風使い、北生統に加入する
俺が北生統に入ったのは、
魔戦祭終了後すぐのことだった。
「そっか、マルコムも入ったんだ」
「1日に何回も勧誘に来られたらおちおちトイレにも行けねえからな……」
げんなりした様子で麺をすするマルコム。彼もまた、会長のスパム勧誘に根を上げて渋々北生統に入ったらしい。
それにしても他生徒からの視線が痛い。
マルコムといる時はもちろん、一人でいる時もだ。
唯一救いなのは、それが蔑むようなものではなく、興味や関心の視線であることか……。
魔戦祭後、クラフトの日常に大きな変化が訪れていた。
「クラフト君、マルコム先輩。お食事、ご一緒してもいいですか?」
トレーを持った女子生徒数名がモジモジしながら現れる。
俺とマルコムはお互いに視線を合わせた後、本日何度目かもわからない相席の提案を丁重に断ったのだった。
魔戦祭での活躍はほとんどの生徒が知っているため、こうやって面識のない生徒達に話しかけられることが増えた。
これを毎日のようにされていた英雄候補の気持ちが今なら痛いほど分かる。
「おまたせ二人とも!」
(脳内で)噂をしたヨハンが笑顔で席に着く。
ナナハ達の悪行を知った彼は腰巾着達とつるむのを完全に辞め、昼食から放課後まで、俺たちと一緒にいることが増えた。
腰巾着からヨハンの親しい友人になれた。
これも大きな変化の一つだと思う。
「おつかれ。そういえばさ、北生統って普段なにしてるの? てか、具体的になにすればいいわけ?」
「ええと……知らずに入るの?」
キョトンとした表情のヨハンに、
面白そうだから。と、俺。
しつけーからだ。と、マルコムが答える。
ヨハンは苦笑いを浮かべたのち、
北生統の活動内容について教えてくれた。
「北生統はね、学校の――」
◇
そして放課後。
木製の扉をノックした後、
俺達はその部屋へと入った。
「やあクラフト君、マルコム君。待ってたよ」
ここは北生統専用の部屋。
北生統専用の部屋には、中心にオーヘルハイブ王国を中央に置いた大きな世界地図型の机があり、それを囲む形で名前付きの椅子が九つ置かれている。
机の上にも名前付きのチェスの駒のようなものもあり、これも九つ用意してあった。
在籍生徒は俺たちを入れて八名。
もう一つの席は担当の先生が座るらしい。
「さ、自分の席を探して座って」
机の上で手を組みながら笑顔を向ける会長。
昨日返事をして今日にも名前付きの椅子が用意されてるとは仕事が早い。流石は会長といったところだ。
俺とマルコムは言われるがままに、自分の席を探して座る。他には二つの空席があった。
「ベビ君はいつもの事で、先生は遅れてくるそうだから、早速始めようか」
ニコニコ笑顔の会長が手を叩き、立ち上がる。
「じゃあまずは自己紹介でもしようか。たぶんレジナ君は新入り二人の事分からないだろうし」
そう言った会長が見る先には、
初めて見る女子生徒が座っていた。
おっとりとした印象を受ける三年生。
周りに花が咲いているような、
ほわほわとした感じ。
巨大な二つの山を机に乗せ、
俺たちの顔をまじまじと見つめている。
鮮やかな青髪が揺れる。
「ぜひ! ぜひ! こんな短期間で三人も仲間が増えるなんて嬉しいです〜!」
目を輝かせて立ち上がる女子生徒。
鎧竜と天才は腕を組んで沈黙している。
陰と陽とは正にこの事か。
「それじゃあ僕からだね。僕は北生統の会長をやらせてもらってる三年のバーグ・コルノー。好きなものはチョコレート。よろしくね」
そう言って席に座り、
時計回り的に女子生徒へとバトンが渡る。
「書記のクウェンティン・レジナです! 好きなものはお魚と、お野菜と、音楽と、あ! 甘いもの私も好きです会長!」
その後も彼女があれが好きあれが嫌いを続けていると、横に座るヴィクターが表情を変えずに口を開く。
「ヴィクター・クロード。三年」
クウェンティンとは対照的に全く愛想のない挨拶。
横のクウェンティンが「まだ終わってないのに……」と涙目で呟いた。
「ベルビア先輩が居ないから私ね。二年のレイレイ・カールトン。後は割愛でいいわよね」
よろしく。と、最後に付け加えて座るレイレイ。
その後、マルコム、ヨハン、俺の順で自己紹介が終わり、早くも本題へとシフトする。
「今回は三班に分かれて依頼書を受けてもらうよ。班は決めてあって、僕とヨハン君、レジナ君で一つ。ヴィクター君とマルコム君で一つ。レイレイ君とクラフト君で一つだ」
初の依頼はレイレイとペアか。
彼女と目が合ったので軽く頭を下げておく。
先程ヨハンに教えてもらったのは、
北生統の主たる活動内容は二つあるということ。
一つは武力による校内の治安維持。
武力による治安維持と言われれば聞こえは悪いが、要するに北生統が常に校内をパトロールすることで治安が維持されるというもの。
クラフトは普通にいじめられていたわけだし、ヴィクターに至っては自分がトラブルの元になっていたわけで、正直言って機能してなさそう。
そしてもう一つは、
ギルドで処理できていない依頼の請負。
北生統の存在意義は、治安維持よりもこっち。
ギルドからの直接的な依頼であり、中には〝北生統の中の誰々〟といった指名までされる事もあるそうな。
北生統に所属する生徒は会長が選んだ精鋭達。
ギルドでいえば中堅以上の実力者――らしい。
ギルドの中堅以上の強さがあれば大抵は〝隊〟に所属しているし、指名制の依頼も増えるため多忙だ。その点俺たちは学生だから時間的な余裕がある。
単純に人気がない依頼から、
かなり危険なものまで様々。
その中には依頼期限が切れたものもあるという。
現代でいうなら、時効が成立した事件の調査・解決を警察から依頼され動く組織みたいなものか……治安維持も含め、要するによろず屋だ。
「予定しているのは二週間。僕達とレイレイ君達は別々の遺跡の調査。ヴィクター君達は隣の国へおつかいだね。明日から各自、指定場所まで向かってね」
という事で解散! と、会長は簡単にその場を〆た。
会議といってもやけにあっさりした内容だったな。自己紹介と依頼書の受け渡ししかしてないじゃん。
手渡された資料を見ると、俺とレイレイが行くのはここからかなり離れた場所にある〝ガナルフェア遺跡〟という場所らしい。
俺は飛翔で飛べるしレイレイもきっと飛べるだろう。
視線を再びレイレイへと向けると、資料を手に取った彼女の瞳が一瞬――揺れたように見えた。
この遺跡に何かあるのかな。
まぁ道中に聞いてみればいいか。




