表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/265

32 コウが得た物

 どうすれば良いのだろうとコウは自問する。


 幼馴染のメイは二人だった。

 自分が気付いていないことろでも入れ替わっていた。

 特に決定的な物はどうやら、自分が散々に偽物だと罵ったメイと紡いだものらしい。


 それを告げて謝ったら逃げられた。


「まあ当然だよな」


 正直あの程度の謝罪ではとても足りないほどの暴言を吐いた。

 幼いがゆえにーーいや、それは言い訳にはならない。

 言葉で殺したいとばかりに決定的な言葉を吐いた。


 あの時、メイは無言で受け止めていたが。その後でどれだけ涙を流したのだろう。

 誰も味方のいない真っ暗な部屋の中で。


「くそっ」


 己の短慮が恨めしかった。あの時、もっとしっかりと考えていれば。思考を放棄して入れ替わったメイを憎む様な事をしていなければ。

 この十年は大きく違ったものになっていただろう。


 だが時は戻らない。


 出来ることはこれからの事だけ。


 誠心誠意謝るしか無い。他にコウは自分が出来ることを思いつけない。

 

 いや、あともう一つ。

 メイにはこれからの事を伝えていない。


 そう考えながら日課の筋トレを続ける。

 筋肉は良い。決して自分のように裏切らない。


 腹筋を続けていると。


 コンコンと。ベランダに続く窓が鳴る。


「?」


 気のせいかと思ったが鳴り止まない。

 心霊現象とかやめてくれよと思いながらそっとカーテンを開けると。


「早く開けてください。熱中症で倒れたらどうするんですか」


 メイが不機嫌そうな顔で居た。


「おま、どうやって。ここ三階だぞ」

「そこの木から登ってきました」


 確かに隣には木があるが。

 よくもまあ登る気になったものだと感心してしまう。


「お邪魔します。意外と小奇麗な部屋ですね」

「いきなり人の部屋来ておいてそれかよ」

「さっきの話の続きをしに来ました」


 前置き抜きで。メイは直球でそういう。

 

 それを聞いてコウはしばし目を閉じた。

 そして開き言う。

 

「場所を変えようぜ」


 苦労して男子寮から脱出して、向かった先は――訓練校のシミュレーター。

 夜遅くで利用者はいないが、申請すれば動かす事は出来る。

 

「模擬戦しようぜ」

「はあ? 何を言っているんですか。私の話聞いてました?」

「聞いてた。話の続きをしようってな」

「なら」

「それでも戦って欲しい。俺がそこに伝えたい事がある」


 真剣なコウの懇願にメイは根負けしたように視線を伏せた。

 

「もう想定外にも程が有ります。私、話をしに来たんですけど」

「正直、言葉で上手く伝えられる気がしない」


 そう言ってさっさとシミュレーターに乗り込んでしまったコウを見てメイは溜息を吐く。

 

「なんて勝手な」

「勝手にシミュレーターを使っているのはお前らもだけどな」


 そんなメイの背後から仁は声をかける。

 

「教官! 何ですかいきなりお化けみたいに!」

「……まあ笹森を焚きつけたのは俺だからな。気になって様子を見に来たんだが……何してるんだ本当に」


 二日続けて澪を早めに寝かしつけた仁はまたコウに会おうとして、ここに辿り着いた。

 

「いえ、その模擬戦を」

「……良く分からんが、シミュレーター使いたいんだな?」

「ええ。まあはい」

「んじゃ申請に許可だけ押しておくから」

「良いんですか?」

「熱心な教え子の邪魔はせんよ」


 言うや否や、ささっと許可だけ与える。

 

「んじゃ俺は帰るから」

「何しに来たんですか本当に」

「だから様子を見に来ただけだって」


 こうすればいい。ああすればいい。

 年の功というべきか。

 仁にもいくつか選択肢は見える。

 

 だがそれを示すのは違うだろうと仁は思うのだ。

 答えではなく、見落としている物を示してやりたい。

 

 当人たちが納得いくまで話し合い、殴り合った方がきっと良いと。

 そう信じている。

 

 その結果険悪な仲になったとしたら、その時は改めて教官として仲裁に入る。

 仁に出来るのはそれくらいだ。

 

「じゃあ頑張れよ」


 そう言って仁は去っていった。

 

「本当に帰ってますし……」


 若干呆れながらメイもシミュレーターに乗り込む。

 

 思えば。

 コウとは結構こうして模擬戦をしている。

 幼い頃は――どちらかというと争いごとを忌避している側だったというのに。

 こんな風に変わってしまった事。

 その理由が推測出来てメイは悲しい。

 だってきっとそれは、本当のメイがいなくなったことと無関係ではないだろうから。

 

 何の変哲もない宇宙空間。

 

 戦術的には有り得ない、一対一の状況。


 互いの機体は同じレオパード。

 ポジションも同じ前衛。

 

 故に、両者の戦いは壮絶な殴り合いとなる。

 

 向かい合った状態からの相対速度は12km/s。

 一瞬で距離をゼロにして。

 

 互いに鏡合わせの様に抜き放ったエーテルダガーが交差する。

 一合、二合。

 

 刃を合わせて、メイは己の不利を悟らざるを得ない。

 元より格闘能力はコウの方が高いのだ。

 脚を止めての格闘戦など勝ち筋は見えない。

 

 ならば、やはりとメイはいつも通りを選ぶ。

 

 加速。旋回。

 

 メイのやる事はこの二つだけ。

 この二つを縦横無尽に。

 組み合わせて複雑怪奇な模様を描く。

 

 これがメイの武器だ。

 教官である仁すら唸らせる高速機動。

 これだけはコウにだって負けない。

 

 その複雑な軌跡を描きながら、一撃離脱を繰り返す。

 

 コウはその機動に追いつけない。

 

 ユーリアならばそもそも距離を詰めさせず狙撃すれば対処できる。

 いくら複雑な機動と言っても、機体自体は弾丸より早く移動は出来ないのだから。

 

 ちなみに、ユーリアとコウならば、コウは強引に狙撃を捌いて近接戦闘に持ち込んでいく。

 仁の見せた狙撃を切り払う程見事には出来ないが、その技を盗みつつあった。

 

 実はこの三人。タイマンだと三竦みなのだ。

 

 だから、コウはメイに勝てない。

 メイの射撃能力は高くない。故に一撃離脱も切りつけて離脱するという物になる。

 

 それで十分。

 相手の死角から切りつければコウといえども対処は出来ない。

 

 繰り返しの突撃で、コウのレオパードは見る見る傷ついていく。

 

 コウは何がしたかったのだろうと。

 メイは思う。

 

 この戦いで何かを伝えたかった。

 だが――結末はこれだ。

 メイの心には何も届かなかった。

 

 まあ良いとメイは思う。

 別にこれが終わったら改めて話せばいいだけ。

 早く終わらせてしまおうと。

 

 とどめの一撃を振るおうと――。

 

「読んでたぜ。手足を切り刻んでも大破認定はされねえ。トドメを刺すには胴体を狙うってな」

「なっ」


 背後から狙いすました刺突。

 それはエーテルリアクターを貫き、大破を認定させるに十分な一撃。

 

 命中すれば。

 

 今コウのレオパードは異様な姿勢となっている。

 背中の辺りで手のひらを合わせた様なポーズ。

 

 その手のひらの中には、メイのエーテルダガーの切っ先がある。

 

 人体構造をまるっきり無視した白刃取り。

 手のひらに集中させたエーテルコーティングが、刃を包み込んで止める。

 それは。

 

「人体の動きを意識してる、か。全くその通りだったぜ教官!」


 仁ならば、戦いの動きの中にそれを組み込める。

 今のコウにはそこまでは出来ない。

 相手の行動を読んで。そこにハメる様なタイミングでしか使えない。

 

 それでもこれはコウが仁に挑んで奪い取った技だ。

 

 トドメの一撃を止められた。

 だが、それでメイが敗北するわけではない。

 

 今度は読まれない様に。もっと緩急と角度を付けて。

 

「おせえよ!」


 心理的な隙間。

 そこにコウは己を捻じ込ませていく。

 

 右足。そのつま先で振るわれたエーテルダガー。

 この距離、この位置。

 

 当たる訳が無い。

 そもそもまともに振れる訳がない。

 

 だが、コウはそれでも機体を動かす。

 人体を無視した動き。

 脚部の関節部を連動させて動かした動きは、鞭の様にしなって。

 

 離脱するメイ機よりも早くその刃を届かせた。

 

 あ。

 と思った時にはシミュレーターは終了している。

 撃破認定されたのだと理解するのに数秒かかった。

 

 負けた。

 お遊びや賭けでやってきた一対一。

 メイがコウに負けたのはこれが初めて。

 

 呆然としてメイはしばらくシミュレーターの中から動けない。

 やがて外部からシミュレーターが開放される。

 

「俺の勝ちだな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 青春の方向性が変わったww やっぱり主人公は叩きのめして伸ばさないとな!(w
[一言] 殴り愛かよw 仁の見立て通り、コウは一皮剥けていたようですね。 やっぱロボット乗りはほめて伸ばすんじゃなくて 叩いて這い上がらせるのがよい(断言
2019/11/28 12:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ