覚醒した元落ちこぼれ1
気付くと俺は試合会場に突っ立っていた。
これはあれだ、時間経ってないやつだ。
確信めいた何かを秘め、
俺は会長に質問する。
「会長、何が起こったんです?」
「まさか一瞬で解かれるとはね……」
俺の問いに会長は少し驚いたように呟く。
このリアクション、絶対そうだ。
そんで胸の奥にある熱い何か、
これが絶対強くなる鍵的なやつだ。
王様からもらったあの光。
胸の奥にある何かを扱う力のようだ。
「どうだい? 何か掴んで帰ってきたかな?」
「……」
全てを見透かすような会長の言葉は相変わらず不気味だが、どういうわけか俺のパワーアップを後押ししてくれた。敵に塩を送るとはまさにこの事か。
いや、会長はこの試合――というか魔闘祭の勝ち負けで物事を考えていないんだ。この後俺を北生統に勧誘するための布石だ、これは。
まあ、断る理由はないわけだけど。
俺は胸の奥に鼓動する何かを掴み、
引き抜くようにしてそれを取り出していく。
魔装から緑の靄が立ち込める。
何故か形が変わったようで、首回りの部分にはあの王様の着ていたような白のモコモコが追加された。
そして、
「それが君の魔紋かい? それに、その髪の色は……?」
会長が目を見開いて驚く。
俺の手に握られていたのは、一振りの剣。
それは王様が持っていたのと同じものだった。
肉厚の剣身は150センチほどあり、
柄頭、鍔、握り全てに細かな装飾が施されている。
盾に使えそうなほどの分厚い剣だ。
柄の部分が金、剣身は白に近い銀。
めっちゃカッコいい。主人公っぽいこれ。
お祭りのくじ引きで外れた時に貰える剣がこんな感じだったなぁ。
そして俺の髪色までもが変化しているようだ。
自分じゃ見えないけどもだ。
魔紋発現の副産物かなぁ?
「魔法武器、だね」
「そうですね。名前は――」
武器から教えてくれるわけではなさそうだ。
ここはカッコいい名前付けなきゃだな。
「〝エクスカリバー〟」
もうこれっきゃない。
剣におけるかっこいい名前の頂点だ。
俺の今の格好は、肩の辺に白のモコモコが付いた長い緑のマントを羽織り、地面に刺す形でエクスカリバーの柄頭に手を置いている。
王様リスペクトだが、キマッてるな。
それに体の調子がすこぶる良いぞ。
魔法武器系での恩恵は、
霊獣系のような身体能力強化。
それと武器特有の能力が得られる。
待ってみた感じ、
武器の重さはビニール傘くらい。
ぶん回すのには丁度いい重さだ。
「ていッ!」
「?!」
え、当たったぞ。
魔紋による身体能力強化+辻風。
移動速度が恐ろしく上がってる。
単純に真正面に突撃しただけだが、
不意をつけたのか初めて会長に攻撃が当たった。
流石は勝利の剣、補正かかってる。
「……その剣はかなり厄介だね」
「会長が目覚めさせてくれた力ですよ」
エクスカリバーを正眼で構える。
恐ろしくデカイ剣だが、その分リーチは長い。
肝心な能力がよく分かっていないのが難点だな。
ギギッ!!
会長が造った光の剣とエクスカリバーが交わる。
会長の白い雷のような魔法と、今の状態の俺の辻風はほぼ同程度の速度だ。更には思考能力も身体能力の一つのようで、速度に置いていかれることもなかった。
これはいけ――る?
俺は自分の胸に剣が刺さっていることに気付く。
いつの間に?
それより死ぬほど痛い。
考えられるのは、剣が交差したあの時か。
どこからどう攻撃されたかすら分からない。
視界がぼやけていく。
今度はメナス・ナイトメアではなさそうだ。
徹夜明けのようなす、い、ま、が……?
◇
誰の手だ? あったかいな。
まさか俺の事が好きな女子か?
ガバッと起き上がり右向け右をすると、
そこにはおっさんがいた。
……誰ですかあなた。俺のドキドキ返して。
場所は治療室。
恐らく俺はあのまま負けたのだろう。
そのおっさんは緑髪の年配男性。
品のある服と、茶のマントを羽織っている。
「クラフト、起きたか」
「……お父様?」
なんとなくそう思った。
なんだかクラフトに似た匂いがしたから。
クラフトの記憶に父の姿はない。
産まれたときからずっと、家族は彼らだけ。
仕事で多忙と聞いていたが、この人がそうか?
「わ、わかるのか? クラフト」
「なんとなく、そんな気がしました」
俺の言葉に、男性は弱った顔で頷く。
この人がクラフトの親父か。似てはいないかな。
クラフトはどちらかといえば母親似の顔つきで、ニーナと同じ髪型をすれば、女子でも通りそうな感じだ。一方父親は渋い男前といった印象を受ける。
魔闘祭を観に来るとは聞いてたな、
まさか接触してくるとは思わなかったけど。
「体の調子はどうだ? 痛むところはないか?」
「いえ、特には……」
グリーン家の人間はやばい奴しかいないためか、
この父親も同じではないかと疑ってしまう。
「魔闘祭、見ていたぞ。ここまで成長していたとは思わなかったぞクラフト。私も鼻が高い」
「たまたまです」
「たまたまなものか! 一年生で魔紋を発現させたなど、それこそバーグ君以来だ。帰ったら皆で食事をしよう。学校の話しも色々聞かせてくれ」
無邪気に笑う父親。
なんだ、この人何も知らないのか。
仕事漬けとは聞いていたけど、
ニーナ達にしてこの親ありって感じじゃねーか。
クラフトが家族から受けてきた屈辱。
知らぬ存ぜぬは通らないからな。
「いえ、食事はしません。すみません」
「な、どうしてだ? 寂しいことをいうな」
「僕、魔闘祭が終わったらグリーン家から出ますから」
俺の言葉に絶句する父親。クラフトが家を捨てた事によって彼等の面子は潰れるだろうが、もはや知ったことではない。
俺は畳み掛けるように、クラフトが受けてきた様々な仕打ちを父親にぶちまけた。
彼の悩みを一緒に解決する事もせず、彼が人一倍優しい性格なのをいいことに、家族ぐるみで蔑んでいたのだから。
あれ、なんだ。
泣くなよクラフト。
積もり積もったその感情、
一人で抱えていたクラフトから涙が流れる。
「……」
父親はそれを黙って聞いていた。
仕事が忙しいのは仕方がない。でも、家庭の事に全く関与しなかったのは彼にも大きな責任があると思う。
「そうか。今まですまなかったな、クラフト」
父親はとても悲しそうな顔をしながらも、母や兄姉達とは違い、反論もせずに治療室から出ていった。
家を出るのを認めてくれたのかは分からんけど、
言いたい事が言えて少し気が楽になった気がした。




