力を隠すタイプの落ちこぼれ2
※人が増えすぎてる感があったので、クラフトを九人兄弟から六人兄弟に変更しました。グッバイ妹達
グリーン家の食卓は重々しい雰囲気に包まれていた。
原因はもちろんあれ、禿山の件だ。
「全く、どこの誰があんなくだらないマネを。そもそもここはグリーン家の敷地よ。私有地に入った罪で縛り首だわ」
おかんむりの母はミディアムレアの肉を、まるで親の仇のようにフォークで突き刺した。怒っているのは母だけでなく、女性陣全員だ。
日光を遮る木々が消え失せたせいで、紫外線がダイレクトに降り注ぐ事が原因かもしれない。犯人が許せない。
「まあまあ、父上が南ギルドの〝森の王〟に依頼したと仰ってましたから、もう少しの辛抱ですよ」
「何がおかしいのナイル」
紫外線なんてへっちゃらな男性陣代表――ひとつ上の兄ナイルは、鬼の形相の女性陣を見て笑いを堪えている。
「でも不思議ね。森なんてこの辺りいくらでもあるのに、なんでグリーン家の敷地だけ?」
「……まさかあんた」
可愛らしく小首を傾げる長女ドロシー。
双子の姉ニーナは冷たい瞳を俺へと向けた。
「おいおい、ニーナは何か? こいつがやったとでも思ってるのか? それは理不尽ってもんだぜ」
珍しくナイルが庇う。
「攻撃魔法すら使えない奴がどうやって森を消滅させられるんだ? まさかこいつが木こりでもやったとか思ってるのか?」
前言撤回。馬鹿にしていただけのようだ。
ナイルはトレードマークのゴーグルを額に上げ、げらげらと俺を指差し笑っている。
ナイルわかってるのか。
そのゴーグルすごいダサいぞ。
俺は大人の余裕で食事を続ける。
「……まぁこの件に関しては、いくらなんでも犯人は別よね」
しばらく俺を睨んだいたニーナだったが、観念したように溜息を吐き、食事を再開した。
ニーナわかってるのか。
犯人は俺で合ってるぞ。
俺は大人の余裕で食事を続ける。
「それよりもアンタさぁ、北生統の会長に目掛けられたんだって? どんな事話したの?」
ドロシーは話題を変え俺に話を振ってくる。頬杖をつき、興味津々な様子でこっちを見ている。
「北生統って確か、生徒の中でも選りすぐりの生徒だけしか誘われないっていうあれかしら?」
「お、お姉様! その話は本当なのですか?! まさか、何かの間違いじゃ……」
首を傾げる母はピンときていない様子。ニーナは流石によく知っているらしく、紫外線の時よりも遥かに声を荒げ、烈火の如く怒りを露わにしている。
「いいえ。これは私の親しい友人から聞いた話だもの。クラフトがどうとかじゃなく、友人の言葉は信じるわ――で、どうなの?」
ニーナの言葉をピシャリと否定するドロシー。
ナイルも興味ありげに背もたれに寄りかかり、こちらを見ていた。
「簡潔に言えば、勧誘は受けました」
「う、嘘よ!! こいつそんな嘘を平気で……」
「ニーナ、黙りなさい。それで?」
ドロシーの目が怪しく光っている。
俺は学食であったありのままを語った。情報になかったのでマルコムも勧誘されていた件は伝えなかった。
「ヨハンに挨拶したついでに、気まぐれで言ってみただけなんじゃねえの? 会長は良くも悪くも変人だって聞くしよ」
ナイルはつまらなそうに肉をつつく。
ニーナは俯き、押し黙っている。
「もし勧誘が本気なら、もちろんその誘いを受けるわね? クラフト。北生統にはヨハンも参加しているそうだし、またとない好機だわ」
「本気なら、もちろんそのつもりです母様」
母はナプキンで上品に口を拭くと席を立った。
食べ終わった面々も続くように席を立つ。
「……ッ!」
ニーナだけは最後まで俺を睨んでいた。
◇
場所は変わって禿山の頂上。
俺とマルコムは日課になった〝魔装とそれの維持〟を行いながら、学校の事について語っていた。
話題はもちろん北生統――そして会長についてだ。
「まぁお前の家族の話にも出てるが、会長は良くも悪くも変人だ。とはいえ魔法の才能だけでいえば、それこそ学校一だと断言できるな」
お互いあぐらをかいて瞑想の形をとり、魔装の維持に努める。マルコムはしんどそうにフゥと息を吐いた。
「学校一の魔法使いかぁ」
「正しくは王国にある学生で一番だな。一昨年と去年の魔闘祭では圧倒的な強さで優勝したらしい」
はぇーすっごい。
というか魔闘祭ってなんだっけ。
「魔闘祭は王国にある二つの学校で生徒五名ずつ選出され、互いの学校の名誉をかけて戦う催しだ。選出方法は学校内の勝ち抜き戦上位五名……会長はその全てで負け知らずだ」
心のつぶやきを聞いてたかのように、補足するマルコム。
そして、
「ちなみに今月にその魔闘祭の選抜予選が始まるぞ」
と、付け加えた。
学校トーナメントってやつか。
はいはいテンプレのやつね。
大抵は途中で魔族がちょっかい出してきてうやむやになるアレね。よく読んだことある。
とはいえ、そうなると確かにすごい人物だ。王国には北と南に学校があり、生徒数は両方ざっと約4000くらいだから、8000人の頂点というわけだな。
場合によってはヨハンより英雄に近い生徒じゃないか。
「北生統に所属する生徒は 六人。一人は訳あって戦闘をしないそうだが、後のメンバーは全て、王国最強生徒の会長が自ら選んだ精鋭だ。その中にお前の友達ヨハンもいるわけだな」
「友達というよりも、俺がぶら下がってるだけですけどね」
約4000人の中から六人だけが選ばれてる北生統。確かに、強さに固着するニーナからしてみれば、そんな所にクラフトが勧誘されたなんて我慢できないだろう。
マルコムが続ける。
「会長はもちろん最強の魔法使い。ヨハンは発展途上だが英雄候補筆頭の魔法使い――当然ながら残る三人もまた、やべえくらい強いぞ」
「へえぇ。じゃあ魔闘祭で当たったら代表漏れ確定じゃないですか」
「かもな。少なくとも〝魔紋〟を使いこなせるくらいにならなきゃ、まともな勝負にすらならないだろうな」
参考までに名前だけ教えとくぞ。と、マルコムはその化け物三人の名前を言った。
〝天才 レイレイ・カールトン〟
〝鎧竜 ヴィクター・クロード〟
〝剣帝 ベルビア・バートランド〟
ご丁寧に肩書きまで添えて。
なんだこのむず痒い二つ名は。
「選抜選手を狙うなら、この内の誰かを蹴落とさなきゃならないぜ。俺からしたら一番の穴はヨハンって事になるけどな」
「狙いませんよ、別に」
そう言いながらも、心のどこかで挑戦したい欲望が芽生えている事に気付いていた。ニーナほどではないが、クラフトもなかなかやる気に満ちているようだ。
俺は黙想しながら化け物三人の名前を復唱する。
彼らの誰かと当たる事になれば、自分の立ち位置が明確になる。
別に勝てなくてもいいさ、当たって砕けてみたい。
俺は魔力切れ寸前になったマルコムが帰った後も、一人で特訓を続けたのだった。




