表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

本気を出してきた元落ちこぼれ8

 

 side――クラフト



 マルコムの体が黒の靄に包まれていく。

 それは魔装の時の比にならない規模だ。


 魔力はもう尽きていたはず。


 全力を賭しても届かない距離。

 それが俺たちと北生統(かれら)との距離。


 ビリビリと空気が張り詰める感覚。

 黒の靄に大気中の魔力が集まり、それ(・・)を形作る。


「黒の、狼?」


 観客の一人が呟いた。

 フィールドにいたのはマルコムではなかった。


 針のような黒の毛が靡く。

 大地を踏みしめる四肢からは鋭い爪が伸びる。

 牙も尾も瞳も、全てが真夜中のように黒い狼が、そこにいた。


 ウォオオーーーン!!!


 その雄叫びはフィールドを抉り、

 抉れたフィールドから黒の棘が無数に生える。


 吸い込まれるような黒色の狼がヴィクターに飛びかかると、ヴィクターの表情が初めて歪んだのが見えた。


「ぐッ……コイツ、」


 ピシリと音を立てる。

 ヴィクターが纏っていた魔力が割れる。


 両腕を前足に押さえつけられ、その巨大なアギトで噛み付かれるヴィクター。完全に形勢が逆転しているように見える。


 まさかアレは――


「驚いた。魔紋(まもん)を発現させるなんて」


 俺の横にはいつの間にか会長がいた。


「あれが魔紋ですか?」


「間違いなく〝霊獣系〟の魔紋だね。まぁ暴走状態だけど」


 会長は物珍しそうに試合を見つめていた。



 〝魔紋〟



 魔装を極めた者だけが辿り着ける境地。

 魔紋が浮かび上がるとオーソドックスな魔法とは別の特殊な能力が備わるといわれている。


 大まかな能力はその形から判別することができ、例えば相手の何手先までを見通す力だったり、強力な効果の付いた武器を取り出せたりと――要するに超能力めいたものが目覚める。


 魔装発現時に魔紋が発現すると、背中には大きな紋様が描かれたデザインになり、紋様の周りを魔法陣がゆっくり回転するような状態となる。



 そして魔紋の種類と形は、


 ※【】内は種類。《》内は魔紋の形。


【回復系】《例外なく何かが十字になっている》


体力の回復・魔力の回復・欠損部分の回復、また回復系魔法や結界魔法が大幅に強化される。



【霊獣系】《獣のような形》


 体がその霊獣に置き換わる。ある程度の魔法を弾くことができ、身体能力が格段に上がる。



【魔法武器系】《その武器の形に依存》


 霊獣系ほどではないが身体能力が上がり、例外なく特殊な攻撃が使えたりする。破壊されない限り魔力は体に戻るため非常にコストパフォーマンスに優れる。



【封印系】《卍》


 魔力の封印、魔法の封印、魔装の封印、魔紋の封印、身体機能の封印など。



【感知系】《丸に囲まれている》


 洞察力の強化、敵の動きを何手先まで読んだり、誰がどこに何人いるのかなども知ることができる。



【魔法強化系】《逆三角形に囲まれている》


 魔装で得られる魔力量を底上げし、発動される魔法も大幅に強化される。



【希少系】《それらに当てはまらない形》





 クラフトの知識としてだけ知っている魔紋。


 まさかここで発現するなんて……マルコムってば主人公すぎないか?


 暴走状態はまだ操りきれていない状態といえる。

 恐らく彼は本能のままにヴィクターを襲っているだけ。


 そこに戦術や戦略性はないものの、あの鉄壁のヴィクターに傷を負わせたのを見るに、攻撃能力が飛躍的に上昇しているのが見て取れる。


「これは面白いことになったね」


「これ、もしかしてヴィクターさんに勝てますか?」


「どうだろうね。暴走状態だと魔紋もなかなか長くは維持できないだろうし、それに――」


 そう言ったところで、会長は口をつぐむ。

 目を輝かせて試合に夢中になっているようだ。


 黒の大狼が走る度、攻撃する度、

 その地面から大量の黒の棘が生えてくる。


 それらはヴィクターの鎧を貫き、

 確実にダメージを与えているように見えた。


「お。ヴィクターの奴……」


 会長がさも驚いたように呟く。

 ヴィクターの体の周りに魔力が集まっていく。


 魔装か――


 ヴィクターの魔装は視覚化できる鎧だった。


 先ほどまでの彼は体そのものが硬化しているような見た目・印象だったが、魔装によって、ビジュアル的にも鎧を纏ったようだ。


 黒の大狼はお構い無しに飛びかかる。


 ヴィクターはその巨大な狼を片手一本で止め、グシャリと手に力を込めると、狼は悲痛な叫びをあげながら地面に倒れこんだ。


 魔装一つでこれだけの戦闘力上昇か……


 もはや形成は逆転していた。

 続くヴィクターの拳を、大狼は避けられない。


 ズドンッッ! という、物凄い音と地鳴り。


 フィールドは大きくひび割れていた。

 ヴィクターの拳の下に、大狼が力なく倒れている。


 そしておびただしい量の黒い靄が大狼から抜けていき、そこには気絶したマルコムの姿があった。


 観客席からはワッと大歓声があがる。


 今回の試合は、先ほどの会長vsレイレイに勝るとも劣らない内容だったからな。見た感じのインパクトはこっちの方が遥かにでかかった。


 自分の立ち位置を掴めただろうか。

 成長できる良いキッカケになればいいんだけど。


「お疲れ様、マルコムさん」


 俺のつぶやきは、歓声の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほのぼの系VRMMOがお好きな方へ
Frontier World ―召喚士として活動中―
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ