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もう一つの理由

 サンビタリアの謝罪訪問は今までで一番早くに終わった。それは本当に驚くくらいで、それはミアのおかげだった。この日の謝罪相手は全員が学園にいた被害者でミアの事を知っている。なんと言ってもミアはたったの三ヶ月で有名になった幼女なのだ。天翼会のジェンティーレと仲が良く、あの扱いに難しい土の精霊ラテールを頭に乗せて一緒に行動している目撃情報も出ている。そんな事から、サンビタリアが会議室で裁かれた時に寮長ジャスミンを呼び出したのも、実はミアではないかと噂されている程だ。実際にその通りだが問題はそこではなく、知らないのにそうだと思われる程だと言う事だ。そんなとんでもない謎の五歳児が来たのだから、会いたくないと駄々をこねるなんて出来る筈もなかったし、下着だけで現れて一緒に謝罪である。最早意味が分からず頭が混乱して、見事に全員が許す以外の選択肢が見つからなかった。

 ただ、一つだけミアにも誤算があった。最初のミントへの謝罪訪問のあたりは平気だったけど、下着だけでの謝罪が思いの外に苦痛で、最後の方ではゲッソリとしてしまう程に精神的に疲弊ひへいしてしまった事だ。だから、謝罪訪問が無事に終わるとようやく終わったと安堵して、馬車の中で急いで服に着替えた。すると、そんなミアを見て申し訳なく思い、サンビタリアが頭を下げた。


「聖女様。今日は本当にありがとうございます」

「む? うむ。それはそうと、その聖女様と言うのはやめてほしいのじゃ。いつも通りに話してくれた方が話しやすいのじゃ」

「ふふふ。そこは譲れないのね」

「うむ。当然なのじゃ」


 ミアとサンビタリアが微笑み合い、そして、サンビタリアは直ぐに顔を曇らせた。


「どうしたのじゃ?」

「私はあなたに本当に今まで酷い事をしてきたわ。なのに、あなたの力を借りてしまった事に申し訳なくて……」

「なんじゃ。そんなものは気にせんでい。これはワシが好きで勝手にやった事なのじゃ。それに、ミントをアネモネ殿下の結婚式に誘えたし良かったのじゃ」

「それは大袈裟よ」

「そうでもないのじゃ。実はミントには最初随分と嫌われておってのう。だから、ワシの誘いで一緒に来てくれるって言ってもらえて、とても嬉しかったのじゃ」

「まあ。意外だわ。とても仲良しに見えるのに、最初はそうでは無かったのね」

「うむ。ワシとサンビタリア殿下の関係と一緒なのじゃ」

「ミア……。そうね。こうして話せるようになって、私も嬉しいわ。あなたには感謝してもしきれない」

「それこそ大袈裟なのじゃ」

「そんな事無いわよ。私の事を認めてくれた。それがとても嬉しかったの」


 再びミアとサンビタリアは微笑み合い、そして、今度はミアが顔を曇らせて真剣な目でサンビタリアを見つめた。


「のう? サンビタリア殿下。王太子に推薦したワシの理由を聞いて、ショックを受けたのではないか?」

「それは…………」

「すまぬ。実は今日こうして謝罪について来たのは、その事で謝りたかったのもあるのじゃ。ルニィ達もそれならと納得してくれたのじゃ」

「そう言う事ね。ルニィは真面目な侍従だから、一緒に謝罪を許可したのが不思議だったけど納得がいったわ。でも、ミアが謝る必要は無いわよ」

「そうもいかぬ。それに、一応他にも理由はあるのじゃ」

「え……?」


 サンビタリアが驚き、ミアが真剣な面持ちを向ける。サンビタリアは緊張し、ごくりと唾を飲み込んだ。


「ワシは、お主こそ次期王としての器があると思っておる」

「うそ……?」

「嘘では無い。本当なのじゃ。この国を思い、誰よりも努力をし続けたからこそ、お主が王に一番ふさわしいのじゃ」

「でも、私は罪を犯して……あなたにも酷い事をした」

「そんなもの誰でもあるじゃろ。人は誰しもが間違いを犯すものじゃ。そうやって成長して大人になるのじゃ。お主はまだ若い。これからいくらでも罪を償って、国の為に、そして巻き込んでしまった民の為に力を尽くせば良いではないか。その為なら、ワシも全力でお主に力を貸すのじゃ。だから、王太子になる事をもう一度目指してはみぬか?」

「聖女様…………私……っ。ありがとう、ありがとうございます」


 “お主はまだ若い”だとか、五歳児が十以上も年上に言う言葉とは思えない事を言うミアだが、ここは馬車の中でいるのは二人だけ。それを疑問に思う者はここにはおらず、サンビタリアはミアの本音があまりにも嬉しくて泣き崩れた。


「サンビタリア殿下。ワシをお主の力にさせてくれぬか? そしてワシをアンスリウム殿下の婚約から救ってほしいのじゃ」

「はい……は? え?」


 サンビタリアの涙がピタリと止まり、ミアと目をかち合わせる。


「あの……聖女様?」

「お主はなりたかった王太子になれて、ワシは無事に婚約破棄が出来る。まさに一石二鳥なのじゃ!」


 この聖女、最低である。そう言うとこやぞ。ってな感じで、せっかく良い事? を言っていたのに台無しだ。これにはサンビタリアも驚くしかない。と言うわけで、ドヤァっとした顔になるミアと、目をパチパチと瞬きさせて驚くサンビタリア。二人で数秒目を合わせると、サンビタリアはたまらず「ぷふっ」と笑いを吹き出して、クスクスと笑いだした。


「ええ。そうね。一石二鳥だわ」

「うむ」


 数刻後。城に戻ったサンビタリアはミアと一緒に国王に真っ先に会いに行き、ミアの推薦を受けると宣言した。しかし、サンビタリアは心の内に秘め事を隠し持つ。


(聖女様。本当にありがとうございます。でも、私は……あなた様の期待を裏切る事になるでしょうね……。この国を出て行くと決めたのだから)


 サンビタリアは謝罪を全て終わらした後に、自身の罪を償う為に国を出て行くと決めていた。だけど、それはまだ誰にも言っていない決め事。今はまだ、ミアの気持ちが嬉しくて、その言葉に甘えたくて心の中にしまい込んでいる。いつかその時がくるまで……。

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