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覚醒した元落ちこぼれ2

 

 魔闘祭――決勝。


 観客の盛り上がりも最高潮に達し、

 フィールドに立つ二人の生徒に視線が集中する。


 バーグ・コルノー vs ヴィクター・クロード


 まさに北の学校最強を決めるに相応しいカード。

 未だ無敗伝説を貫く会長と、他を圧倒し決勝まで進んできたヴィクター。もはやどちらが勝つか、この会場の誰にも分からないだろう。


「俺の見てない間に負けたんだね」


「あはは、手も足も出なかったよ」


「いや、なかなかいい試合だったぞ」


 俺の横にはヨハンとマルコムが居る。

 俺が気絶から回復し父親を罵倒していた頃、

 ヨハンはヴィクターと戦い、敗れていた。


 そうそう、盃を交わした俺たちの間に敬語いらないだろうという謎の話になり、酒場ではっちゃけたのを機にタメ口に昇格している。


 マルコムだけ歳上だが、

 彼は気にする様子もなかった。


 少し前まで俺はヨハンにへりくだってたのに、ヨハンからしたらイキナリ馴れ馴れしくしてきてびっくりしただろうな。


 まぁこれからは腰巾着ではなく、一人の友達として彼に接したいと思っている。その気持ちが伝わればいいけど。


「この試合、どうなるかな」


「負けたからこそ言えることだが、俺もヨハンもこれはヴィクターが勝つと思ってる」


 マルコムの言葉に、ヨハンが頷く。

 トラウマ植え付けられたのかな?


 マルコムに関して言えば、魔紋使う前はほぼ有効打も与えられていなかったし、記憶が曖昧となれば完全敗北と認識しているだろう。


 ヨハンもヨハンで、ヴィクターを追い詰めるまでには至らなかったらしい。


 でも俺は――


「勝つのは会長だと思う」


「根拠はあるのか?」


 根拠はある。


 戦ってみて確信したが、

 会長の魔紋がどんなものかが分かった。


 俺の推測が正しければ、ヴィクターが会長を倒す事は無いと断言できる。もっとも、会長がヴィクターに勝つのも難しいかもしれないが……


 ヴィクターの鎧属性は常軌を逸脱している。


 ドロシーの風魔法にはノーガード勝利。マルコムの魔紋でやっとダメージが通ったが、魔装展開後は一方的に嬲られて終わった。


 ヨハンも普通に負けたとなれば、

 この三人以上の火力は最低条件になる。


 例えばレイレイは大量の魔力に託けて強力魔法を連続発動し、火力で押すタイプの魔法使いなのに対し、会長はスマートに最小限の火力で勝つタイプの魔法使いだと思う。


 それに魔紋を発動しても、

 感知系であるため魔法威力は変わらない。


 さて、この試合どうなる――





 一進一退とはまさにこの事で、

 激しい攻防が繰り広げられている。


 ノーガードで暴れ続けるヴィクターに対し、

 紙一重でそれらを躱す会長。


 そうかと思えば会長が白雷を纏い、超高速攻撃によってヴィクターを翻弄する――が、彼もまた未だに無傷のままそこに立っていた。


 一撃が決まらないヴィクター。

 攻撃が通らない会長。


 試合は平行線――かに思えた。


「もうめんどくせえ」


 溜息を吐きながら、

 ヴィクターは頭を掻いた。

 白雷を纏った会長がピタリと止まる。


「なんだい? 降参かい?」


「してもいいぜ、バーグ」


 からかうように笑う会長。

 ヴィクターも不気味な笑みを浮かべた。


「コレ使うと歯止めが効かなくなるんだよ。でもまあ、攻撃が当たらねぇんじゃ意味がねえ」


 ヴィクターが一瞬――観客席のどこかに目配せしたのを、俺は見逃さなかった。


 しかしそれが誰に向けたものなのか。

 なんの意図だったのかはわからなかった。


 ヴィクターの魔力が燃えるように激しく揺れる。

 彼の鎧の後ろには薄っすらと模様が現れていた。


 くるか、魔紋。


 メキメキと音を立てながらヴィクターの体が徐々に変化・肥大し、銀色とも灰色とも見えるドラゴンが、鎧を着たドラゴンがそこに現れた。


 霊獣系魔紋――それもドラゴンか。


 その体躯は王様くらい大きく、そしてマルコムのソレよりももっと禍々しいものに見えた。


 鎧竜 ヴィクター・クロード。


 名前の所以がこれか……


「おいおい、対抗戦まで使わないって約束したのに」


 会長はそれでも落ち着いており、

 あちゃーと言いたげな顔でドラゴンを見上げている。


 ヒュン!


 風切り音がした直後、


 バガァァン!!


 と、フィールドが煙を立てて粉々に砕け散る。


 ドラゴンがただ前足を下ろしただけ。

 威力はそれだけで五階級程度の魔法を遥かに凌いでいる。


「攻撃力がすでに並の魔法を超えてる……」


「あれが学校最強クラスの魔紋か」


 眼下ではドラゴン vs 会長の試合が繰り広げられており、すでにフィールドの原型を留めていない。


 マルコムの時とは違う、明らかに意思のある動き。

 完全制御した霊獣系魔紋がそこにある。

 この試合がマルコムの成長に繋がるといいけど……


 ヴィクターの口から青色の光線が射出され、

 会長が紙一重で避け、魔法結界にぶち当たる。


 当たった所の魔法結界が徐々に歪み、

 果てには貫通し、観客席に飛んでゆく。


 威力デタラメすぎぃ!

 やべえ、ここからじゃ風の展開が……


 その光線は、突如開いた割れ目に吸い込まれた。

 VIP席の方に座っていた人物が立ち上がっている。


 黒い髪の青年?


 しかしその身なりは非常に豪奢で、

 その隣には担任のコウ先生の姿もある。


 先生が護衛していて、

 あの魔法は噂に聞く次元魔法であるなら、

 恐らくあの人が北の学校長先生か……?


「ん? なんだあれは、いきなりどうしたんだ?」


 この騒ぎの中、試合から全く視線を離さなかったマルコムが眉間に皺を寄せていた。


 見ればヴィクターがやけに苦しそうに動きを止め、

 正面にいる会長は、手をかざした状態で立っていた。


 見逃した――けれどあれは、ダメージが通ったのだと想像するに難くない状況に見える。


 魔装の時点で最強の防御力を誇っていたヴィクター。そんな男の本気の魔紋状態にもかかわらず、ダメージを通してきた会長……まさに頂上決戦か。


「あっ!」


 ヨハンが何かを見つける。

 俺も今度は見えた。


 会長が再び手をかざすと、

 先程校長が使ったような割れ目が出現したのだ。


 ヴィクターの腹部にそれが現れたと思えば、次の瞬間――ヴィクターは腹部を押さえて倒れ込んだ。


 次元魔法?

 なんで会長が校長先生の魔法を?


 次元魔法はどの属性にも無いいわゆる特質属性の一つであり、それは校長のみが扱える唯一無二の魔法だと聞く。


 会長、あなたはいったい……





 結局、会長の次元魔法が決定打となり決勝は最後一方的な試合展開で会長が勝利を収め、彼は三年連続優勝という前例のない快挙を打ち立てた。


 そして最終順位はこちら、


一位 バーグ・コルノー

二位 ヴィクター・クロード

三位 クラフト・グリーン

四位 ヨハン・サンダース

五位 レイレイ・カールトン


 上位五名……といっても三位から五位までだが、これはVIP達が独断と偏見で順位付けしたようだ。


 なんとなく、ヴィクターと熱い試合を繰り広げたマルコムが五位入賞するかと期待していたが、同程度の印象を残したレイレイに決まったらしい。


 個人的には将来を見据えて一年のウェインを五位にしても良いと思うんだけど――あれ、そういえばウェインがいないぞ。


 表彰台の上から俺は辺りを見渡す。

 ウェインはヨハンとの試合後から見てない……


 しかもお決まりイベントが一つ起こってない。


 都合よすぎる強化イベントは俺とマルコムの間で発生したが、決勝付近で乱入する魔族or魔物のイベントが起こらなかったのだ。


 たいがいの小説であれ起こるのになぁ。

 あれで結局大会がうやむやになるんだよね。


 などと考えているうちに俺の番。

 目の前にいるのはあの青年だった。


「おめでとう」


 確か校長は御歳70歳。

 歳をとらない校長もお決まりイベントの一つだな。


 そんなことを考えながら時は流れ、

 俺たちの魔闘祭は無事に閉幕したのだった。

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