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力を小出しにするタイプの落ちこぼれ1

 

 この世界の魔法には〝一階級〟から〝十階級〟という、威力に応じたランクが設定されている。


 人によっては一階級が一番強いだろ派もいるかもしれないが、この世界では十階級が一番強い。


 いや、強いなんてもんじゃない、


 存命の魔法使いで十階級を使える人は一人しかいない。使えばそれこそ国一つ落とせるくらいやばいやつらしい。


 学生でいえば、せいぜい使えても五階級くらいだろうか。

 ちなみに〝魔装〟は五階級の魔法だ。


 一学年はまだ二階級の魔法までしか習っていないから、例外を除いて、一進一退のいい勝負が繰り広げられている。


 例外を除いて、は。


「『我、風を司りしクモスの子。破壊の風来たれ――カティス・トルネード!』」


 ゴゥ! というものすごい音と共に、ガラスの割れるような音が響く。そして、一つの試合が瞬く間に終わった。


 横たわるカマセーヌには見向きもせず、ツカツカとその場を後にするニーナ。正に圧倒的で一方的な試合だ。


 その試合に注目していた生徒は「おい今のなんだ?」とか「二階級魔法にあんなのないぜ」とか「カマセーヌ死んだんじゃないか?」などとひそひそ話をしている。


 カティス・トルネードは四階級の魔法。

 一学年でそれに対抗できる生徒がいるのだろうか。


「勝者 ニーナ・グリーン!」


 遅れて先生が手を挙げた。

 27組の生徒たちがわっとニーナに駆け寄る。

 ニーナは少し誇らしそうにしていた。


 ずっとああしていれば可愛い姉なのに。とは、口が裂けても言えないが、やはり実力主義者なだけあって、使う魔法も一学年のレベルを遥かに超えてるんだなぁと感じる。


 それ以前にカマセーヌが弱すぎてニーナの実力があんまり見られなかったのが残念すぎる。申し訳ないが、今後も名前を覚えられそうにない。


「クラフト君のお姉さんはすごく強いね」


 ヨハンが声をかけてくる。


「本人に言ってあげてください」


 場合によっては嫌味に聞こえる可能性もあるけど。


「僕、もっと強くなりたいよ、クラフト君。皆を守れるくらい強く……」


「そうですね。強くなるための一番の近道は、北生統の先輩たちに助言を求めることだと思います。すみません、偉そうに」


「偉そうだなんて! でも先輩かぁ、」


 俯くヨハン。

 北生統の先輩にはあの暴力巨漢(ヴィクター)もいるからなぁ。


「やっぱり僕だけじゃ心細いな。クラフト君も北生統、入ろうよ」


「え? 無理ですよ無理。ライオンの群れにうさぎを放り込むようなもんですよ」


 この世界にライオンやうさぎがいるのかどうかは知らんけどもだ。


「そっか……」


 と、ヨハン。


 どうやらその例えで伝わった様子。伝わったのはどこかちょっぴりムカつくが……例えたのは俺だしな。


「ヨハン! こっちでトリマの試合始まるわよ!」


 ガシッと、ヨハンの腕に抱きついたナナハが、そのままヨハンをずるずると連れて行く。


 あっかんべーをしてくる彼女をスルーしつつ、視線をまたニーナの方へと戻し――そして目が合った。


 ヨハンとの一部始終を見ていたのか、かなり不機嫌そう。俺の仕事はヨハンと近付くことなのにそれにキレられるのは理不尽なんだよなぁ。





 いよいよ俺の名前が呼ばれた。


 幸か不幸か、別の場所ではヨハンが試合をする予定になっている。恐らく俺たちの試合を見るギャラリーなど皆無だろう。


「くじ運良くて助かったぜ。英雄候補様に当たったら確定で黒星だもんな」


「ほんとですね」


 赤髪の生徒が笑いながら腕を回す。

 彼こそ俺の対戦相手。

 完全に舐めている様子が伺える。


「俺の魔力が尽きるまでにお前の防御を超えられれば勝ちってことだよな――まぁ生憎俺は火属性なんだよ、悪いな」


 相手はもちろん、クラフトが攻撃魔法を使えないことを知っている様子。


 それと、テンプレだが属性には相性がある。


 あえて全部はおさらいする必要もなさそうだが、簡単に言えば火は風に強い。この試合、属性で見れば相手が有利という事になる。


 ドーム内だから風は無いのか……まぁ風が無くても操れるものはあるけど。


「試合開始!」


 先生の声が聞こえた。

 明らかに遠かったので、たぶんヨハンの試合を観られる距離にいるのだろう。モブの立ち位置は辛いぜ。


「いくぜぇ!! 『我、火を司りし――』っか、っ、あ、え、?」


 目の前生徒が苦しそうに喉を掻き、


 そして、


 バリン! と、魔法結界が割れる。

 対戦相手が前のめりに倒れた。


「つんよいなこれ」


 もはや魔法での攻撃とも言えないが、これで勝てるなら魔力も大して使わずに戦える。単純に風を利用し空気を調整すれば呼吸できずに呪文を唱えられない、そしていずれは死――もとい戦闘不能になるのだから。


 風を空気として大きく捉える荒技。

 ファンタジーと科学の融合技である。


 一見して何もしてない様に見えるし、実際呪文もなにも唱えていないから気付く人いないんじゃないか? そりゃあ側から見れば不気味だろうけど。


 誰も観てないから歓声も起こらなければ先生のジャッジも聞こえん。記録はされてるはずだから、さっさと戻るか。


 澄まし顔でステージから降りると、


「……」


「げ、」


 そこにニーナが立っていた。


 眉間に皺を寄せ腕を組んで仁王立ち。

 なぜヨハンの試合を見ないんだこいつ。


「……なんか体調不良で倒れたっぽいですよ」


 ヘコヘコしながら一応言い訳っぽいことを言い残し、足早にヨハンの試合の方へと向かう。


 ニーナはしばらくそこから動かなかった。




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