表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

風使い、古の民に会う

 

 和やかな朝の光に包まれる快晴の空に、二つの影。


  北オーヘルハイブ王国から旅立った俺たちは、高度100メートルほどの高さを保ちつつ、目的地であるガナルフェア遺跡を目指す。


 食料と野営セットの入ったリュック。

 ギルドから渡された正方形の石だけが荷物だ。


 眼下にはただただ森がひたすら続いていて、

 建物も山もなにも見えてこない。


 依頼内容はガナルフェア遺跡の調査で、具体的には遺跡内部に設置された〝魔法世界の監視カメラ(正方形の石)〟の取り替えを行うらしい。


 この石、特殊な魔法で遺跡内の生体反応感知から映像までを記録する優れもので、そろそろ取り替え期間がやって来るのだそうだ。


「……」


 出発してから数時間経つが、

 レイレイとは一言も言葉を交わしていない。

 飛ぶ前に一言「私に付いて来て」と言われただけである。


「先輩」


「なに」


「しりとりしませんか」


「黙って飛べないの」


 いつにも増して冷たい。

 かくなる上は……聞いてみるか。


「あの、」


 俺が言いかけた時だった。

 はるか眼下に人の形を見つけた。


 それは明らかに何かから逃げているように見え、その人がたの後ろを、黒い影のようなものが追いかけている。


「ッ! 先輩!」


「わかってる」


 俺が気付くよりも先に行動に移していたレイレイ。一気に急降下すると、黒い影と人がたの間に降り立った。


 ワンテンポ遅れて隣に着地すると、その黒い影が犬の形を模している事に気付き、そして逃げていた人がたの耳が尖っていることにも気付いた。


 これは――エルフ?!


「蹴散らします!」


 風貫き(カゼツラヌキ)を五本発生させ、

 こちらに襲いかかって来るその獣を撃ち抜く。


 獣の身体は貫かれた――が、血飛沫が上がらない。

 見れば獣の身体は黒のモヤになって霧散し、その場に残ったのは風貫きの後の抉れた地面だけ。


 生物じゃなかったのか?

 いや、それよりもまずは――


 振り返ると、そこにはレイレイの胸にすがりついて泣いている少女の姿があった。レイレイはその子を優しく撫で、声をかけている。


「ポーラ。大丈夫よ、私が来たわ」


「レイ姉ちゃぁぁん」


 まさかの知り合い。

 俺はしばらく空気になるか……。


「クラフト君。ちょっと寄りたいところができたんだけど、いい?」


 ポーラと呼ばれた少女を抱きながら、

 レイレイは困ったような表情で俺を見た。





 ポーラを抱いてしばらく飛んだ俺たち。


 ポーラはただただ泣くばかりで、

 獣に追われていた事情を話せそうにない。


「この辺かな」


 そう言ってレイレイは後ろを飛んでいた俺に「降りるよ」の合図を送り、ゆっくりと下降していく。

 周りは変わらず森が続くばかりで、もちろん遺跡もまだ先だ。


「本当は寄るつもり無かったんだけど、この子を置いておくわけにもいかないものね……クラフト君、お願いがあるんだけど」


 真剣な表情で俺を見るレイレイ。

 俺は短く「なんでしょう」と答える。


「これから見るもの、会う人、聞いたことは、どうか内緒にしてほしいの。まぁ、この子を見られてしまったら隠し通せるものじゃないんだけれど」


 と、レイレイは愛おしそうにポーラを撫でる。


「わかりました。乗りかかった船ですし」


 ていうかこれ拒否権とかないよね。


 もしかしたらこの世界でエルフは希少種で、人に見つからないように生活してたりするのかな。


 レイレイは「ありがとう」と頭を下げた後、(くう)をなぞるように手を動かしながら、何かを呟いた。


 その直後、


「ッえ?!」


 霧が晴れたように、という表現が正しいのかは分からないが――目の前にあった森が消え、目の前に村よりも更に栄えた集落が現れた。


 〝里〟と形容しておこうか。


 まず最初に目に飛び込んできたのは、

 山ほどの大きさがある大きな大きな木。


 縄文杉よりはるかに太く、高い。

 木の枝には沢山の鳥が止まっており、

 赤や青や黄色の果物がなっているのも見える。


 その大樹を囲むようにして全て木材で建てられた家があちらこちらに存在し、大樹の上や中腹、大樹の中をくりぬいて階段になっているものもある。そしてそれらは全て吊り橋で繋げられており、かなりの数の人がそこで暮らしているように見えた。


 皆着ているものは麻の服で、電気などは当然無くて自給自足しているようだ。


 地上には何匹もの魚を縄で括っている人や野菜を持った人、ポーラほどの少年少女が走り回っている姿も見える。


 そして全員に共通するのが、その尖った耳。

 まさにエルフの隠れ里といった場所が、広がっていた。


「ここは古の民〝ロイド族〟が住まう場所。人に知られてはならない場所で、私の生まれ故郷よ」


 風に吹かれてふわりと舞った彼女の髪の下に、先が少しだけ尖った耳が覗いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほのぼの系VRMMOがお好きな方へ
Frontier World ―召喚士として活動中―
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ