御用聞きと九尾の子狐
賑やかになったなぁ
翁が「九尾」と言った事で、未だ眠っている子狐が九尾と知る
——毛の色以外は普通なんだけどね
九尾と言ったら名の通り、尾が9本あると思うのが普通だろう。
子供だから一本なのかな?
皆で、中々目覚めない九尾を覗いていたら
「コンチワー。荷物届けに来てやったぞー」
外から、誰かが呼んでいる。
「おお!こっちだこっち」
翁が土間から顔を出し、中に招き入れた。
荷運びに来たのは・・・
——うわぁ、河童だよ
僕は、見知っている妖に
ちょっとテンションが上がった
カッパは、籠を引き連れてやって来た
籠達からは、にゅっと手足が生えている
籠は手はあるけれど、中身は出せない様で
てくてく移動しては、河童に取り出して貰う
その光景をじっと見ていたら
「ん?兄さん籠は初めてか?こいつは付喪神のかごめだよ。よろしくな」
かごめは喋れないのか、河童が紹介してくれた。
「もう、わっちの言葉取らんといて」
かごめは、河童をパチパチ叩いている
——喋れたんだ
彼女?は、ペコリと頭、身体?を傾けて
「荷運びの、かごめどす。よろしゅう」
と、挨拶をしてくれたけど
鍵が開けっ放しのランドセルの様に
中身が、バラバラとこぼれ落ちた
「ああ、もう何やってるんだよ、だからオイラが先に伝えたのに!」
河童がぶつぶついいながら
こぼれた荷物を拾っている
こちらまで転がって来た
木製のお椀を拾い、かごめに入れた。
「・・・」
何も言わない。沈黙中みたいだ
「兄さんや、かごめ、失敗を無かった事にしたくて、ただの籠のフリしてるんだ」
いまさら、無理があるよ
僕は、無言でジーッとかごめを見つめてみた
——-見ただけだと、ただの籠だ
この辺には手があったな?とか、目はあるのかな?とか考えながら見ていたら
「みっ、見つめんでおくんなましっ」
かごめは、そわそわした後、立ち上がり、
部屋の奥まで走ろうとした。
「あっ!おい、荷物持ってくな!」
河童はサッと籠を掴み、
ひっくり返して籠から中身を出した。
「用は済んだから、お前は帰れ」
河童は、シッシと追い払う姿を見せた
かごめは、またパチパチと河童を叩いて
「な!やっぱし、酷いお方でありんす」
と、いいながら出て行った
出る前には、またペコリと頭を下げた。
かごめは、とても礼儀正しかった。
「兄さん、オイラ河童の御用聞きでして、これからも宜しゅう頼んます」
カッパから、引っ越し祝いとお近づきの印に
豆皿のセットを貰った
——-カッパだから皿なのか?
よく見たら、サイズ的に部屋にいる
神様達にお供えするのにいいサイズだ。
「ありがとう。そう言えば君の名前は?」
かごめの名前しか、聞いてなかったな
「オイラの名前は、サブローですわ」
ん、分かりやすいね
「お兄さんとかいるの?」
予想通りなら・・・
「イチロー、ジロー、オイラとゴローの4人兄弟で御用聞きやってんで」
番号、飛んでるよね?
「そこは、シローじゃないの?」
しまった、不幸だったらどうしよう
「シローは、賢いから別の仕事や」
——-良かった
「サブロー、神様達のお供え用に、小さなおちょこを頼んでもいいかい?」
姿が見えるんだし、
神様達にちゃんとお供え物しよう
「ええで!ところで兄さん、たまにやし、外の井戸、使わせてもろてもええ?」
サブローは、自分の頭の皿を指差している。
「いつでも、使っていいよ」
と、オレが言うと
「ほな、おおきに、毎度あり〜」
サブローはさっさと出て行った。
皿、乾く訳には行かないもんね?
必要な物が整ったのか、
媼がご飯を作ってくれるらしい
竈では、おくどさん、
囲炉裏では、秋葉が大活躍している。
竈では、ご飯が炊かれ、
囲炉裏では、具沢山な汁が作られている
ご飯が炊けたので、小さな塩おにぎりを
作らせて貰い、豆皿に乗せた。
屋敷神と、女神の清美に渡して手を合わすと
2人はニコニコしながらおにぎりを食べた
赤舐めのキヨシにも渡したら、
おにぎりの皿と僕を何度も見て
涙を堪える様な顔をして
「貰ってもいいのか?」
と、聞いて来たから
「勿論だよ。貰ってくれる?」
と、言ったら
首をぶんぶん縦に振っていた
「後からお皿は取りにくるからね」
そう言って、部屋に戻った。
「喜んでるにゃ」
小梅が九尾の元から僕の側にやって来た。
「キヨシ泣きそうだったよ」
と、小梅に伝えたら
「妖は優しくされることが少ないにゃ。だから、ウチはキヨシの気持ちわかるにゃ」
と、言って僕に擦りついた。
手伝おうと、戻ったら
媼に座っていなさいと言われ、
僕は子狐の横に座った。
漂ってきたご飯の匂いに釣られたのか、
白銀の子狐の鼻がピクピクしている
「起こしてみようか?」
お腹空いたかもしれないよな
「おーい起きるにゃ」
小梅が子狐のおでこに、猫パンチしている
「起きないにゃ」
小梅が諦めたら、秋葉が媼にお願いして
汁に入っているお肉を貰って来た。
子狐の鼻先へぶら下げると
子狐、ソワソワした後、パチリと目覚め、
秋葉から差し出された肉を、パクリと食べた
「良かった、やっと起きたね」
白銀の子狐は、青紫色の目を
パチクリさせ、キョロキョロし
首を傾げ
「私は何でここにいるの?」
と、秋葉に尋ねている。
「喋った・・・」
僕は、何だか不思議な感じかして
思わず呟いてしまった
すると、子狐はこちらをじっと見つめて
「九尾だからね?」
と、教えてくれた
「あ、そうだった」
僕は何とも間抜けな返事をした。
「でも、尻尾無いにゃ。どうしたにゃ?」
小梅が九尾の尻尾について尋ねると
「今、戦いで力を使ってしまい、神力が弱ってるから、尻尾は見えないんだ」
ポスっと寝そべる姿は、
ただの綺麗な子狐にしか見えない
「戦いで・・・そうだ、君の名前は?」
僕が名前を聞くと、
子狐はこちらを見ながら顔を上げ
「九尾の迅」
迅は耳をぴこぴこ動かしながら
僕に名前を教えてくれた。
「ジン、カッコいい名前だね」
僕はまた、
新しい妖と知り合いになれた様だ
「君は、阿修羅の知り合いなのか?君から阿修羅を感じるんだけど・・・」
迅の瞳が、怪しく光った様に見えた
籠のかごめは飛び出したけど、玄関の向こうで待ってました




