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聖女のドヤ顔スマイル仁王立ち

 ミアがサンビタリアを推薦すいせんした理由をドヤ顔で話した後、家族会議では主にアネモネの結婚式の話をする事になった。結婚の日取りは来週で、アンスリウム以外の王族とミアは参加が決定。アンスリウムは仮とは言え今は王太子なので、王太子として国を留守にするわけにはいかないと一人残る事を全員に伝えた。

 そう。まだ仮なのだ。サンビタリアはミアの推薦の真意を聞き、困ってしまっていた。自分の事を理解してくれたミアの役に立ちたいが、王太子になる理由がミアの結婚を防ぐ為と言うのは、あまりにも理由としては不純している。サンビタリアにとっての王太子と言うのは、そんな理由でなるものでは無かった。それなら、やはり辞退すべきだと考えたのだ。しかし、ミアの顔を見ているとそれを言う事が出来ず、この話はアネモネの結婚式が終わった後に改めて話し合う方向で決まる。

 家族会議が終了し、サンビタリアは複雑な気持ちの中で謝罪に行く準備を始める。ただ、準備と言っても、謝罪に行く先の確認だけだ。訪問する家には連絡も入れているし、最近は直ぐに下着姿になれる簡素な衣装を着ている。だけど、この日はいつもと違った。


「サンビタリア殿下。さっきぶりなのじゃ。ですのじゃ」

「あら? ミア様? どうしたのですか?」


 城を出ようと城門まで行くと、城門の前にミアが侍従を引き連れて待っていた。ミアと会う予定は無かったので、サンビタリアは当然驚いたわけだが、それから直ぐに背後に立つミアの侍従たちの表情を見て嫌な予感を感じ取った。そしてそれは、自分から確認するまでもなく、ミアの口から放たれる。


「今日はワシも一緒に行くのじゃ。ですのじゃ」

「一緒に行く……?」


 ニッコニコの笑顔でミアは話したが、サンビタリアは数秒固まってしまった。何故なら、この下着姿で謝罪訪問は本当に苦痛を強いられるものだからだ。周囲から奇異の目で見られ、指をさされて笑われる。同情する者など誰もおらず、ただただ苦しい気持ちになるだけ。最近は随分と慣れてはきているが、それでも平気なわけでは無い。馬鹿にされ、けなされ、時には物まで飛んでくる。サンビタリアが他国に害を及ぼした影響は今や国民たちにも出ていて、謝罪の意味をあまり分かっていなかった者達も理解し始め、恨みがどんどんと広がっていく。


 裸の王女が他国に戦争を吹っ掛けた。


 いつの間にかそんな噂まで流れていた。今では一緒に同行している侍従や護衛まで、サンビタリアの仲間だと睨まれる事だってある。自分と一緒に来ると言う事は、侍従たちと同じ思いをさせてしまうと言う事になる。サンビタリアはそれだけはさせたくなかった。


「み、ミア様。ミア様は今夜のパーティーもありますし、ゆっくりと休んで頂いた方が――」

「ならん! ワシもついて行くのじゃ!」

「――っ!?」


 パーティーと言うのはお帰りなさいパーティーの事で、学園から帰って来た王族やミアの為に開かれるいつものパーティーだ。サンビタリアはその事を理由に断ろうと考えたわけだが、ミアには通じなかった。


「サンビタリア殿下はいつも帰りが遅くなると聞いたのじゃ。いつも通りの時間だと、パーティーには間に合わんとものう。だから、ワシも一緒に行って手伝うのじゃ。ですのじゃ」

「でも、それは仕方のない事ですし、ミア様が気になさる事ではありません」

「と言うかお主、ちょっと耳を貸すのじゃ。ですのじゃ」

「は、はあ……?」


 ミアがサンビタリアに近づいて、くいくいっと指で顔を近づけるように求める。サンビタリアが困惑しながら屈んで目線を合わせると、ミアが耳元でコソコソと話し始めた。


「他の者も見ておるから、ワシに敬語はやめてほしいのじゃ。普段敬語を使わぬ王女が、たかが公爵の娘に敬語などしておったらおかしいではないか」


 ミアは言いたい事だけを言うと顔を離して、ちょっと不機嫌な顔をする。その不機嫌な顔があまりにも可愛いものだから、サンビタリアはそれを見て何だか可笑しくなり、ついつい「ふふふ」と笑みを零した。


「そうね。あなたの言う通りだわ。ミア」

「うむ」


 ミアの不機嫌な顔がニコニコな笑顔に変わり、二人で笑い合う。が、それも直ぐに終了だ。まだ問題は解決していないのだから。


「とにかく、ミアはついて来ないでくれないかしら。あなたの侍従たちも困っているみたいだしね」


 話の矛先を向けられたルニィとクリマーテとヒルグラッセは、表情こそ変えなかったが首を横に振る。その様子にサンビタリアが困惑すると、ルニィが一度ミアと目を合わせてから、仕方が無いと言う表情を見せて一歩前に出た。


「サンビタリア様。そうではないのです。実は、ミアお嬢様も一緒に行くだけなのはイジメみたいで嫌だからと、一緒に下着だけの姿になろうとしているのです」

「…………え?」


 サンビタリアは自分の耳を疑い、そして、ミアに視線を移す。しかし、このアホ。ではなく、ミア。めちゃんこドヤ顔で仁王立ちである。サンビタリアは余計に頭の中がこんがらがって、ルニィに視線を戻した。


「悪いけど、もう一度言ってくれる? ちょっと聞き取れなかったみたいなの」

「ミアお嬢様も一緒に行くだけなのはイジメみたいで嫌だからと、一緒に下着だけの姿になろうとしているのです」

「…………?」


 一語一句いちごいっく先程と何も変わらぬ言葉の羅列られつ。サンビタリアはとうとう理解出来ず、その場で凍り付くように停止した。そして、ミアの更に増したドヤ顔スマイルと今からしようとしている行為に、サンビタリアの侍従や護衛たちをも動揺させた。

 この聖女、マジで何考えているか意味不明である。

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