間違いなく気でも狂ったのかと思われ、自分の評価まで下がってしまう。アンスリウムはそう考え、婚約の宣言自体を今は諦めるしかなかった。と言っても、そんなアンスリウムの考えなんてどうでも良い事。


「ミア。その……そろそろ服を着て下さい。そんな下着姿のままだと、流石にわたくしもそろそろ限界です」


 ネモフィラの顔は真っ赤になっていて、目をつぶったり開けたりしてせわしない。


「む? これは下着では無くて水着なのじゃ。海で泳ぐときに着るものじゃ?」

「え? 水着……ですか?」


 ネモフィラは改めてミアの水着姿を見て、段々と心が落ち着いてくる。


「わたくし、水着と言うものを初めて見ました。まるで下着のようなのですね」


 ネモフィラはニッコリと微笑んで、そして、そのまま気を失った。


「ふぃ、フィーラ!? て、敵襲なのじゃ!?」


 何度目の敵襲だよ。てなわけで、ネモフィラはミアのあられもない姿で限界を超え、いつも通りに気絶してしまった。しかし、これでも成長している。ネモフィラは学園での生活で思ったのだ。このままでは一緒にお風呂にも入れないと。だから、日々の努力を惜しまず重ねて、下着姿程度ならしばらくは気を保てるようになったのだ。近い未来に来るであろう“ミアと一緒に温泉に入る”事を目指して。


「またやってる……」


 遠目から二人を見て、ランタナが呟いて冷や汗を流した。

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