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本気を出してきた元落ちこぼれ6

 

 まるで俺と対峙するのが恥ずかしいかのように、ニーナは不機嫌そうに腕を組み、眉間に皺を寄せる。


「カイエンが勝つと思ってたわ。攻撃魔法が使えるようになったのは、どうやら本当みたいね」


 ギリギリまで信用してなかったのか。

 ニーナらしいといえばニーナらしい。


「ドロシー姉様もナイル兄様も負けちゃいましたね」


「……何が言いたいのよ」


「ここでニーナ姉様まで負けたら、お母様悲しみますね」


「はぁ? 誰が誰に負けるっていうのよ」


 ニーナの魔力が燃えるように吹き出していく。

 20歳が未成年の少女をからかうなんてあまりにも大人げないが、クラフトへの仕打ちを考えると黙っていられなかった。


 特にニーナの当たりは家族で最も強い。

 クラフトと双子なのが汚点だとも語っていた。


 高プライド高飛車女め、

 今日でそれも終わりだ。


「そういえばお父様とお兄様達、来てますか?」


「……来てるわよ。さっき一緒に食事してきたわ」


 意地悪そうにそう付け足すニーナ。

 別に羨ましくないが――そうか、家族全員がそうなのか。


「除け者にするなんて冷たいですね」


「ふん。お父様はあんたを探してたようだったけど、私は一緒に食事なんて嫌だったから適当な理由を言っておいたわ。家族団欒を邪魔されたくないもの」


 四男不在の家族団欒ってなんなんですかねぇ。


 父親だけはマトモなパターンか?

 そういうタイプのクズ家族か?


 よくありがちな設定だな。

 つくづく思うけど、なんでそんなマトモな人がやべえ奴と結婚してしまったのか全く理解できん。


 政略結婚とかならまだ分かるけど、

 男側がマトモなら良い人選べるだろ……


「速攻で終わらせるわ」


 試合開始の合図と共に、

 ニーナは魔法詠唱を開始する。


 魔力も相当量込めているのが分かる。

 本当に速攻で終わらせるつもりか。


 なら――


「『我、風を司りしクモスの子……』」


「『我、風を司りしクモスの子……』」


 ニーナの詠唱に合わせ、

 俺も魔法詠唱をはじめる。


 魔法が使えないわけじゃない。


 普段使う必要がないだけで、

 クラフトの知識として魔法は大量に覚えている。


「『破壊の風来たれ』」


「『破壊の風来たれ』」


 ニーナの瞳が揺れる。

 同じ魔法だと気付いたか。


「『カティス・トルネード!』」


「『カティス・トルネード』」


 突如、フィールドが二つの暴風に包まれる。


 濃い緑に包まれた暴力的な風は、互いが互いにぶつかり合い、反発し、またぶつかり合う。


 そして、


「な、なんなのよ……」


 ほどなくして二つは混ざり合って消えた。

 呆然と立ち尽くすニーナ。


「ッ!」


 俺を恨めしそうにキッ! と睨むと、

 再び詠唱を始めた。魔力が渦巻く。


「『我、風を司りしクモスの子。風の鳥よ、かの者を喰らい、切り裂け――』」


「『我、風を司りしクモスの子。風の鳥よ。かの者を喰らい、切り裂き――』」


 これも四階級魔法か。

 確かに彼女はエリートだ。


「『グルス・エヴォリオーナ』!」


「『竜となりて、雷轟宿せ――イヴァルガン・エヴォリオーナ』」


 ニーナの四階級魔法に、

 五階級魔法を合わせて放つ。


 生み出された風の鳥と竜は互いに食らいつき、竜はものの数秒で鳥を喰い、天へと登る――そしてなぜか真上に発生した積乱雲へと入り、雷を体に纏って急降下する。


「あ、あああ……」


 一歩、二歩。

 恐ろしさのあまり後退りするニーナ。


 これで落としたら100%俺の勝ちだが、

 まだやりたい事があるんだよな。


 竜がニーナを喰らうその瞬間、俺は魔法を解く。

 形を失った竜から突風が発生し飛ばされるニーナ。

 可愛く尻餅をつき、涙目で俺を睨んだ。


「う、嘘よ! なんで、なんであんたがそんな魔法……」


「特訓の成果ですよ」


 実際半分はクラフトの知識のおかげだがな。


 四階級魔法で約7000。

 五階級魔法で約12000の魔力消費。


 だいぶ食うなぁ。

 魔法詠唱は魔力を無駄消費するだけだとつくづく思う。


 ただ、こっちの方がもっと食うけど――


「えっ……」


 ニーナの顔が驚愕の色に染まる。

 会場の観客達がどよめく。


 俺の体を、緑のマントが包み込む。

 瞳が緑に光るのが分かる。


「魔装」


 ニーナがポツリと呟く。


 三年生含め一握りの生徒しかまだ習得できない魔法使いの奥義――それを家族で〝できそこない〟として扱ってきた四男、自分の双子の弟が、今目の前でソレを使っている。


 相当な絶望感じゃあなかろうか。


 自分の自慢の魔法と同じものを使われ、

 その上更に強力な魔法で寸止め攻撃され、

 挙げ句の果てに魔装を見せつけられる。


 自信家ニーナには効きすぎるほどだろう。

 寸止めドラゴンでビビるニーナを見て俺もにっこり。


 俺は極力派手に見せるため、

 風貫きを周りに20個作りだす。

 その先端全てをニーナに向けた。


「あ、あんた……」


「礼を言おう。家族(お前ら)が俺を強くした」


 考えうる限り一番カッコいいセリフを言い、絶望したような表情のニーナに、俺は容赦なく風貫きを突き刺すのだった。



◇◆◇◆



 side――風帝


 クラフトが魔装を発現した。


 まだ一年生のクラフトが、

 五階級魔法の魔装を発現したのだ。


「おい、お前たち見たか? クラフトが魔装を使ったぞ! あの子、少し見ない間にあんな成長したんだなぁ……一緒に食事できるかと期待していたんだが――」


 両隣に座るケイトとシェラの表情が暗い。

 弟の成長をなぜ喜ばないんだ。

 そうか、負けたニーナの事を考えているのか。


 確かに双子で試合になるなんて、

 運命はあまりにも残酷だ。


 幼少期のニーナは、物静かなクラフトに比べ活発で元気だった。ひさびさに会ってみたが、無邪気な笑顔は昔と何一つ変わってなかった。


 ナイルとドロシーもそうだ。


 あの子達は一回戦で惜しくも負けてしまったが、それでもよくぞここまで優秀に育ってくれたと褒めてやりたい。兄弟全員が魔闘祭の選抜本戦に出場できたことは大変誇らしい。


 それにしてもあのクラフトがあそこまで成長していたなんてなぁ……母親一人に任せるのは一抹の不安があったが、結果としてみたらどうだ、素晴らしい子供達に育ったではないか。


「クラフトがどこまで勝ち進めるのか楽しみだな! お前達も張り切って応援するんだぞ!」


 兄達はまだニーナの事を引きずっているらしいが、勝ち進んだクラフトを家族一丸となって応援してやるのが、今一番重要な事じゃないか。


 がんばれ、クラフト。

 今日は一日、お前の勇姿を見ているからな。

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