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霧子、悩む

さて、霧子の当面の問題は、水際女史からのありがたい申し出により、一旦、棚上げとなったのであった。


しかし、現時点では、霧子の部屋がペット禁止の部屋であることに違いはなく、水際女史の叔母であるところの大家や他の住人に、お猫様の存在を知られるのは、やはり、避けなければならないのだった。


特に気を付けねばならぬのは、ゴミである。

どうしても、ゴミの量が増えてしまうのだ。


そして、やはり、お猫様の健康状態に問題が出た際の受診には、霧子の部屋を通じて外出しなければならないため、お猫様自体を目撃されてしまう可能性がある、というところなのだ。


悩みは尽きない。


幸いなことに、異空間の中で、お猫様は、伸び伸びと過ごしていた。


お猫様は、気まぐれではあったが、霧子の関心が自分以外に向けられると、態度を急変させる。

霧子に遊びを要求し、膝の上に乗ったり、撫でるように促したり……。


かまってちゃん、であった。


一方で、霧子が自分の方を見ている、と分かっている時には、わざと、あさっての方を見たり、狭いところに潜り込んで寝てしまったりするのだ。


霧子は、呆れつつも、許さざるを得なかった。



さて、そもそものきっかけはSNSだったのであるが、霧子は、すっかりご無沙汰となっていた。


水際女史からの頼みで、スマホでお猫様の写真を撮ったりしているのだが、これをSNSにアップすること自体はしていない。

お猫様の存在を、世間に、堂々と知らしめるには、問題があるからだ。


しかし、せっかく撮ったお猫様の写真。

データの整理のためにも、どうにかしたいのだった。


「あの別アカだったら、どうなるんだろう?」


別アカというのは、『宅配ネコサービス』の要求で作った特別アカウントのことだ。

お猫様のカルテの開示許可のための同意書を、130年後の未来へ送る手段として作ったのであった。

『時間管理システム』により、どういった技術でか、霧子の暮らす時代のSNSユーザーには接触できないように細工されたらしく、フォロワーは未来のA動物病院と、『宅配ネコサービス』だけだ。


霧子は、試しに、別アカでお猫様の写真をアップしてみた。


お猫様の寝姿。

お猫様の香箱。

お猫様がネズミのおもちゃで遊ぶ様子。


誰も、それを見ることはないかもしれないが、霧子にとっては、貴重なアルバムである。


と、突然、霧子の部屋の床の囲みから、あの音声が聞こえてきた。


「お、お客様。只今のお時間、よろしいでしょうか? 『宅配ネコサービス』でございます。」


霧子は身構えた。また、何か起こったのか? 

いや、今日こそは、訊いておかねばならぬ。


「あの、いつも突然、声がかかるのだけれど、こちらから、連絡を取りたい時にはどうしたらいいの?」


霧子は、ずっと訊けていなかった最大の謎を口にした。


「それでございましたら、先日作っていただいたアカウントでSNSへ投稿していただければ、すぐに連絡をお取りします。お客様は、本日、つい先ほど、投稿されましたよね?」


何と、霧子が思い付きでお猫様の写真をアップしたことが、『宅配ネコサービス』への連絡になったらしい。


「あと、訊いておきたいことがいくつかあるのだけど。」


霧子は、この際なので、疑問をぶつけてみることにした。


「この転送装置、異空間側の方に繋げることはできないの? あと、今の転送装置、マスキングテープを剥がしても、再び造り直すことは可能なの? それと、お猫様と外出する際、誰にも見つからないようにするために役に立つ道具ってない? あ、あと急にゴミが増えるようになったけど、大家さんに怪しまれないようにするためにどうしたらいいか、教えて欲しいんだけど……。」


霧子は、誰にも相談できない悩みを、床の囲みの音声に訴えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『宅配ネコサービス』に連絡できるようになった。 おめでとうございます。
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