初めての動画
霧子は、130年後の未来でインフルエンサーとなってしまっていた。
しかし、霧子にはまったく実感が湧かないのであった。
霧子は、ただひたすら、お猫様の写真を撮影してアップするのみ。
そしてアップされた写真を、『宅配ネコサービス』が自社ホームページに載せ、それを130年後の人々が見ている。
リアクションは、霧子には届かない。
『宅配ネコサービス』によれば、50万人のフォロワーが付いたらしいが、霧子のユーザー画面にそんな数字は現れない。
変な気分である。
しかし、“動くお猫様”が見たいという要望が『宅配ネコサービス』に寄せられていると聞けば、やはり、動画撮影をしないわけにはいかなかった。
さて、霧子は、これまで、スマホでお猫様を撮影していたのだが、動画撮影はしてこなかった。
しかし、スマホにもビデオ撮影の機能は付いていた。
霧子は、スマホを構え、お猫様を撮影し始めた。
が、お猫様は、眠かったのであった。
お猫様は、一度、くわっと大きなお口を開けられた。上の前2本の牙が見え、ちょっと怪獣顔だ。
そして、べたんと長ーく伸びた形で横になってしまった。
両の前足はなぜか、幽霊の恨めしや~の形に曲げられたまま揃っており、一方、両の後ろ足は投げ出されていた。
動画撮影のはずが、動きのない絵であった。
まぁ、いっか。
お猫様は、ぅぷぅ~、ぅぷぅ~、と寝息を立て、何か福々しいお顔をなさっていた。
そして、お腹の辺りが、がらあきで、触り放題の状態であった。
霧子は、動画撮影を放り出して、お猫様の柔らかいお腹をわしゃわしゃと触った。
この分だと、ひょっとしたら、肉球も触れるかもしれない。
霧子は、どきどきしながら、後ろ足の肉球を軽く押してみた。
お猫様は黒猫であるが、肉球は小豆色をしていた。
ぷにぷにというより、少し弾力の感じられる触り心地だった。
一旦、触り始めてしまうと、もう、何だか、止められなくなってしまい、霧子は、お猫様の感触を堪能し続けた。
と、お猫様のしっぽが、動いた。ぱたん、と。
止メレ。
お猫様が、しっぽで意志を伝えたように思われた。
そして、お猫様の薄眼が開き、霧子の方をめんどくさそうに見た。寝起きのお猫様は、ちょっと不機嫌だった。
霧子は、お猫様のお昼寝の時間を邪魔してしまったのだった。
かくして、お猫様の初めての動画は、可愛らしい寝息の音が入った寝姿となった。
霧子は知る由もなかったが、それはそれで、未来猫派を喜ばせた。
フォロワー数も、さらに増えたのだった。




