阿修羅を宿す女
えーちょっと待ってよ
ジャッジャッジャリッ
その音に、沈んでいた俺の意識が浮上する。
砂利の上を竹箒で掃き清める音がする。
「善子、あれからどのくらい過ぎたんだ?」
神力を霊体ごと半分持って行かれたので、さすがに回復には時間がかかっている。
「阿修羅!あんた、ようやく起きたわけ?で、もう動けるの?動けるなら、さっさと悠を迎えに行きなさいよ」
善子は、早くしろとガミガミうるさい
「まだだ。漸くエネルギーとしてねや蓄積は出来たが、息子が持って行った分の霊体の修復がまだだ」
今はまだ、実体化が難しい。
「全く、役に立たないわね。憑依させてやってるんだから、境内の掃除くらい手伝いなさいよ、このポンコツ」
善子が、俺に好き放題言ってくるので
「清!喝!」
俺は、印を組みあたり一面にある落ち葉や不浄なるものを青焔で消し飛ばした。
「ちょっと、阿修羅!何やってるの!」
善子が慌てるが、青焔は直ぐに消えた。
あたり一面、塵ひとつ無くなったのを見て
「これでいいか?」
と、聞いてやると
「あんたって、やれば出来る子なのね?」
と、仮にも半神の俺に向かって行って来た
「お前の、俺のイメージ、多分おかしいぞ、神として扱われる俺を、もう少し、丁寧に敬ったらどうだ?」
俺は、親切に教えてやったのだが
「は?遊びに夢中で半身ちぎれた奴を、どうやって敬ったらいいわけ?そのせいでこっちは息子が巻き込まれたんだ」
バカな神だね?と、嘲笑われた
「うぐっ・・・」
それを言われたら
何も、言い返せないじゃ無いか
「大体あんたは、前の時だって・・・」
善子が更に言い募ろうとした時、
(・・・坐す・・・持ちて・・・橘の・・・原に・・・)
ん?祝詞か?
「まて、何か聴こえて来た」
助けが必要なのか?
(・・・給ふ・・・等・・・れを・・・)
「善子、お前の神力ごと貸してくれ、お前の神力があれば、飛べる憑依したまま飛ぶぞ」
俺は少し焦っている
「悠があぶないのか?なら早く行こう」
俺の心情を読み取った善子は、
早く行けと言う
「祝詞の終わりに、彼方の俺の力が、俺と共鳴するだろう、そのタイミングで飛ぶぞ」
もうすぐだ。
出来れば戦闘は避けたいが
「着いたら戦場かもしれんぞ」
とりあえず、警戒だけはしてもらおうと
善子に声を掛けたが
(・・・給へ・・・申す・・・しき)
「分かった。任せて」
善子は、竹箒を握り力強く頷いた。
「まさか、それが武器なのか?」
そんなはずないよな?
「何よ、武器なんて使い方次第よ」
善子はグッと体勢を低くした。
「・・・てて・・・せと・・・恐み・白す」
祝詞が終わり、俺と自分の半身が共鳴する
知覚する事でゲートが現れた
「頭上から堕ちるからな。いくぞ!」
神々しく光り輝くゲートを抜けると
足元に悠が見える。
「悠っ!」
まずいな、息子、襲われてるじゃねぇか
餓鬼どもが悠に飛びかかって行ったので
「雷滅!」
咄嗟に手を天から地へと振り下ろす
バリバリバリッ!
落雷と共に着地した善子は、
無言のまま、地に伏せた餓鬼どもを
箒で一気に薙ぎ払った
ドカッ!バキバキ!ガラガラガラ・・・
餓鬼どもは、近場の家屋ごと吹き飛び
瓦礫に埋もれた。
「ッスー」
善子は、呼吸を整え、目先で戦っている
九尾に目を向けた。
「善子、九尾以外はやっていい」
そう、伝えた瞬間
「貴様らぁ!よくもウチの息子に手ぇ出しやがったな?雑魚はいらん邪魔だ!退け!」
善子はグッと竹箒を握り、妖どもに近寄り、フルスイングで箒を振り切った
すると、箒から、赤黒い荊の様な神力の鞭が現れ、一瞬で妖どもを、纏めて捕縛した。
「善子、鞭の形状は見逃すとして、せめて色くらいはもう少し、清らかに出来んのか?」
どっから見ても悪にしか見えんぞ
「は?悪を成敗するんだから、丁度いいでしょうが?」
そう言って、ツカツカと
一纏めにされた餓鬼の側まで行き、
「アンタらのトップはどいつ?話、付けたいんだけど」
善子は仁王立ちで睨みながら餓鬼に聞いたが
「お前の様な奴には、会う資格さえないね」
餓鬼のは一匹が、善子を煽った。
バカだな、やめとけばいいのに・・・
バキッ
「アンタらのトップは?」
間髪入れずに、煽った餓鬼の顔面に
善子が一切の躊躇なく蹴りをかましたら
「ここには居ません!来ていません!」
と、隣の餓鬼が、怯えて答えた。
「善子、コイツらはただ暴れたいだけの奴らだ。聞いても無駄だ」
半身を善子の背中から出し、肩に手を掛けて
頭の上で俺がそう言うと、餓鬼どもが
「ひっ!阿修羅様!」
と、更に怯える
「じゃあ、コイツらどうするのよ?消す?」
善子は、腕まくりを始めた。
「待て待て待て、俺が、日本に送り返すから。コイツらは乗せられただけだ。さすがに、消すのは待ってやってくれ」
善子は、仕方がないわね?と腕を下ろした
「アンタら、暴れたいだけなら、弱い奴らに手ぇ出すんじゃねぇよ。どうせなら格上に挑め。弱者を集団で襲う?みっともない真似するんじゃ無いよ」
善子は、ドスの効いた声でいい放つ
—-言葉に『統率の神力』がのってるな
言葉に、神力がのると、言霊となるから
奴ら縛るには有効だろう。
「・・・姐さんすんません」「姐さんもうしません」「ごめんなさい姐さん」
餓鬼どもが、皆、善子に従い始めた・・・
「おい、お前ら、向こうで何か聞かれても、帝釈天に余計な事言うなよ?」
俺がそう言うと
「・・・はい」
と項垂れながら返事をしたが
「テメェら返事すらまともに出来んのか!」
と、善子が怒鳴ると
「「はい!絶対に言わないです!」」
と、善子は何故か餓鬼を従えていた。
俺が神力を使い、日本へのゲートを作ると
餓鬼達は一列に並び、頭を下げて挨拶をして
一匹ずつゲートを潜って行った。
最後の一匹が入った時
「あの・・・」
と、悠が声を掛けて来た
善子が振り返ると
「あの、母に抱きつくの、見ていて気まずいので、辞めて貰えませんか?」
と、目線を下げながら、渋い顔で言ってきた
俺は今、後ろに倒れない様に
善子の首に手を回し、バックハグ状態だ
「悠、気にするところ、今はそこじゃ無いでしょ?」
善子は、息子の無事にホッとしながら
悠の反応にツッコミを入れている。
「だって母ちゃん、母親が男にべったり懐かれてる姿、思春期の息子は、普通に見たく無いと思うよ?」
悠は、善子に淡々と説明しているが
「お前達、再会の感動とか無いのか?」
普通、あるだろ?
「え?だって母ちゃん・・・」
悠は、この人変なこと言ってるよ的な
目線を、俺に向け、善子に投げている。
「悠が生きてるなら、それでいいよ」
善子は、本気でそう感じている
この親子、話が通じていない様で通じいる。
「って人だから、感動は出来ない」
と、悠は満足げにこちらに伝え、ついでに
「とにかく、母ちゃん抱きしめるのは辞めて、離れてくれません?」
と、言うから
「悠はマザコンか?」
と、善子を揶揄ったら、善子に殴られた。
今の一撃で神力がだいぶ減ったので、
渋々中に入る
「おい、阿修羅、さっさと出てけ」
と、善子は言う。
俺は悠を見ながら考えた。
今、悠の中の俺は同一化し始めている
単体で善子から出たら、力が足りなくなる
「悠に憑くには、俺の力が融合したばかりで
まだ慣れてないから、神力が不安定だ」
俺がそう説明すると
「自分の力だろうが、なんとかしろよ」
と、善子言われたけれど
「強大な力だ。下手に刺激すると、器が壊れてしまうぞ」
と、言ったら、俺の力を知っている善子は
理解出来たのだろう。
「分かった。仕方がないわね」
と言って受け入れた。
「悠、帰るわよ」
善子がそう言って促すと、
「母ちゃん、今は無理だよ」
と悠が拳を握り締め、下を向いている
「なんでよ?あなたが居ても、何も出来ないでしょうが、自分すら守れないじゃない」
善子は息子に、ハッキリと現実を突きつける
「母ちゃん違うよ、出来ないと、やらないは違うって、教えてくれたのは母ちゃんだろ」
悠はそう言って、善子を真っ直ぐに見た
「阿修羅、ピンチの時は、飛べるのね?」
善子は、悠を見詰めながら俺に尋ねた
「ああ、任せろ。悠、何があったら呼べ」
俺がそう悠に伝えたら
「悠、自分で決めたんだ、必ずやり遂げなさい。自分から逃げるんじゃないよ」
善子は、悠にキッパリと言い切った
ゲートを潜る直前に
「でも、いつだって母ちゃん飛んでくるからね。爺ちゃんのご飯作るから帰るね」
と、言ってさっさとゲートを潜った。
ゲートが閉じた瞬間、
「悠・・・」
善子は泣き崩れた
「お前、バカだろ?泣くくらいなら。優しい言葉かけりゃいいのに」
俺がそう言えば
「悠は優しいんだ。私が嫌がれば、私の言う事を受け入れてしまう。でもあの子の人生なんだ。あの子が決めたなら、私は背中を押すしかないんだよ」
そう言って立ち上がり
「そんな事より、さっさと出てけ」
と、俺に悪態をつき
手にした箒を立て掛けて、
善子は何事もなかったかの様に帰宅した
善子は、背中に阿修羅を背負い慣れているのでなんとも思って無いです。




