本気を出してきた元落ちこぼれ2
また夢だ。今度はなんかグロかった。
建てていた城は覚えている限り、外観からして王国の城とは異なっていたが――この夢を見てるのは俺なのかクラフトなのかも分からん。
ファンタジーの世界にいると、
夢の内容もファンタジーになるんだなぁ。
「あぁー……体痛い」
昨日はあの後、会長とレイレイによる魔装特訓が行われ、俺もヨハンもクタクタになって帰宅したのを覚えている。全力で戦った後だ、無理もない。
◇
昨日配られたトーナメント表に目を通しながら、母は野菜を口に運んでゆく。同じく俺も、畳んでおいたその紙を開き目を落とした。
俺の対戦相手は、
一回戦目が性悪男、
二回戦目がもしかしたら双子の姉。
そして三回戦目には恐らく会長が上がってくるだろう。分かってはいたが、優勝は絶望的といえる。
「いい所に名前があるな、ニーナは。ホソネも大した魔法使いじゃないし、二回戦目は筋肉バカとだろ? もしかしたら代表選抜残れるかもな」
「もちろん私は会長にも勝つつもりよ」
と、ナイルとニーナは俺など眼中にないと言わんばかりの会話で盛り上がっていた。対する姉は浮かない顔でパンをもぐもぐしている。
「私なんて一戦目はあの鎧竜よ? アイツと当たるくらいならまだ会長や剣帝の方がましよ」
「姉様はご愁傷様ってことだな。俺はうまくいけばニーナと同じく選抜に残れる可能性がある」
「兄様がヨハン様を倒せるとは到底思えません」
「あんだとッ?」
実は昨日ヨハンにうっかり勝ってしまったなんて言えない。ナイルがヨハンに負ければ、間接的に俺にも負けたようなものだから。そもそも信用してもらうほうが無理な話だし。
ナイルがトーナメント表をトントンと指差す。
「ニーナよぉ、ヨハンは分かるがこの〝ウェイン・ボレノス〟って誰だ? 強いのか?」
「知らないわ。一学年にいったい何人いると思ってるの」
ニーナの素っ気ない返答に「まあいいか」と、興味を失った様子のナイル。因みに俺も知らんので、きっとモブキャラだろう。
無言を貫く俺を、ニーナがキッ! と睨んだ。
「あんた。万が一、あの呪いでカイエンに勝ったとしても、二回戦は辞退しなさいよ」
「え? なんでです?」
俺の返答に、ニーナだけでなく、食卓の皆が固まる。
ぶっちゃけ今日で落ちこぼれのレッテルは返上させていただくつもりだし、へこへこする必要もないだろう。
「な、なんでってあんた、勝負が目に見えてるからに決まってるでしょうがッ! なに? まさか私と本気で戦おうとか思ってるワケ?!」
「試合ですよ? 当たり前じゃないですか」
いつもと違う俺の反応に、ニーナはいちいち戸惑っているのがよく分かる。今までクラフトは彼女の言いなりで、一度も反論などしたことが無かったためだ。
頭の後ろに手をまわしていたナイルが、愉快そうに口を開く。
「なぁクラフト。選抜予選を通過できたからって、何か勘違いしちゃったんじゃねえか? 確かに一学年の予選なんてもんは二階級の魔法しか飛び交わない低ランクの試合だけどよ、本戦は桁違いなんだぜ?」
それは昨日で良く身に染みてるぜ兄さん。
ただ少なくともヨハンよりニーナが強いとは思えない。
「分かっています。ただ俺はつい先日、攻撃恐怖症を克服したので、自分がどの程度戦えるのかを知りたいだけですよ」
「へ?」
「本当?」
俺の返答に、ナイルとドロシーが驚いた。
母は無言で俺を見つめていた。
攻撃できないが故に除け者にされ、腫れ物に触るような扱いを受けてきた俺が、それを克服したとなれば邪険にする必要も無くなる。
とはいえ、ここで謝られたところで許せる仕打ちでは無い。クラフトはともかく、俺がそれを望んではいない。
選抜戦で結果を残し、世間にも家族にも認められた上で家名を捨てる。それが俺の最初の復讐&成り上がりプランだからである。
それでもニーナは信じる様子もなく、
「つまらない嘘付くんじゃないわよ」
と、吐き捨てるように言い放った。
仕方ない。彼女には試合で分からせるしかないな。
◇
魔闘祭開催。
よく小説で読んだ風景が広がっている。
屋台が立ち並び、人で賑わう王国。
北と南の学校で同時開催されるわけだから、祭りの規模は国全体にも及ぶ。今日、二つの学校の選抜メンバーが選出され、後日、選抜メンバー同士で学生頂上決戦を行う。つまりもう一度王国が活気付く事になる。
活躍した生徒はギルドの精鋭部隊からスカウトされたり、王国魔法使いにスカウトされたりと、エリートオーディションみたいな場でもあるという(マルコム曰く)。
「ヨハンに勝ったんだってな」
「誰から聞きました?」
「会長」
口が軽すぎるよ会長。
俺とマルコムはベンチに座りながら、行き交う人々を眺めつつ、試合までの時間を潰していた。
「まぁあの人はああ見えて言いふらすような事はしないから、知ってるのは恐らく俺だけだろうな」
「だと良いのですが」
クラフト=落ちこぼれ
という先入観がある相手がその情報を聞きでもしたら――まあ九割九分がガセネタだと流されるだろうけど、知られている情報は少ないほど良い。
グリーン家の兄姉達に攻撃魔法が使えることをバラしたのは、単に舐めてかかられてほしくなかったから。
油断したからだ! とか、私が本気を出せば! みたいないちゃもんを試合後につけられても面白くない。そんな逃げは許さない。
「選抜戦。マルコムさんのブロックもなかなか激戦区ですね」
「ああ。一試合目は天敵属性のジェーン、二試合目は恐らくヴィクターだろうなぁ」
俺も訓練所の時に見たあの風景を思い出し、到底ドロシーの手に負える相手ではなさそうだなと考えていた。もちろん、ドロシーの実力がどの程度なのかまでは知らないのだが。
マルコムの実力は俺と五分くらい。
落ちこぼれ二人が決勝で激突――なんて展開はなかなか熱いが、あまりにも難関すぎるよなぁ。
「それじゃあお互い、全力で」
「はい、全力で」
クラフト、待たせたな。
成り上がりがここから始まるんだ。




