表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/38

本気を出してきた元落ちこぼれ7

 

 その試合が始まってからすでに40分。

 観客達はその別次元の戦いに、ただひたすら目を奪われていた。


 天才 レイレイ・カールトン


 全知 バーグ・コルノー


 学校の頂点に君臨する北生統。

 そこの会長と補佐の試合。


 剣帝(ベルビア)が棄権した今、対戦表に残る北生統の生徒は4人。その中でも純粋な〝魔法技能〟のトップを争う2人の対決である。


 どれほどの魔力があるんだよ……


 誰かが言った。


 試合開始直後から全力を出しているであろう2人の魔力総量は学生のそれをはるかに超えており、息ひとつ切らさぬ2人に、観戦中の生徒達は絶句する。


「魔装にどのくらいの魔力込めていたか見たか?」


「会長のは恐らく10万ほどですかね。レイレイさんのはちょっと……」


 観客席で眺めながら、

 俺たちは試合分析をしていた。


 お互い全く無駄のない魔力操作能力があり、

 レイレイはそれに加えて無尽蔵の魔力がある。


 魔装は確実にレイレイのほうが強力だというのは火を見るより明らかだが、対等に渡り合っているのは会長の場数の差だろうか?


 片方が七階級魔法を使うと、

 もう片方は六階級魔法を連続で放つ。


 勉強になるようで全く参考にならない試合。

 はるか先にいる人たちの本気の試合。


 魔装発現程度で満足していられない……この人達と肩を並べるくらい、クラフトを強くしたい。


「ん? 仕掛けるか?」


 やや前かがみになりながら呟くマルコム。

 レイレイがひときわ大きな魔法陣を描く。


 なんだこの魔力――世界を滅ぼすつもりか?


 推定20万近くの莫大な魔力が、フィールドに銀河の如く広がった後、ギュッと圧縮され魔装に取り込まれてゆく。


 魔装以上の何かが来る。

 直感でそう確信する。


「あ!」


 レイレイの後ろに会長が現れた。

 白の電撃を纏ったような見たこともない魔法。

 

 そして、


「君のソレ(・・)は強すぎる」


 と、会長が苦笑したと同時に、

 レイレイの体が前のめりに倒れていく。


 優しく抱きとめる会長。

 役得じゃねえか。


「結局、2人とも奥の手は見せてくれなかったな」


 つまらなそうに席を立つマルコム。

 頂上決戦にも近いこのカード、期待していた分、最後は呆気なかったのは少し残念だ。


 これで俺の次の対戦相手が会長に決まった。


 あのレイレイを倒した会長を倒せるのか?

 いや、多分まだ俺には早い相手だ。


 明らかな実力差に負けを確信した俺は、お姫様抱っこで治療室へと連れて行く会長の後ろ姿を見送った。



◇◆◇◆



 side――マルコム



 対峙すると分かる、この圧倒的な威圧感(プレッシャー)

 先ほどの2人と同類の匂い。強者の貫禄。


「決勝はバーグとだな。レイレイとの試合で消耗してくれていれば勝機はあるか……?」


「無視か、先輩」


 灰色髪の大男、ヴィクター・クロードに問う。

 ヴィクターは俺を一瞥し、欠伸をかみ殺す。


「悪いが俺は格下に時間をかけない。意気込むのは勝手だが、恥をかく前にやめておけ」


 ことこの男に関しては自信過剰でもなんでもない。

 圧倒的な破壊力。防御力。センスを兼ね備える。

 会長やレイレイ、ベルビアともまた違ったベクトルの怪物。この男の本気を見た生徒は会長のみと聞く。


 クラフトは会長を目標にしているようだ。

 自分の今の立ち位置を会長で測るつもりらしい。


 ならば俺はこの男で自分の力を測るとしよう。

 たとえ攻撃が通らずとも。


 試合開始の合図が鳴る。

 例の如く、ヴィクターは動かない。


 まずは――


「を? なんだ、イキナリだな」


 耳をつんざく金属音。

 粉々に砕けた二本の剣が、俺の手から滑り落ちる。


 自身の体に強化を施し、開始と同時に鋼の剣で首の裏を切る……そんな程度では傷一つ付かないのか。


「面白い属性じゃねえか」


 拳を握るヴィクター。

 裏拳の要領でそれを繰り出す。


 とっさに黒盾を四枚重ね、

 遮るように防御態勢をとる。


「ぐッ――!」


 粉々? 素手で黒盾四枚をか?


 魔力こそ纏っているとはいえ、

 なんとデタラメな力だろう。


 結界が無ければ防御の上からにもかかわらず、

 腹部の骨が何本か折れていたはず。


 とんでもないな……。


「同じ特質属性としてある意味尊敬するよ、お前」


 ヴィクターは〝鎧属性〟の魔法使いということは校内でも有名な事実。実際、彼に傷を付けた生徒は、会長含め一人も存在しない。


 黒剣で切っても同じだろうな。

 やはりここは魔装を使う以外ないか。


 魔力を放出し、凝縮させる。

 今は難なく使えるようになった。


 俺の体を黒のマントが包む。

 黒の靄がかかり、淡い光を放つ。


「魔装も会得しているのかよ」


「黒騎士《撃》」


 黒のマントが俺の全身を包み込み、

 黒の全身鎧となって体に密着する。


 黒騎士はタンソを極限まで防御力に突出させた状態。身の丈ほどある分厚い盾と、腕と一体化したナイトランス。


 これが俺のもてる最大の攻撃魔法。

 通らなければどの道勝ちはない。


「ゆくぞ」





 甲冑部分が大破したか。まぁいい、また作れば――いや、もう魔力はほぼ無いんだったな。


 欠けた甲冑からヴィクターが見える。

 俺から奪った大盾を折り曲げながら、次の手を待っているように見えた。


 余力もない。戦う術も失った。


 魔法結界内で直接的な傷は負わないが、

 ダメージはそのまま体に蓄積される。


 魔装を再び発現させる余裕は勿論ない。

 あるのはこの欠けたナイトランスくらいか。


「こんなもんか。思ってたより耐えるじゃねえか」


 対するヴィクターは未だ無傷。

 会長でも傷を付けられなかった男だ、無理もない。


「終わりにしていいか? そろそろ退屈だ」


 俺は全力を出せたのだろうか。


 そうだ、やれることは全てやった。


「……いや、まだだ」


 胸の奥にある微かな魔力の鼓動を感じる。


 以前クラフトと掴んだ力の源。


 確かこれは、


 俺の魔装は最初の状態に戻り、

 ボロのマントがはためいた。


「そうか。発現条件は魔力不足ではなかったか」


「あ? 何言ってんだ」


 力の源に手を伸ばす感覚。


 掴むとそれはジワリと広がり、体の奥底から何かが湧き上がってくる感覚に襲われる。


 なん、だ、


 無性に、腹が、空く、


 意、識が……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほのぼの系VRMMOがお好きな方へ
Frontier World ―召喚士として活動中―
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ