憑依先は落ちこぼれ6
初の討伐任務から更に2ヶ月が経過した。ちょうどこの頃、かつて豊かな緑に囲まれていたグリーン家の周囲が完璧に禿山になった。
岩肌が露出している山々。緑が見る影もない。ざまあみろ。
毎日魔力を空っぽにして特訓している自分たちの魔力量が気になり、ギルドに備え付けられた魔力測定プレートで測ってみたところ、
クラフト:84,000
マルコム:79,000
と、表示された。
今のところ魔力は底無しに伸びている。
元々アドバンテージがあった俺に対し、マルコムの追い上げが凄まじい事に危機感を覚えた……それだけ影で特訓しているという事にもなるが。
俺はそろそろ決断の時だと考えている。
決断とはなにか、腰巾着の卒業だ。
「俺も孤立するんですかね」
「一人も悪くないぞ。戦闘訓練でペアが作れないけどな」
強くなったマルコムも未だに孤立している。
実力を晒す場が無いというのも大きいが、それ以上に彼が力を見せびらかすような男では無いということ。
彼曰く、中途半端な力で満足してはいけないのだという。言葉に重みがあった。
「腰巾着やめたら、たぶん家から追い出されますね」
「そのための資金集めだったんだろ。寮に入るのもありだと思うが」
家族から見たクラフトの存在意義は〝ヨハンとのコネを作る〟という、ただそれだけである。それすら放棄してしまえば、お払い箱になりかねない。
「アレを習得できたら腰巾着やめようと思います。ギルドを活動拠点にできますし」
「魔装か、試してみる価値はあるな」
にやりと笑うマルコム。
俺は大きく頷いた。
〝魔装〟
魔装は属性神の力を借り、魔装を媒体として大いなる自然の力を流用ができる魔法使いの奥義のような物。魔装が使える者とそうでない者とでは正に天と地ほどの差が生まれる。
心の奥底に眠る自分の〝力の源〟を知ることで魔装発現に至るとされているが、維持するには膨大な魔力を初期投資する必要があるらしい。
個人差はあるが消費魔力は約5万。これが多ければ多いほど強力な媒体となるようで、1年生では恐らく、ヨハンくらいしか条件を満たせないだろう。
俺たちは一応条件を満たしている。
魔装を極めた者だけが辿り着ける境地に〝魔紋〟というものがあるが、今の実力でそこまで辿り着けるかは分からない。当面の目標は魔装の発現と維持だ。
「ギルドの星5昇格の最低条件が魔装の発現だから、これさえ会得できれば一人前だな」
「俺まだ星1なんだけどなぁ……」
星5にもなればギルドの中堅クラス。
学校の生徒にも一桁しかいないエリートだ。
「始めますか、瞑想」
「コツ掴んだら教えろよな」
俺たちはその場にあぐらをかき、
目を閉じて魔力を練っていく。
力の源――これは俺なのか、それともクラフトなのか。或いは、
「両方か……」
精神の底に沈む感覚。
その先に光る〝2つ〟の球体。
片方は俺自身の源。
片方はクラフトの源だろう。
どっち取ればいいんだ?
これを取れば魔装発現に至るのか?
2つの光の前にあぐらをかく。
そもそもこれ、両方とも取る権利あるよな?
それならじゃあ、両方取っていいだろ。
俺は光る2つの球体に手を伸ばした。
◇
ダルダオ・メナスは星5に設定される危険魔物だ。
その体は獅子のごとく強靭で、人を好んで食べる。
半端な魔法では皮膚を傷つける事もできない。
「いけましたね」
事切れる巨大な獅子の横で、俺は一つ息を吐く。
確かに星5ともなると、単純な魔法では傷一つ付けることができなかった。星5昇格の最低条件である魔装の習得にも納得がいく。
「制御がまだ難しいな、気を抜くと魔力が弾けそうになる」
少し離れたところで別のダルダオを倒したマルコム。額には汗が滲んでいるが、まだ余力がありそうだ。
「アレは試せたか?」
「いえ、たぶん魔力が足りないと思います」
「そうか。俺の方もダメだな」
実戦ならもしかしたら――と思っていたが、ダルダオとの死闘を超えても〝魔紋〟の会得には至らなかった。単純な魔力不足は勿論、まだ俺たちには何かが足りないようだ。
「どうすんだ。やめるんだろ? 色々と」
「……それについて考えたのですが、もうしばらく続けようと思います。腰巾着」
俺の返答に、マルコムは唖然とした表情をみせる。
当たり前だ。少し前まで自立するつもりだったのだから。
「言ってる事変わってないか? というか、これ以上腰巾着を続けて何になるんだよ」
マルコムの意見は最もだ。俺もそう思う。
しかしどうだ、果たしてそれで本当に成り上がったと言えるのだろうか?
クラフトの運命に立ち向かい、乗り換え、頂へと至る――それが一番綺麗な成り上がり方ではなかろうか。何もなし得ないまま全てのしがらみから解き放たれたらモヤモヤが残る。
俺は真っ向からクラフトを認めさせたい。
腰巾着を続け、その中で実力を発揮し、ヨハンと肩を並べる存在になれたらどうだ。きっとグリーン家もクラフトを認めざるを得ないだろう。
ヨハンを超えたらどうだ?
それこそグリーン家は手のひらを返すに違いない。
そこで俺は満を辞して〝家名を捨てる〟
クラフトの望んでいた自由も、
内に秘めていた悔しさや憎しみも全て精算できる。
「今以上に悪くはならないですよ。ここからは思いっきり、挽回していこうと思います」
俺の表情を見て、マルコムは開きかけた口を紡ぐ。
「まぁ俺が口を挟む事じゃあないな。もっとも俺はお前に返しきれそうにない恩を感じてるんだ、何かあったら遠慮なく言ってくれよ」
「その時は必ず」
そのままお互い言葉は交わさず、
俺たちは危険区域を後にしたのだった。
色々人物が出てきましたが、覚えるの大変なのでクラフトとマルコムとヨハンだけざっくり覚えればオッケーだと思います。




