扱いに困る聖女
「サンビタリア殿下。この少女は……?」
「私と一緒に謝罪をしたいと言ってくれて……。仕方なく連れて来たのよ」
「……はあ。左様ですか」
「み、ミア様まで……裸…………なのですか……?」
「うむ。自分が出来ない事を人にやれと言うのは間違っておるじゃろう? だからワシもこの通りケジメをつけたのじゃ。ミントもワシの漢意気をしかと目に焼き付けるのじゃ」
「は、はい……」
(よく分からないけど、かっこいいです! 流石は“王子さま”ですね!)
かっこいいかどうかは謎だが、いや、もうホントにわけわかんない状況だよ。ってな感じで、サンビタリアの下着姿で謝罪訪問が開始されて一軒目。ミアは見事にパンツ一丁な姿である。何故上を隠さないのかは謎だが、前世お爺ちゃんだったミアだからとしか言いようが無い。背後にいるルニィ達が真っ青な顔をしているが、止める様子が無いので、どうする事も出来なかったのだろう。
さて、それはそれとしてだ。今日はお帰りなさいパーティーに参加しない貴族の子供の家を回る予定で、最初にやって来たのはアンスリウム派のミントの家。メグナット公爵家だった。
メグナットは今日のパーティーは事情により不参加になっている。と言っても、理由は簡単だ。ミアと仲良くなるようにと、ミントに言わなかったから。つまりこれはアンスリウムから受けた罰。この程度の軽い罰で済んだのは、言わなくてもミントが見事にミアと友人関係になり、今後情報を提供出来る立場になったからである。
「お、おお。お嬢ちゃんがミアと言うのか。娘から話は聞いているよ。よく来てくれた」
「いつもミントには世話になっておるのじゃ」
「礼儀正しい子じゃないか。ミントとこれからも仲良くしてやってくれ」
「うむ。頼まれなくてもワシとミントは仲良しなのじゃ」
ミアが笑顔を見せ、ミントも嬉しそうに微笑むと、メグナットも笑みを零した。
「サンビタリア様。この後も他に謝罪にまわるのでしょう? どうかお気を付け下さいませ」
「ありがとう。メグナット公爵。私の犯した罪であなたにも影響が出ているのでしょう? 苦労を掛けるわね」
「いえいえ。とんでもない。ロンコーリ子爵の娘ルッキリューナが、暴走したのが原因だとミントから聞きました。きっかけは確かにサンビタリア殿下でしょうが、実際に事件を起こしたのはルッキリューナです。貴女は被害者のようなもの。それなのに、この様な罰を与えるなど、国王は何をお考えなのか。やはり、アンスリウム殿下に国を……おっと。これは失礼しました。失言ですね。今のは忘れて下さい」
「……いいのよ。でも、今後は気を付けてね」
「いいや駄目じゃ」
「「――っ!」」
サンビタリアは罪人と言う複雑な立場故に見逃そうとしたが、ミアはそうはいかない。メグナットの発言は失言なんて生易しいものでは無く、明らかに国王への侮辱が――
「この罰を考えたのはワシじゃ! 責めるなら国王では無くワシを責めるのじゃ!」
――はい。違いました。とは言え、ミアが言う事も最もでもある。罰を決めたのが国王だと国民には知らされている為、それを知る者は関係者だけなので仕方が無いわけだが。しかし、ミア的にはそこ等辺を曖昧にしたくなかったので、だから名乗り出た。
普通であれば、何故こんな小さな子供が? なんて思われる事も無く、子供が言った事だと冗談にしか聞こえないだろう。だけど、アンスリウムが裏で操る貴族たちの中の一人であるメグナットは、ミアの正体を知っている。ミアの言った言葉が冗談ではなく本当の事だと直ぐに分かった。
「そ、そうか。君が……」
「父さま。さっきミア様が言ったよ。ケジメの為に自分も下着だけになるって」
「お、おお。そうだったな? すまない。それは私が悪かった。ミア、聞いていなくて悪かったね」
「気にするでない。そんな事より、不満を申してみよ。なんでも聞いてあげるのじゃ」
「は、はあ……」
これにはメグナットも困惑するしかない。正直なところ、ミアはかなり扱いに困る存在なのである。表向きは公爵の爵位を持つ五歳児で、それだけでも実際にはとんでもない事だと言うのに、実は“聖女”と言う決してぞんざいに扱ってはならない人物。王族よりも立場が上で、万が一にも何かをしてしまえば、間違いなく自分の首が物理的に飛ぶだけでは済まされない。
実は、だからこそ娘のミントにはミアでは無く、ネモフィラに近づいて仲良くなるように言ったまである。遠回りでも慎重に近づいて、ある程度の距離があった方が、ミントがミアに無礼な事をしないで済むと考えたからだ。メグナットが知らない所で、ミントは最初ミアに“仲良くなりたくない”発言をしてしまっているのだが。きっとその事を知れば、メグナットは最低三日は寝込む事だろう。
とにかく、そんなわけで不満を申せと言われても、何を言えば良いのか分からない。そんな事を言えるわけも無かった。顔には出していないが、なんなら聖女を半裸で謝罪させてしまった事を忘れたいくらいには、動揺のしっぱなしでもあった。さっきの失言もそれが原因だ。
「なにも不満はないよ。これからもミントと仲良くしてくれればそれで十分だ」
「ならバッチリ任せるのじゃ。あ。そうじゃ。アネモネ殿下から結婚式に向かうのも長旅になるから、友達も一緒に行けば暇も潰せるからと、結婚式にどうかと誘われておってのう。ミントも一緒に行かぬか?」
「え、ええええ……っっ!? い、いいいい、いいのでしょうか?」
「もちろんなのじゃ。ワシが幼稚舎で出来た友達なら歓迎すると言っておったのじゃ」
「父さま!」
あまりにも嬉しくて、期待に満ちた目で父親を見つめるミント。メグナットは不安を胸の内にしまって頷き、ミントは更に目を輝かせた。
「い、行きま……す! 私も……行きたい……です!」
「決まりなのじゃ!」
ミアとミントが手を繋いで喜び合い、サンビタリアもなんだかホッコリとして微笑んで、メグナット家への謝罪は笑顔のまま終了した。ただ一人、メグナットの顔色だけは悪いようにも見えるが、とくに気にする必要も無いだろう。




