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王太子推薦の理由

「家族会議を始める」


 チェラズスフロウレス城に戻って来ると、早速家族会議が開始される。家族会議室に集まったのは、相変わらずミアを入れた王族だけ。ここはミア以外の例外は認められないので、侍従たちはこの場にいない。

 今回の議題でメインになるのは王太子についてだった。


「聖女様。何故私を王太子に推薦すいせんして下さったのかお聞かせ願えますか?」


 サンビタリアが真剣な面持ちで尋ねると、ミアは視線を逸らして気まずそうにして黙る。


(ぬぬう。結婚が嫌だからなんて言えぬ雰囲気なのじゃ)

「俺も聞きたいな。聖女様は俺が王太子になる事が不満なのか?」

「そ、そう言う意味ではないのじゃが……」

「案外、アンスリウムと結婚したくないからだったりして」

「なに? アネモネ姉さん。それはどう言う意味だ?」

「そのままの意味よ」

(正解なのじゃ!)


 アンスリウムがアネモネを睨み、ミアがアネモネに笑顔を向ける。そんなわけでミアの顔を見れば一目瞭然だったが、残念ながら全員アネモネとアンスリウムに注目していて気付かない。


「その結婚の話だけど、前も言ったけど私は反対よ。聖女様とあなたとでは釣り合いが取れないわ」

「わたくしもサンビタリアお姉様に賛成です! ミアはアンスリウムお兄様には勿体無いです。保留と言わずに破棄はきして下さい」

「私も賛成ね。そもそも相談もせずに勝手に婚約者にする男なんて、どう考えても嫌だわ」

「アンスリウム兄さんには悪いけど、私も姉さんやフィーラの意見に同意するよ。国としては必要かもしれないけど、でも、事の発端は私の派閥の抑止力よくしりょくにする為だろう? そんな事にミアを巻き込みたくない」


 二人の姉と妹どころか弟のランタナにまで否定され、アンスリウムが不機嫌になって舌打ちする。すると、ミアが流石に何も言わないのは悪いと思って、ニヤついた顔を引き締めた。


「前にも話したと思うのじゃが、そもそもワシは結婚などする気は無いのじゃ。それに、するにしても暴動を抑える為なんて理由で婚約などしたくないのじゃ」

「ならば形だけにすれば良い。恋愛結婚を望んでいると言う事だろ? その気持ちは理解してやれんが、俺は寛大だ。浮気の一つや二ついくらでもしてもらっても構わん。相手は誰もが切望する聖女様だ。愛人になりたいと望む男は溢れる程に現れるだろうからな。国の為であるなら、それも必要な事だ」

「あ、愛人……? お兄様最低です」

「大人になれば分かる。子供のお前には分からないだけだ。ネモフィラ」

「お兄様だってまだ子供です」


 ネモフィラとアンスリウムが睨み合い、王妃はアンスリウムの考えに眩暈めまいがしたのかうつむいてひたいを押さえた。国王もどうしたものかと困り果てた顔をする。将来間違いなく愛妻家になるであろうリベイア一筋のランタナは、何を言っても無駄だと早々に意見を言うのを諦めた。

 ただ、サンビタリアとアネモネはネモフィラに同意しなかった。サンビタリアはミアの感情は一先ず置いておくとして、アンスリウムの考えが正しいとまでは思わないが、国としては一つの答えだと考えているからだ。アネモネに至っては、嫁ぎ先のブレゴンラスドが関係している。

 ブレゴンラスドは一夫多妻の国であり、いずれは第二夫人第三夫人と自分の愛する者の妻が増えていく。アネモネはそれを理解したうえで嫁ぐのだ。だから、ミアが愛人を作ると言う考えが最低だと思う事は無かった。

 因みに、チェラズスフロウレスも一夫多妻を禁止していないが、そう言う家庭は少ない。それもあってネモフィラの周囲には妻を多く持つ家庭が存在せず、余計に悪い印象を与えていた。


「結婚の話と言えば、ワシはアネモネ殿下の結婚が気になるのじゃ。日取りは決まったのかのう?」

「あ。わたくしも気になります。でも、その前にミアの気持ちが聞きたいです。ミアもアンスリウムお兄様と同じで、形だけの結婚であれば問題が無いのですか?」

「ワシはそう言うのは好かん。それが答えじゃ」

「ではでは、結婚はしないと言う事なのですか?」

「うむ。前から言っておるであろう? それにのう。フィーラも皆も一つ忘れておらんか?」

「忘れてる事ですか?」


 ネモフィラは首を傾げ、国王や王妃やランタナやサンビタリアやアネモネと目を合わす。だけど、全員なんの事か分からず、その答えを言える者は一人もいなかった。ネモフィラが再びミアに視線を移すと、ミアがドヤ顔で立ち上がった。


「ワシはサンビタリア殿下を王太子に推薦したのじゃ! つまり、サンビタリア殿下が王太子になれば、ワシが結婚する必要が無いのじゃあ!」


 ドヤ顔で声高々に放たれたミアの言葉に、ネモフィラがパアッと花を咲かせたような笑顔を見せる。そしてそれこそがサンビタリアを王太子に推薦した理由だと、誰もが納得した。


「なら、わたくしもサンビタリアお姉様を推薦します!」

「うむ! 二人でサンビタリア殿下を王太子に導くのじゃあ!」

「はい!」


 そんな軽いノリで王太子を決めるなどと国王が頭を抱え、王妃とサンビタリアとランタナは言葉を失って冷や汗を流し、アネモネは楽しそうに微笑んだ。そして、アンスリウムだけは怒り、その感情を心の中にしまい込んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  断るだけならいくらでも言えるだろうよ。
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